日原 藤花維柯 箏曲 古典の会Ⅱ
今をときめく演奏家であられる日原藤花維柯さんの古典の会。
前回2022年10月に開催され、今回は第二回になります。
今回は会場が銕仙会能楽研修所とのことで、とても楽しみに伺いました。
お箏(三味線も尺八も)は、特に古典の曲の場合は、能楽堂や木造の古民家で聴くのと、PAの入ったホールで聴くのとでは、全然表情が変わります。
マイクで拾いきれない、たくさんの音がなっています。
いや、音ではなく、もはや空気の振動かもしれません。
ホールでは物理的な音しか聞こえないのですが、木造の空間の中だと、その細やかな振動までもが伝わってきます。
プログラムは「オランダ万歳」「五段砧」「石橋」「浮舟」。
オランダ万歳の元となった「万歳」は、世の賑わいを歌ったおめでたい曲です。とても人気があったようで、いろんな方が編曲しながら、伝わってきているようです。
そのなかで、市浦検校(1804-30)が、三味線とは違う旋律のお箏の曲をつけたのですが、このお箏の調弦が、オルゴールに着想を得たと伝えられる独特の音の並び(オルゴール調子)のため「オランダ万歳」と呼ばれるそうです。
高音がキラキラと鳴り響くお箏で歌われるこの曲は、当時はとても斬新に聞こえたかもしれません。江戸時代の庶民の賑わいにモダンなきらびやかさが加わって、市浦検校の時代から200年経った今聴いても、とてもこころ弾む楽しい曲でした。
思わず一緒に「はまぐり♪はまぐり♪」と歌っている気分になり、江戸の風情を楽しんでしまいました。
五段砧は藤原道山さんの尺八との合奏
光崎検校が作曲したお箏の二重奏です。尺八とお箏で聴くのは初めてです。
低音が奏でる主旋律を、高音の替手が華やかに彩り、お箏の響き合いが美しい曲なのですが、今回は尺八が低音を、お箏が高音を担当されました。
尺八ならではの音色で、お箏の様々な手(弾き方)が表現されていて、それがまた高音のお箏と重なって、とても不思議で美しい幽玄の世界でした。
曲が終わり、音が消えた後、夢かうつつか幻か、会場が能楽堂であるせいか、なお一層、お能を見ていたような気持ちになりました。
石橋は藤本昭子さんの三弦との合奏
歌舞伎の舞踊曲が元になっている曲とのことで、全体的に華やかでゴージャスなおめでたい曲です。
軽やかな蝶が舞う様から始まり、クライマックスに向けて徐々に盛り上がってきます。
曲の世界に吸い込まれている内に、いつの間にか手に汗握っていました。
めでたく獅子が舞い終わると、いや、そこに獅子はいなくて、奏者がお二人いるだけ。
会場内の一同みな息もつけぬ長い沈黙がありました。
本当に素晴らしかったです。
最後は二十五絃箏のソロで浮舟
源氏物語の「浮舟」がテーマです。
浮舟の心の葛藤が、宇治川の流れに乗せて綴られます。
切なく哀しく苦しい想いが、時に静かに、時に激しく、胸に迫ります。
曲の世界にのめり込みすぎて、ちょっと辛くなった頃、ふと演奏している日原さんが目に入りました。
二十五絃箏はとても大きいので、楽器を抱えるような姿勢になります。
その姿が、なぜか先ほど聞いた石橋の、牡丹に戯れている獅子を思い起こさせました。
まるで、この大きな二十五絃箏と戯れているようです。
二十五絃箏もまたそれに応えて、多彩な音色で、私たちをこのドラマの世界へ引き込んでくれるかのようでした。
演奏された4曲いずれも、
最後の音が鳴り終わっても、余韻の響きが聞こえなくなっても、会場中のみなさまの心の中の余韻が長く続き、ようやく思い出したかのように沸き起こる拍手は、感嘆のため息まじり。
なんという贅沢な空間。
会場を出ると、表参道の街を散策するたくさんの人々。
多くの人はきっと、この一歩入った建物の中に、こんな極上空間があるのを知らない。
もったいないなあ、知って欲しいなあ、と思いながら、今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
*「さん」とお呼びするのは、大変失礼であると重々承知しておりますが、「客席からの眺め」では、「先生」方も、「さん」付けで表記させていただいております。何卒ご了承くださいませ。
箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://kotonoha-1tw1.glide.page/dl/d0a5f4
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会場 銕仙会能楽研修所
日時 2025年1月25日(土) 15:00
プログラム
オランダ万歳
歌・箏 日原 藤花維柯
五段砧
箏(高音) 日原 藤花維柯
尺八(低音) 藤原 道山
石橋
三弦 藤本 昭子
箏 日原 藤花維柯
浮舟 ―水激る(みなたぎる)宇治の川辺に― 二十五絃箏のための
廣瀬量平作曲 使用楽譜 野坂操壽解釈版
二十五絃箏 日原 藤花維柯