自作落語台本『ゆとり~マートへようこそ』
noteでも何度かお知らせしていました『第一回 創作落語の会』にお越しいただいたお客様から、
「当日、口演された『ゆとり~マートへようこそ』の台本を読んでみたい」
とリクエストをいただきましたので、中川作の原稿を投稿します。
書いてから四年ぐらい経っているので、少々古い感じが否めませんが、その辺はご了承いただければと……。
因みに、同じく自作の落語台本『お友達になりたい!』もnoteに投稿してあります。
二席とも冒頭に書いてある「マクラ」というのは、噺の前フリ的な部分を指す言葉です。
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新作落語『ゆとり~マートへようこそ』 作:中川千英子
(マクラ)先日、本屋に行きましたら変わったタイトルの本がありました。『ゆとり世代が職場に来たら読む本』。
こういう本が出回っていることから考えましても、いわゆる“ゆとり世代”の若者たちに、職場の上司たちが戸惑っていることがうかがえます。
「落ちこぼれをなくそう」「子供の個性を尊重しよう」というスローガンのもとに実施されていたわけですが、近ごろはゆとり世代の若者の想定外の行動に、翻弄される上司や先輩も、少なくないようです。
店長「いらっしゃいませ! ゆとり~マートへようこそ!」
男性客「すみません、デジカメで撮った写真をプリントしたいんですけど」
店長「写真のプリント、でございますか……」
男性客「あれ? できないんですか? ゆとり~マートでできるって、聞いたんだけどなぁ」
店長「ええとですね……」
ウォン「(中国語訛りの日本語で)店長~!こっちはワタシが対応しますだから、店長はレジお願いしますぅー」
店長「ああ、ウォンさん。それじゃよろしくね」
ウォン「お客様ぁ、写真プリントはこのコピー機でできますだから! 画面通り操作すれば大丈夫でございまぁーす」
男性客「ああ、なるほどね、ありがとう」
困っていた店長に助けてくれたのは、中国人アルバイトのウォンさん。バイト歴四年のベテランで、店長の右腕です。
店長「助かったよ。ウォンさん。本社がどんどん新しいサービス始めるもんだから、私みたいなオジサンは付いていけなくてねぇ」
ウォン「(一転して流暢な日本語になって)店長、礼には及びません。店員として当然の責務を果たしたまでです」
店長「ウォンさんさあ、そんなに日本語うまいんだから、お客さんの前でだけ片言のふりすることないんじゃない?」
ウォン「それは前もご説明しましたよね? 片言のふりは僕なりのセイフティーネットです。モンスタークレーマーと呼ばれる、理不尽な要求をする顧客でも、日本語があまり通じないと思えば、それほど無茶は言って来ないものなんですよ」
店長「そういうもんかねぇ」
ウォン「そんな他人事みたいに(呆れてため息)」
店長「やだなぁ、ウォンさん。そんな怖い顔しないでよ」
ウォン「やはり僕は、今まで店長に甘過ぎたようです。この際、はっきり言わせていただきましょう。店長は、あらゆる面において、危機管理の意識が低すぎます!」
店長「えっ、そう?」
ウォン「いいですか? 僕がこのゆとり~マートでバイトをするのは今日が最後です。無事に留学期間を終えて、明日には中国に帰るんですよ?」
店長「はい、存じております」
ウォン「分かってるなら、どうしてさっさと代わりのバイトを雇わないんですか? 僕の代わりがいなかったら、店が回って行かないでしょう?」
店長「それはまぁ、そうなんだけど……」
ウォン「大体店長は、えり好みをし過ぎなんですよ! 『この店では、絶対にゆとり世代は雇わない』なんて、そんなわがままが通用すると本気で思ってるんですか?」
店長「そう言うけどねぇ、私、彼らとは、うまくやってく自信がないんだよ」
ウォン「ゆとり~マートがゆとり世代を雇わないなんて、冗談にもなりませんよ」
店長「私は一介の店長だもの! 本社が決めた店の名前に責任なんて持てないよ! 大体さぁ、ゆとり世代がどんな連中か、ウォンさん、わかってる? ゆとり教育ってのはね、『競争や順位付けを止めて、子供たちをのびのび育てよう』ってことで、運動会のかけっこで、子供たちにお互いに手を繋がせて一緒にゴールさせたりしてたっていうんだよ?」
ウォン「ああ、そういう話、聞いたことはありますけど」
店長「そうやって甘やかされてきたせいなんだろうねえ、やたらに自信満々で上から目線。なのにちょっと叱るとすぐに落ち込むし」
ウォン「店長は、彼らに悪い先入観を持ち過ぎてますよ。ゆとり世代にだってちゃんと長所もあるんですからね」
店長「本当にぃ~? 例えばどんな?」
ウォン「例えば、彼らは同世代の仲間との絆をとても大切にします。子供の頃から競い合わされることが少なかった分、お互いに助け合おうという気持ちが強いようですね」
店長「そうなのぉ~?」
ウォン「とにかく、店長には荒療治が必要です! 実は、僕の友人にゆとり世代の特徴を完璧に兼ね備えた、『ゆとり界十年に一人の逸材』と呼ばれる青年がいましてね。彼に今晩からここでバイトするよう頼んでおきました」
店長「えっ、私に断わりもなく?」
ウォン「店長が新人を見つけておかないから、今日の深夜1時からのシフトが埋まってないでしょう? 彼には、その時間から出勤するように言ってあります。ああ、そんなことを言っているうちに、もうこんな時間! それじゃあ私は上がらせていただきます。再見(ツァイチェン)!」
店長「あっ、ちょっとウォンさん! ……ああ、行っちゃった」
時間が流れて午前1時。一人のゆとり青年が、ゆとり~マートに……現れません。初日から遅刻かと、店長がカリカリしていますと、午前2時を過ぎたころに、金髪に鼻ピアスの青年がやって来ました。
田村「チィーッス。店長います?」
店長「店長は私ですが?」
田村「俺、ウォンさんにスカウトされてきたんスけど」
店長「スカウト? ああ、君が……。ウォンさんからは、1時に来るって聞いてたんだけどね!」
田村「あ~、それには深い訳があるんスけど、ま、こんなとこで立ち話もなんだし、どっか座りません?」
店長「(呟く)これは、予想以上の強敵だな……」
田村「は? なんスか?」
店長「と、とにかく奥の事務所で話を聞こう」
田村「(事務所の椅子に座り、店長の前で紙をヒラヒラさせて)はい、これ」
店長「これは……ああ、履歴書か」
田村「俺的には、時間通りに来る気でいたんスけど、うち出る直前に、『一応、履歴書的なヤツ持ってった方がいいんじゃね?』とか思って、速攻でこれ用意してきたんスよ」
店長「つまり、それが遅刻の原因ということだね?」
田村「えぇっ!? 店長的には俺、遅刻したことになるんスか?俺的にはめっちゃ気ぃ、利かせた感じなんスけど!」
店長「君ねえ! そんな言い訳が通ると思ってるの? それにその『俺的には~』だの、『気ぃ、利かせた感じ』だのって喋り方! 私はそういうのが大嫌いなんだ!」
田村「えっ(怯んで絶句)」
店長「この履歴書だってふざけてるよ! なんで顔写真のところにプリクラが貼ってあるんだ? 画像が修正され過ぎて実物の君とまるで別人じゃないか! 肌は妙にツルツルだし、目がパッチリし過ぎて宇宙人みたいだし!」
田村「プリクラは普通にそうなるから、俺のせいじゃないし!」
店長「大体、君の名前! こりゃ一体何て読むんだ?田村……」
田村「ラッキーっす」
店長「へ!? ラッキー!? 楽しいという字と、気持ちの気と書いて、ラッキー!? なるほど、これが噂に聞くキラキラネームというヤツか! それで経歴は……高校卒業から二年間職歴なし。要するに、ニートだな」
田村「ニートじゃないっス! 俺は今、起業準備中っス!」
店長「起業って君、一体何やろうっていうんだ?」
田村「それは、今、探してる最中なんで」
店長「はぁ?」
田村「だからー、自分が本気で打ち込めることで、社会の役にも立つことって何かなぁって今、探してるところなんスよ!」
店長「あ~、君らがよく言う“自分探し”ってヤツね。ま、私に言わせれば、働かずにぶらぶらしてたい輩の単なる言い訳だけどね!」
田村「(ベソをかいて)あの……俺、もう帰っていいっスか?」
店長「えっ?」
田村「マジでもう、心折れた感じなんでぇ。店長のパワハラに耐えられない感じなんでぇ」
店長「パワハラ? なんだよ。さっきまであんなに自信満々だったくせに!」
田村「とにかく帰ります!……あっ、因みに言っとくと、うちのパパ、ゆとり~マート本社のCEOなんで」
店長「し、CEO!?……って、予防接種だっけ?」
田村「それはBCG! CEOは最高経営責任者!」
店長「最高経営……ええ~っ!! じゃあ君は、ゆとり~マート経営トップの御曹司様?」
田村「ま、そういう感じっス」
店長「それは君……世が世なら、お殿様のお世継ぎってことじゃないか!」
田村「それはちょっと意味わかんないスけど」
店長「やんごとなき若君が、なんでわざわざ、こんな場末の店でバイトを?」
田村「だってウォンさんに頼まれたし。俺的には起業するって決めてるけど、もしそっちがうまく行かなかったらパパの後継ぐことになるから、今から色々知っとくのもいいかな~って」
店長「なるほどぉ~。さすがは御曹司! 思慮深くていらっしゃる! そういうことでしたら、ぜひともうちの店でアルバイトなさってくださいませ!」
田村「でも店長、さっき俺のこと、非常識とか言ったじゃん! キラキラネームの、イタい自分探し野郎だって!」
店長「滅相もない! そんなことは申しておりません!さ、こちらが制服でございます。どうぞお召しください」
店長「(店内に移動して)若、こちらがレジでございます」
田村「見ればわかる。っていうか、その“若”っていうの止めてくんない?」
店長「さようですか。ではどのようにお呼びすれば?」
田村「フツーに名前でいいじゃん」
店長「ええと、それでは、田村様」
田村「それは堅苦しいってぇ~。“タムラッキー”って呼んでいいよ」
店長「タ、タムラッキー!?」
田村「俺のあだ名。田村ラッキーを略して、タムラッキー」
店長「一文字しか、略せてませんね」
田村「は?」
店長「いえ、何でもございません! では、お言葉に甘えて……タムラッキー」
田村「なんだよ、モチヅッキー」
店長「は?」
田村「店長の苗字、望月だろ? 名札に書いてあるじゃん」
店長「おっしゃる通りでございます」
田村「だからモチヅッキ―。なんか可愛くない?」
店長「これはありがたき幸せ! タムラッキーとモチヅッキ―。大変ゴロが宜しゅうございますね。なにやら名コンビの予感がしてまいりました」
田村「そんなことより、早く仕事教えてよ」
店長「かしこまりました! あっ、ちょうどあちらのお客様がレジに来られるようですね。私が対応しますのでご覧になっていてください。(客に)いらっしゃいませ! ポイントカードはお持ちでしょうか? お預かりします。(商品のバーコードを読み取って)540円でございます。はい、ちょうどいただきます。ポイントカードとレシートのお返しです。ありがとうございました。……(田村に)といったところでございます」
田村「わかった。次、俺やってみる」
店長「では一点だけ、追加でご説明させてください。ポイントカードをお持ちでない方の場合は、レジのこちらのボタンでお客様の性別を入力していただけますか? あとはおおよその年齢ですね。このように20代、30代といったボタンがありますので、お客様の見た目で判断していただいて結構です」
田村「へ~、こんなの入力してんだ」
店長「こちらデータは、本社に届きまして、性別、年代別の人気商品の分析に使われております。ポイントカードをお持ちの方は、カードに情報が登録されていますので、私どもが入力する必要はございません」
田村「なるほどね~。じゃ、後は俺に任せといて」
店長「一応、私もそちらに控えておりますので」
田村「OK~。あっ、いらっしゃいませ!」
店長「(小声で)大丈夫かなぁ……おっ、ちゃんとポイントカード持ってるか聞けたじゃないか。そうそう、持ってない時はレジの性別ボタンを……ん?タムラッキーが固まってるぞ。どうした?……うわっ、まずい! こういう時に限って、オジサンだかオバサンだか分かんないお客が来ちゃったよ~。あのキツいパーマ、オバサンパーマといえばオバサンパーマだし、オジサンのパンチパーマといえばパンチパーマ。やけに派手なセーターも、巣鴨の婦人服屋で売ってそうにも見えるけど、昭和のプロ野球選手風ファッションに見えなくもない……。ああ、ダメだよ、タムラッキー! お客様の顔、そんな穴が開く程見つめちゃ! 頼むからさ、『オジサンですか? オバサンですか?』なんて訊かないでくれよぉ!」
田村「ちょっと教えてほしいんスけど……」
店長「あ~、ダメダメ、ダメだってば!」
田村「50代っスか? 60代っスか?」
店長「年齢訊いちゃう!? それはそれで失礼だよ!」
客「アタシ? まだ38だけど」
店長「えぇ~!!?? 30代には見えないなぁ!」
客「ちょっとアンタ! ずいぶん失礼なこと言ってくれるじゃない!」
店長「ああっ! し、失礼しました! あんまり驚いたものでつい、独り言が大声になってしまいまして」
客「何よ、この店! 二度と来ないわよっ!!」
田村「あ~あ。ダメじゃん、モチヅッキー。お客さん怒らせちゃ」
店長「ううっ、返す言葉もございません……。(店長のポケットで携帯電話が鳴る。)はい、もしもし。なんだよ、仕事中に。……えっ、そんな、いきなり怒鳴るなよ」
田村「どうしたの? モチヅッキー」
店長「ちょっと、妻から電話でして。(電話に向かって)えっ? 冷蔵庫にあったプリン? ああ、あれなら私が食べた……そ、そんなに怒鳴ることないだろ。……えっ? 今すぐ持ってこないと離婚? わかった、わかりましたよ。(電話を切って、深いため息)はぁ……」
田村「なんか、大変そうだね~」
店長「お聞きになった通りの事情なので、2、3分、店番をお願いしていいでしょうか? 私の自宅、すぐそこですので。もう夜中の三時ですし、お客様もめったにいらっしゃらないと思いますので」
田村「OK~、いってらっしゃ~い。………それにしても、(あくびまじりで)この時間、ホントに暇なんだなぁ。お客さん、全然来ないじゃん」
店内放送DJ「ゆとり~マート・ミッドナイトミュージック! この時間は2003年のヒット曲をお届けしています!」
田村「そうそう、コンビニって、こういうオリジナルのラジオ番組みたいのが流れてるんだよな~。2003年のヒット曲かぁ。どんなのがあったっけ?」
有線放送「風の中のすーばるぅ~♪」
田村「あっ、中島みゆきの『地上の星』! (ノリノリで歌い始める。)つばめよぉ~高い空からぁ~♪ 教えて……」
強盗「おい! 静かにしろ! (田村にナイフを向けて)レジの金、全部こっちによこせ!」
田村「うわっ、ナ、ナイフだ! どうしよう! コンビニ強盗が来ちゃった!」
強盗「おい、さっさとしろ!」
田村「えっ、えっと、レ、レジの開け方がわかんないんスよ!」
強盗「下手な言い訳してんじゃねえぞ!」
田村「(半ベソで)俺、新人だし! 強盗が来た時のマニュアルなんて、まだモチヅッキ―に習ってないし!」
強盗「訳のわかんねえこと言ってんじゃねえ!(ナイフを突き出して)とっととしろ!」
田村「わわわわ、お願いだから怒鳴らないで! お金がほしいなら、もっと応援してくれないと! ゆとり世代はね、褒められると伸びるんだから! ええと、さっきのオジサンみたいなオバサンみたいなお客さんが来た時は、どうやってレジ開けたんだっけ?……そうだ! お客さんが持ってきた商品のバーコードをピッって読み取ったら、レジがパカッと開いたんだ! (強盗に)あの、何でもいいんで、商品買ってください!」
強盗「お前、あんまり人のこと舐めてると承知しねえぞ!」
田村「そんなんじゃないッス! 何か買ってくれなきゃレジが開けられないんス!」
強盗「ったく、面倒臭え店だなあ! だったら、ほら、ガリガリくん一本買ってやるよ!」
田村「ありがとうございます!(バーコードを読み取って)ガリガリくん70円に消費税8%がつきまして、75円です!」
強盗「75円? 確か、細かいのがポケットに……(震える手で金を差し出す)」
田村「……あの、強盗さん」
強盗「なんだよ! ポイントカードなら持ってねえよ!」
田村「そうじゃなくて!……強盗さんって、ホントはこんなこと、したくないんじゃないっスか?」
強盗「えっ……」
田村「だって、よく見たら、そんなダサい眼鏡かけて今どき七三分けで、真面目そうだし、ナイフ持ってわめいたりとか、全然似合ってないっスよね。年も、俺と同じぐらいじゃないんスか? よかったら、なんで強盗なんかする気になったか、話、聞きますけど」
強盗「うるせえ! わかった風な口利いてんじゃねえ!(商品棚をなぎ倒しながら)お前に俺の気持ちなんかわかりっこねえ! お前は、こうやって立派にコンビニで働いてんじゃねえか! 俺なんかなあ、どこ勤めても『やっぱりゆとり世代は使えない』とか言われて、すぐに首切られて、人生行きづまってんだよ! 大体、世間の奴らはすぐに『ゆとり、ゆとり』ってバカにするけど、俺らが好き好んでゆとり教育受けたわけじゃねえよなあ? かけっこで友達と手つないでゴールしたのも、円周率を『3.14』じゃなくて『およそ3』って習ったのも、全部大人が決めたことじゃねえか!」
田村「わかる! わかるよ、その気持ち! 勝手にゆとり教育しといて、社会に出たとたんに『使えない』とか言われてさ、ホント意味わかんないよな!」
その時、小さな奇跡が起きました。店内放送で、2003年最大のヒット曲が流れ始めたのです。
店内放送「花屋の店先に並んだ~ いろんな花を見ていた~♪」
田村「懐かしいよな、この曲。俺たち小学生ん時さ、いつも先生が言ってくれたじゃん。あなたたちはみんな、世界に一つだけの花なんだって。なあ、強盗くん。自分と人を比べて落ち込むことなんてない! 君には、君にしかない、すばらしい個性があるんだから! ほら、一緒に歌おうよ! 『ナンバーワンにならなくてもいい~♪』」
強盗「(ノせられて歌う)もともと特別なオンリ~ワーン♪」
田村「その通りだよ! 俺たちは一人一人、特別なオンリーワンなんだ!」
強盗「本当に、そう思うか?」
田村「ああ、もちろんさ!」
強盗「ううっ……(へたり込んで泣く)うわぁ~ん!」
田村「もう泣かないで。とりあえず、今日から君も再スタートってことで、この店で一緒に働けばいいじゃん。大した店じゃないけど、仲間同士、あだ名で呼び合えるような和気あいあいとした職場だし、これからのキャリアアップの踏み台って考えれば悪くはないと思うんだ」
強盗「そっか。じゃあ、俺も一緒にやってみる!」
田村「よし! そうと決まったら、ここ片付けよう。モチヅッキーに君が強盗だったってバレたら、いろいろ面倒だし」
友情で結ばれた二人は、力を合わせて店内を片付けました。ところが、ここでタムラッキーが大問題に気づきます
田村「あれ? さっきのナイフは?」
強盗「えっと、どっか行っちゃった」
田村「ヤバいよ、それ。モチヅッキー帰ってきてナイフなんか見つけたら、大騒ぎになるじゃん! 急いで捜さないと!」
二人は這いつくばってナイフを捜します。ところが、なかなか見つからない。そうするうちに、店長が帰ってまいりました。
店長「いやいや、すっかり遅くなって申し訳ありません! 妻の怒りがなかなか収まりませんで……あれ? どうしたんです、タムラッキー。お客さんと一緒に床に這いつくばったりして。何か、捜し物ですか?」
田村「ううん、気にしないでモチヅッキー。俺たちがやってるのは、ただの“自分探し”だから」
<了>
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