ドラマチックとは何ぞや

「あの名刑事が、完全犯罪の謎に挑む!!」
みたいなドラマとか、
「東京都民全てが人質!! ラスト10分、驚愕のどんでん返しが!!」
なんて感じで宣伝されてる映画とか、「ハラハラドキドキ!」の作品も、もちろんドラマチックだと思います。

でも、「事件だ!」みたいな出来事が起きなくても、ドラマチックな作品、ドラマチックなシーンって、あると思うんですよね。

例えば私の好きな作品で言うと、山田太一さん脚本の連続ドラマ『ありふれた奇跡』。
主人公の青年・翔太は加奈という女性と知り合って、少しずつ距離を縮めて行き、冬のある日、喫茶店で待ち合わせをします。そこはコーヒー一杯千何百円とかする高級なお店。
確か翔太の方がちょっと遅れて来て、二人はあれこれ話をするんだけど、途中で加奈が、ずっと気になってたことを尋ねるんです。
「コート、どうして脱がないの?」
翔太はお店に入って来てからずっと、ダッフルコートを着たまま。
加奈に訳を尋ねられて、ちょっとためらった後、彼はやっとコートを脱ぎます。
下は作業着姿。翔太は、祖父が経営する左官屋で職人として働いているんです。
左官の仕事といっても、「伝統の技」とか「匠」とか、そういう格好のいい感じじゃありません。ビル工事の下請けで、ひたすら壁にセメントを塗るような地道な仕事で、一日働くと作業着は埃まみれ。

翔太は、加奈と親しくなるほど「自分じゃ、彼女とつり合いが取れてないんじゃないか?」と思うようになっていました。加奈のことを「いいところのお嬢さん」だと感じているし、コンプレックスも色々と抱えているのです。
だからこそ、これまでは加奈に対してちょっと背伸びをして接していました。
そんな彼が、思い切って「本当の自分」を加奈に見てもらおうと決めた。その手段として、今日は仕事後の汚れた作業着姿でやって来たのです。
作業着で来た訳を一生懸命に話す翔太と、それを聞き入っている加奈。
このシーンが、本当にドラマチックで……。

「起きている出来事」としては、友達以上恋人未満ぐらいの男女が話をしているだけなんだけど、この決断をするまでの翔太の迷いや葛藤が、観ている私にも自分のことみたいに切実に感じられるんですよね。
加奈も、自分をさらけ出してくれた翔太への気持ちがどんどん深まっているのが伝わってきて……。
こういう「人の心が大きく変化する様」を目の当たりにする瞬間って、日常生活には、そうそうないと思うんです。
だからこそ、そういうシーンが「難事件解決!」や「大どんでん返し!」に負けないぐらいドラマチックに感じるんじゃないかと思います。

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