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『強制終了、いつか再起動』 〜違法薬物に染まったら

こんにちは、ことろです。
今回は、『強制終了、いつか再起動』という小説を紹介したいと思います。

『強制終了、いつか再起動』は、著・吉野万理子、装画・有村佳奈の小説です。
3人の登場人物が主人公になり、物語が進んでいきます。
ヤングアダルト小説で、大麻や覚醒剤など違法薬物に関することがテーマとなっています。

主人公は、加地隆秋(かじ たかあき)。
中学生で、いかにも体育会系の体型をしているにも関わらず運動神経ゼロの男の子。父親の転勤で新しい学校に編入した。その際、レベルの高い学校の勉強についていくために家庭教師をつけてもらったが、その家庭教師に大麻を勧められて始めてしまう。

伊佐木周伍(いさき しゅうご)。
加地の転校先のクラスメイト。Youtubeで動画を投稿しており、声がいい加地をナレーションとカメラ役として誘う。憧れのYouTuberの人と繋がることができたものの、とあるオフ会でMDMAを勧められてしまう。

麻矢夕都希(まや ゆづき)。
加地の転校先のクラスメイト。数学が苦手で野球選手が好きな女の子。お弁当企画で伊佐木からYoutubeの動画作成に協力してくれと誘われ仲間になる。母親が違法薬物の使用で捕まり刑務所に入っていた経験を持つ。自身は二次元のキャラクターに恋愛感情を抱いている。


全国チェーン店のスーパーの店長になってまだ二年しか経っていないのに、新潟から東京本社へ転勤になった父についていく形で、加地も同じ系列の高蘭学園中学(通称蘭中)に転校になりました。
しかし、同じ系列の学校とはいえ授業の進み具合が違うらしく、レベルが高くてついていけません。おまけに、体育の授業でも運動神経ゼロを発揮して、クラスメイトからは失笑されています。転校して三ヶ月、居場所がありませんでした。

電車で二十五分、最寄駅から七分。住宅街の中にぽつんと建っている三階建てのマンションの三階が加地の家でした。
頭痛を装って体育の授業を抜けて早退したあと、家に帰るとお客さんが来ていました。安岡さんという加地の家庭教師です。安岡さんは頭のいい大学生で、父の職場の常務の紹介で知り合いました。常務の娘さんを今年見事、名門大学に合格させたそうです。
そんな敏腕家庭教師ですが、気遣いもよくできて、加地にとって東京に来てからの数少ない話し相手でした。
勉強しながら学校の愚痴を話していると、「今度の週末、ヒマ?」と言われます。安岡さんが通っている大学のキャンパスを見に来ないか? と誘われました。気分転換にどうか? と。中学がつまんないからといって、自分を閉じるなよ。卒業したらもっと広い世界があるんだからさ。きっとそう伝えようとしているんだ、と加地は思いました。最初は渋っていた加地でしたが、思い直して行くことにします。

当日、安岡さんが駅まで迎えに来てくれました。加地の家から大学までは電車で小一時間ほどかかります。
気温の高い日なので、みんな素足にサンダルを履いています。
大学の中を安岡さんに案内されながら見て回ると、なんだかみんな楽しそうに見えました。
「いろんな選択肢があるからな。サークル入って活動しまくってもいいし、バイトで金貯めて旅行してもいいし、なんなら勉強しまくったってかまわない」
だから、今は中学生活を頑張れ。そう言ってくれている気がしましたが、まともに答えるのは気恥ずかしくて、加地は茶化しながら話します。

しばらくして、安岡さんが「うち、寄ってくか?」と誘ってくれました。
まだ家に帰りたくなかった加地は、その誘いに飛びつきます。実は、安岡さんがどんな家に住んでいるのかも前々から気になっていたのでした。
母からもらったお金で、ジュースやお菓子を買っていきます。
路地裏を十分ほど歩いたところに、白いこぎれいなマンションがありました。エレベーター無しの四階に安岡さんの部屋があります。1LDKで部屋の中まで日差しがさしているため部屋が明るく見えます。
加地は先ほど買ったお菓子とジュースを出しながら、さっそくベッドの下を探り始めました。
「何やってんの」
安岡さんに聞かれて、ニッと笑います。
「エロ本探し。たとえばこういう箱の中」
加地は、雑誌が三冊ほど入りそうなプラスチックケースを引っ張り出しました。開けるな! と怒ってこないので蓋を開けると、そこにはガラス製の器がありました。
「何これ、ペンダント?」
貝殻のように一方が広がっていて、もう一方が狭まっています。両サイドに穴が空いているので、鎖を通せば首にかけられそうでした。でも、アクセサリーにしては大きい。安岡さんがくすくす笑いました。
「へぇ、ペンダントに見えるか」
「じゃあ、笛か? ぷーって吹くのかな」
よく見ると、もう一つ穴が空いているので、指の押さえ方次第で三種類くらいの音は出せるのかもしれません。
「違う。じゃあ、本当の使い方を教えてやるよ。誰にも言うなよ」
安岡さんが声を落とします。その秘密めいた口調を聞いて、加地は察しました。なるほど、エッチなことをするときに、使うものではないか?
派手に驚くとカッコ悪いから、何を見せられても平然としたふりをしよう。
そんなことを考えながら覗き込むと、安岡さんは、プラスチックのケースの底から、何かを取り出して、ガラスの穴に詰め始めます。苔色の何か。草のようですがもっと細かくて、粉にしては大きくて不揃い。
「何それ」
安岡さんは答えずに、それを穴がぴったり埋まるところまで、指で詰めます。
そして、ライターを取り出しました。
穴を埋めているその苔色のものに火をつけます。そして安岡さんは反対側の先端に口をつけて吸い込みました。ガラスを離してから、ふーっと息を吐く。
タバコか。
タバコに違いない。
必死にそう思い込もうとしている自分に気づきます。本当は違うと察している。頭の奥でアラームが鳴っている。二人の目が合いました。安岡さんは、加地の背後にかわいい猫でもいるかのように、こっちに向かって目を細めました。
「大麻」
「ああ、うん」
何を見せられても驚くまいと身構えていたため、聞き返さなかった加地。本当は頭の中を、いろんな言葉が浮かんでは消えていきます。
大麻、薬物、絶対ダメ、大麻は合法の国もある、白い粉、危険ドラッグ、覚せい剤、依存症……。
薬物なんて、どこか遠くの場所の話だと思っていました。だからよく知らなかった。覚せい剤と大麻の違いすら。これは白い粉ではなく、草を干したものっぽいから……さほど危険でもないのか?
「今、このパイプはおれ、使ってないんだよ。最近はさ、大麻リキッドっていう便利なもんができて、電子タバコで吸えるからさ。そっちのほうが持ち運びも楽だろ」
だろ、と言われても相槌の打ちようがない。
「でも、パイプも懐かしいなぁ。こっちのほうが、ゆっくり味わえる気がするな」
安岡さんは、パイプにしっかりと口を当てて吸い込み、そして、ふーっと煙を大きく吐きました。匂いが徐々に広がります。キャンプファイヤーのときに燃えていた薪を思い出しました。いや、もう少し癖があるかな? でも、別にうっとりするような香りでも、うげ、と吐きたくなるようなものでもありませんでした。

安岡さんは昔の話を始めます。
高三のときクイズ研究会の会長だった安岡さんは、高校クイズ日本選手権で埼玉代表になる夢を追いかけていました。仲間たちと毎日知識を頭に入れて早押しの練習もして。高校三年間の集大成。この日を目指す! という目標でした。しかし、安岡さんは重大なミスを犯します。エントリーの期限を忘れていたのです。自分が申し込まなきゃいけなかったのに、エントリーのことをすっかり忘れて、出場すら出来ませんでした。
「残念」
そう、加地は言いましたが、
「『残念』で笑ってすませてもらえたら、どんなによかっただろうな。仲間たちの凍りついた顔、一生忘れられないと思う」
安岡さんはその重みに耐えきれず、会長を後輩に譲り即引退しました。いや、引退したというより逃げたのです。今までほとんど挫折らしい挫折をしたことのない安岡さんは、自分のアイデンティティが崩れるような気がしました。
「そんなおれを救ってくれたもの。これ」
パイプを、額のあたりまで掲げています。
「学校が居心地わるくなるとさ、外のいろんな、今まで考えもしなかった場所に出入りするようになってさ。気がつくと、誰かに勧められてた」
「誰か」
「誰に勧められたかっていうのは、絶対に言わない。それがこの世界のルールだよ」
「ふうん」
「おかげで、おれは自分を取り戻せた、っていうのかな。『いっとき暗かったけど、元の安岡くんに戻ったね』って周りに言われたしさ」
「でも……危険性……みたいなこと、よく聞くけど」
「覚せい剤はな。あれはマジやばいらしい。でも、大麻は合法の国だってあるしさ。自分でうまくコントロールすれば。おれのどっか、壊れてる感じある?」
「ううん」
それが、不思議なのでした。安岡さんはいつだって快活そのものです。
「おまえもやってみる?」
安岡さんがパイプをこちらに差し出してきました。
加地は今まで法律に反したことは一度もやったことはありませんし、一生やることはないと思っていました。
今朝、家を出たときには、数時間後にこんなことが起きるなんて考えもしませんでした。
父の会社の偉い人が推薦してきた家庭教師。本当に有能で、僕の成績をじわじわ上げてくれている人。こういう人が普通に使っているなら、タバコや酒をちょっと試すのと、あまり違わないのではないか。
猛スピードで考えをめぐらせていたつもりでしたが、そこそこ時間が経っていたらしく、安岡さんに止められました。
「ま、やめとくか」
安岡さんはパイプを引っ込めました。それが、なぜだか名残惜しい。
「いや、でも」
「すーっとするけどな。まあ、悩みなく順調に生きてる人間には、必要のないものだよ」
思わせぶりな言葉でした。加地にはうまくいっていないことがたくさんある。それを知っていて、発せられたセリフでした。
体育の時間に、サッカーボールをパスしてきて、にやにやしてきたクラスメイトのことを思い出します。やつらが知らない世界を、ほんのちょっと試してみるというのはどうだろうか。偉そうな顔をされるたびに、「僕はおまえらが想像つかない世界を知ってるんだぜ」と心の中で切り返せたら、ざまあみろと思えるのではないか。
一回だけ。今日だけ。こんなチャンス、もう二度とないんだから。
加地は、つややかなガラスのパイプに向かって、手をゆっくりと伸ばしました。


こうして加地は、大麻の使用を始めてしまいました。
はじめは定期的に安岡さんの家に通い、吸わせてもらっていましたが、ある時からパイプと大麻をやると言われ、家で吸えるようになります。もちろんお金は渡さないといけないのですが、そこはお年玉貯金を崩して、どうやったら大麻を継続的に手に入れられるか考えるほど、加地は大麻にハマってしまっていました。

それと並行して伊佐木周伍のパートが進行していきます。
伊佐木はYoutubeで動画を投稿しており、毎日動画を撮ったりネタを探したり、忙しい日々を送っていました。
そんなときに加地が転校してきて、運動神経が悪いことも面白かったし、声がいいこともプラスして、なんとか自分のチャンネルに出てもらえないか、もしくは撮影の協力をしてもらえないかと考えていました。

加地の近くの席には麻矢夕都希もいて、麻矢の父親と伊佐木の母親が仕事で一緒になる機会があり、伊佐木は母親から麻矢について何か知ってることがあったら教えてと頼まれていました。知らないなら調べてこいとも。
お小遣いをもらえることを条件に麻矢のことを調べ始める伊佐木。
そこで席の近い加地も会話に入れながら、二人まとめて自分のYoutubeに誘うことになります。

麻矢には最初断られるものの、いつしか仲間になり、そして加地の様子がおかしいことにも二人は気づきはじめます。
本当は嘘なのですが、麻矢が自分の親戚にマトリ(麻薬取締官)がいるんだよね~と話したら、あきらかに動揺する加地。Youtubeの動画を撮ったり学校でも、ハイテンションのときとローテンションのときがあり、その落差が激しいことから、もしかして加地はなにか違法薬物をやっているのではないか? という疑問に行き着きます。

二人は仲間ではありましたが友達かと言われるとわからず、どこまでこの件に踏み込むか悩んでいました。
それでも、伊佐木は自分は友達だと思い、どうにか証拠を押さえようとします。
何気なく用事を作り、加地の家に遊びに行き、パイプや大麻そのものを見つけられないか。
伊佐木と麻矢は、家庭教師をしている安岡さんにも話をしていました。待ち伏せして、家庭教師の時間が終わって家を出てくるところを捕まえて、加地について相談したのです。
安岡さんは後日、加地を呼び出します。
普段の大麻の扱いを聞き、怒った安岡さんはもう大麻を渡さないし、お前はもう大麻をやめろと言われます。家に帰ったらトイレに大麻を流せ、もうここには二度と来るなとも言われます。加地の態度がどこかおかしかったら、家庭教師をやめるとも。
加地はしかたなく従うことにしました。


ですが、事件が起きます。
安岡さんに呼び出された翌日、大麻をトイレに流そうかと思いましたが、もったいなく思って捨てられませんでした。
あと四回分あるから、それを全部吸って、もうやめるか、別のルートを探して続けるか考えてもいいのではないか? 
そうです、加地はもう自分では抜けられないところまできていました。

大麻を吸いはじめると、伊佐木から連絡が入ります。
今日はYoutubeの動画を撮る日でした。
そんなことをすっかり忘れていた加地は、大麻を吸いながら「あと一時間で行くよ」と返事をします。大麻がなくなるまでゆっくり吸いたかった加地は三十分で着くところを一時間に増やしました。
「カジんとこ親いるの?」
「二人とも出かけてる」
「じゃ、また後で連絡する」
今日は何の撮影だっけと考えながら、大麻のせいでふわふわと自分に都合のいい想像を膨らませます。
とりあえずジーンズに履き替えようとパジャマのズボンを脱ぎます。
ジーンズを探しているうちに、また伊佐木から連絡が入ります。
「今、おまえのマンションの下まで来た」
意味がわからない。のんきにメッセージを打っている場合ではないと気づいて、電話をかけます。
「え、なんでマンションまで来た?」
「そっちが一時間かかるなら、こっちが三十分で行くほうが効率いいだろ?」
加地としては数分しか経ってないと思っていただけに三十分経っていたことにびっくりして、急いで準備をしなくてはならなくなりました。
「うちの人いないなら、キッチン貸してくれよ。麻矢もいるよ」
「ちょっと待て。そこにいて」
まずい。絶対にまずい。加地は急いで大麻を集めてトイレに捨てました。
きっと撮影ではない。僕の部屋に来るのが目的だ。踏み込まれたとして、大麻の香りに気づかれることあるのだろうか。焚き木のような、素朴な匂いだと思っている。けれど、マトリが親戚にいる麻矢ならわかるのかもしれない。もっともわかったとしても、もう現物はない。所持してなければ、逮捕されないはずだ。
これでもうだいじょうぶ。
加地は、ガラス戸を全開にしました。ベランダに出て下を見ると、伊佐木と麻矢がエントランス前の芝生に立っていました。カメラやパソコンなどを抱えています。
なんだ。探りに来たのではない。本当に撮影の場所がほしかっただけなんだ。
加地は二人をぎゅっと抱きしめたくなりました。
「おーい」
加地が手を振ると、麻矢が気づきます。
「そこ、おまえの部屋?」
伊佐木が声をかけます。
「そう」
ここに来させてはいけない。じゃあ、自分が行こう。
地面がすぐ近くに見えました。
あれ、三階って、思ったより低いんだな。引っ越してからずっと、手すりまでは来たことありませんでした。
麻矢が口に手を当てて何か言っていますが、加地には聞こえません。
伊佐木が手招きしている。その手に誘われるように、加地は身を乗り出しました。
着地できる、そう思いました。
「今そっち行く」
手すりを乗り越えます。
「飛びまーす」
そのまま加地は、地面に落ちていきました。


幸い命に別状はなく、足の手術をしてリハビリをすれば治るようでしたが、実は悪質なYoutuberにより落下事故の様子を動画に撮られてアップされており、加地の落下事故とドラッグに関することの噂は学校でもちきりとなってしまいました。学校だけではないかもしれません。全世界に発信できるわけですから、その地域の人が加地を知らなくても加地を特定し、誹謗中傷をすることはできます。やっと伊佐木や麻矢という居場所ができたのに、加地は学校にいられなくなりました。

ちょうど夏休みに入る頃だったので、一旦学校へは通わなくて済むものの、その間にこの問題をどうするか考えなくてはいけませんでした。
安岡さんはアメリカに短期留学することになり(たぶん逃げたのだと思いますが)、家庭教師がいなくなってしまった加地は、勉強についていくことができません。もともと蘭中に通うことは無理が生じていたのですから、こうなった以上留まる必要はないのかもしれません。
学校に警察が来たり、家族会議をしたり、いろいろありましたが、結局加地は転校することになりました。


さて、加地は大麻をやめつづけることができるのでしょうか?
この後も伊佐木のMDMA事件があったり、麻矢の母親による自身の体験を話す場面があったり、いかに違法薬物が身近にあるかということを作中で語られています。

最後は『MOVIE甲子園』というものに応募するため十五分間のショートムービーを作ることになったのですが、そのテーマを違法薬物にすることにしました。
麻矢が主人公で違法薬物に手を染める女の子、加地が主人公のことが好きだったために止めに入ったり叱責したりする男の子、伊佐木が主人公の味方をする男の子の役で、てっきり加地が主人公で違法薬物に手を染める役をするのかと思いきや、それを止めに入る役回りにすることで、自分の中の大麻に負けそうな気持ちを抑える経験を作ろうと伊佐木が考えたのだと思います。
加地の演じる男の子は、主人公が違法薬物をするきっかけになった先輩に呼び出され、主人公に違法薬物をやめさせたいなら代わりにあんたが大麻を吸引しろと脅され、ピンチのときに伊佐木が演じる男の子が割って入って救われる。主人公は大麻を捨て、三人はずっと友達でいようと約束する、というストーリーです。

撮影は二週間で完了しなくてはならず、忙しい日々が始まりました。雨が降ったり、麻矢が美容院に行ってしまい絵が繋がらなくなったりとトラブルはありましたが、なんとかラストシーンまでこぎつけます。
最後はこう叫びます。
「わたしを社会から追い出さないでください。十五歳で、『あいつの人生終わった』と言われても、生き続けていくしかないんです。どうか、居場所をください。やり直させてほしい」
これは加地の言葉かもしれません。
ショートムービーのための台本ですが、加地はどんな気持ちでこの叫びを聞いていたのでしょう。

しかし、加地にも大事な役目があります。主人公がこう叫んでも誰も振り向いてくれない中、加地の役の男の子だけがゆっくりと振り返り、主人公の声が聞こえたという演出をするのです。主人公のことを、信じていたのに最悪だと糾弾していた男の子でしたが、最後には主人公の声が届く。糾弾していたからこそ届いたのかもしれません。たった一人だけでも、その声が届いたことで主人公も歩いていけるのではないか。
そうなると、加地にとっても、少なくとも伊佐木や麻矢がいてくれます。麻矢の母親も、違法薬物に染まってしまった先輩として味方してくれますし、そういう友人がいることは違法薬物を一生やめつづけるためには必要なことだと思います。


今やSNSで麻薬の売買が行われ、今作のように中学生が犯罪に手を染めることも珍しくなくなってしまいました。
海外への旅行中に、知らない間に密輸の片棒を担がされていたというケースもあるようです。国によっては死刑制度もあるようですから、知らなかったでは済まされません。
私は一度も現物と出会ったことはありませんが、向精神薬も違法薬物の中に入るとするならば精神科に通っているので身近な問題です。

授業などでいくら学んだとしても、今作のように知りながら手を染めることもあるので、意識の低下が進んでいるのがわかります。
ちょっとだけなら、今日だけなら、と手を染めて、一生を台無しにする。それを避けなければいけないと同時に、手を染めてしまった人々を切り捨てるのではなく、更生させる社会を作っていくこと、理解し見守っていくことも大切なのだということを学びました。
孤独な戦いかもしれませんが、一生触れない・やめつづけるためにも、私ももっと違法薬物について勉強しなければいけないなと思います。
本の終わりに、中学生の薬物使用率のグラフと参考文献などが載っているので、勉強するのに良いきっかけになると思います。


長くなってしまいました。
いかがでしたでしょうか?
ヤングアダルト作品として良い物語だったと思います。
中学生や高校生が実際にこの本を手に取って、読んでみて、少しでも多くの人が違法薬物を使用しないことを願っています。

それではまた、
次の本でお会いしましょう~!


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