見出し画像

【トレーニング日記】 トレコ 捻挫グセを肩から読み解くの巻

 トレコは左足首を捻挫しました。
 ただ捻挫したのではありません。軽い捻挫を一週間のうち、三度も繰り返しました。
 少し腫れがあり、内出血もしています。痛みはそこまで強くないのですが、歩行やジャンプで足首がぐらつくのを感じます。ほんのささいな小石を踏んだだけでも足首をひねりそうになり、ヒヤッとします。
 足首が安定しないためか、いつもの靴で少し歩いただけでも靴擦れがします。
「またやってしまった」
トレコは肩を落としました。これまでも、何度かこういうことがあったのです。
 水瓶座の宿命でしょうか。水瓶座に対応する体のパーツは〝ふくらはぎから足首〟だそうです。西洋医学を学んだトレコにはしっくりこない考え方ですが、変化の多い時期にこうも足首を捻挫することが続くと、「もしや?」と思わざるを得ないのです。
 小学校で集団無視にあったとき、部活で最上級生になったとき、恋人と別れたとき、初めて海外に行ったとき、そして、今、この時期。
 ちょうど、これまで取り組んできたことが一区切りついたところだったのです。寄せては返す期待と不安が荒波のように襲いかかり、なんにも起こってはいないはずの一日にグッタリとしている。ちょうど、そんなときです。だから思わざるを得ないのです。
「これも水瓶座の宿命か」と。
 だからといって手をこまねいているのではいけません。足首が不安定だとトレコが最も恐れる〝浮腫〟がやってくるのです。
 トレコの体には欠けているものが三つあります。ひとつは〝子宮〟もうひとつが〝卵巣〟そして最後に〝骨盤内のリンパ節〟です。
 あれはトレコが二十六歳のときでした。癌を見つけてくれたお医者さんがキレイに摘出してくれたのです。十年以上の時を経た今、体の変化にはずいぶん慣れましたが油断は禁物です。〝リンパ浮腫〟と〝腸閉塞〟のリスクは何十年経ってもつきまといます。
 その中でトレコが最も恐れているのは〝リンパ浮腫〟です。リンパが滞るとむくみが出るというのは有名ですが、トレコはそのリンパにメスを入れています。骨盤内のリンパ管につくリンパ節を全て取り除いたそうです。そのせいで、リンパ液の流れが悪くなり、下腹部より下のリンパ液を心臓に還す力がとても弱くなっています。
「むくんでるなぁ」と思うぐらいならいいのですが、ひどくなると象の足のように太くなり、皮膚は硬化します。そして強い痛みも伴うそうです。 手術後数年間のトレコも痛みを感じることが多々ありました。スキニージーンズや、ストッキングなど、股関節を少しでも締め付けるものを履くと、途端に腰から足にかけて重だるく痛みが出ました。あれからストッキングは履いていないのですが、スキニージーンズは欠かせません。最近では股関節の使い方を変えることでスキニージーンズを履いても痛みやむくみが出なくなりました。
 リンパ浮腫を予防するためにたくさんの注意書きが書かれた紙をもらいました。コタツや半身浴など、下半身だけが温まる行為は危険だそうです。他にも座りっぱなしや立ちっぱなし、下半身のケガなどもリンパ浮腫のリスクを高めます。〝禁忌事項〟だと、明確に書かれていました。
 医療用のストッキングももらいました。足の甲から太ももまでの長さの弾性ストッキングです。初めのうちはトレコも活用していたのですが、立ち座りの際に、膝の裏でストッキングが皺になり、その部分で生じる強い圧迫がむくみを助長することに気が付きました。トレコは最初の一ヶ月でストッキングをやめてしまいます。
 怪我に関しては、面白いことがわかりました。足首の捻挫などの深部組織の損傷よりも、皮膚表面の損傷の方が強くむくみます。面白いことに捻挫してパンパンに足が腫れたときよりも、わずかな擦り傷や虫刺されの方がこたえるのです。皮膚表面と深部組織では違うリンパ管が通っているとはいえ、異なる川の流れも最後は同じ海にたどり着くように、最終的にお腹の部分でそれぞれのリンパ管は合流するのに不思議だなぁと、トレコは思っています。
 最近はちょっとやそっとの傷ではむくまなくなったのですが、何が良かったのかなんてわかりません。だって、ありとあらゆることを試したのですから。ありとあらゆるトレーニングをし、ありとあらゆることに気をつけました。中には効果があったものもあれば、なかったものもあるのでしょう。相対的に良い方に傾いた、というだけの話です。
 それでもやはりむくみを避けられないときはあります。それが、足首の不安定性です。ハッキリとした理由はわかりません。ただ、グラグラを支えるためにたくさんの筋肉が緊張し、血管やリンパ管を圧迫してしまうのではないか、と考えています。柔らかな砂場に家を建てる無謀さと似ているのでしょうか。
 そして今、トレコの足首はグラグラです。少し歩いただけで足がむくみ、すぐさま寝転びたい気持ちに陥ります。
 かわいそうだと、手をこまねいてはいられません。考えるのです。
 トレコは鏡に自分を映し、そして驚きました。捻挫したのは左足首ですが、骨盤が左へぐわんと移動しているのです。それはちょうど、左足で片足重心をしているときのように、左に腰が逸れています。両足均等に体重を乗せているはずなのに、左の腰はくびれ、右の腰は寸胴です。
 捻挫をしてからというもの、左足の裏は外側にしか体重が乗っていないように感じていました。足の裏全体で地面を踏みしめたいのに、外へ外へと体重が逃げてしまいます。これだけ腰が左に逸れているのです。無理もないと、トレコは腑に落ちます。
 そしてトレコは考えました。

「肩のリハビリの賜物か?」

 トレコは右肩を脱臼しています。ずっと以前、バイクでコケて脱臼したのです。自力ではめた肩は未だに不安定性が残り、亜脱臼を幾度か繰り返していました。
 その肩が、最近調子を崩していて、トレコはリハビリに取り組んでいました。肩の前面や二の腕を鍛えたことで、内に巻き込んで猫背のようになっていた肩の位置に変化が起きました。肩が外へ開き、胸を張れるようになったのです。
 おかげで肩の調子は回復し、バレーボールをしているトレコはいいスパイクを打てるようになったのですが、ただひとつ、問題がありました。それは面倒くさがりだったことです。リハビリのためのトレーニングは右肩にしかしていませんでした。ごくたまに、気まぐれに左肩にも施すことはありましたが、右肩に対する熱量とは天と地ほどの差があります。

「右肩が開くようになった分、相対的に左肩が内巻きになっていたのではないか??」

トレコはそう考えます。
 右肩だけ外に開くと(胸を張るように)、体がひねられ、左肩が前に出ます。するとバランスを取るために腰は左に逸れ、体重が左足の外側に乗ります。
 右肩だけを調整したことで、このような変化が起こっていたのではなかろうか。そう思ったトレコはさっそく左肩のトレーニングを開始します。肩の前面と二の腕を鍛えるのです。正しく使えていることを確認し、何度か繰り返し、そしてもう一度鏡を見ます。
 トレコ自身も驚いてしまいました。腰のくびれが左右均等になっています。左足の裏の体重は真ん中に乗っています。きちんとしたトレーニングの結果は意外と早く出るものです。
 そしてつくづく思うのです。
「なんでもバランスが大事だなぁ」と。
 面白いことに、股関節を曲げる筋だけを鍛えたらお尻は垂れ、お尻だけを鍛えたら太ももは太くなります。
 両肩のバランスを取りアップデートしたトレコはまだ、外には出かけていませんが、足首のグラグラや、むくみにどんな変化が起こるのでしょうか。朝起きた足はスッキリとしていて、気分は上々です。
 同時に足首のケアについても考えねばなりません。足首を守ることが、水瓶座を守ることに繋がるのですから。


いいなと思ったら応援しよう!