「現代邦楽名作選ー創作の軌跡ー」
2時と5時、内容の異なる2回公演。
両方欲張りたいところでしたが、5時の会に足を運びました。
興味深いプログラムはもちろん、今をときめく演奏家の皆さま方、あの方も、その方も、この方も聴ける!と気分が大いに盛り上がります。
チケットを取る前から楽しみにしていましたが、当日は期待以上、ものすごく面白かったです。
未知の世界である現代曲は、解説を先に読むか、あとで読むか悩みます。
今回は、まっさらな気持ちで聴いてみよう、と楽器の構成と演奏家の方のお名前のみチェックして、席に着きました。
タイトルと作曲者名も、聴いた後で確認しました。
以下、
独断と偏見で付けた「タイトル」、楽器の編成、個人的なイメージです。
そのあとに、正式なタイトルと作曲者名を挙げます。
お手元にパンフレットをお持ちの方がいらしたら、「正しい」曲解説をご確認くださいませ。
「神々の庭」
雅楽の編成+笙4菅、篳篥・龍笛各2菅
天から降り注ぐ笙の調べが、響く中、笛が加わり、徐々に天上の世界から地上に降りてくる。
少しずつ楽器が増えてきて、音が増えてきて、いろんな音が重なってくる。
だんだん、どんどん賑やかになってきて、ものすごく賑やかになってきて、
カオス。
天岩戸の前の大宴会のよう。
隠れている天照大神さまは、そっちのけでのどんちゃん騒ぎ。
どんちゃんどんちゃん、大騒ぎ。
で、仕切り直し。
天から降り注ぐ笙からやり直して、笛が加わり、徐々に楽器が増えてきて、今度は、美しい調和の世界。
地に秩序がもたらされる。
天照大神さま、ご登場の準備が相整いました。
『雅楽 秋庭歌』武満徹作曲 1973
「深い森」
尺八、箏
曲がいつ始まったのか分からない。気が付くと、かすかに聞こえてくる。
それは、尺八の音なのか息の音なのか。
呼吸をするのも憚れるほどの緊張感。
追って聞こえてくる箏も同じ。
深い深い、暗い森に吸い込まれていくよう。
言葉にならない心の震え。
小さくかすかに、でも激しいピアニッシモは、放出できないエネルギー。
どんどん密度を増して、辺りの闇が濃くなっていく。
いつともなく、曲が終わり、やっと息をする。
客席の全員で、息をする。
『海峡』佐藤聰明作曲1996
「岩を穿つ」
七絃琴、瑟
楽器はいずれも、古代の楽器を復元したもの。
現代のよく響く箏とは全く違う、素朴な、木そのものの音。
ポツポツとしたその音は、岩に落ちる水滴のよう。
1滴1滴、しずくが、岩にあたる。
1滴の重力は儚いけれど、しずくは落ち続け、いつしか岩にくぼみができてくる。
ちょっと音が変わる。
七絃琴と瑟とが、対話をしながら、それにあわせてしずくは落ち続け、またちょっと音が変わる。
無限のしずくは、いつの間にか岩を穿つ。
『水の相対』一柳慧作曲 1989
「ハイビィちゃんの旅」
笛、尺八、十七絃、打楽器
物語の始まりは沖縄。旅をするのは、水の妖精。
(ここでは、沖縄市水道局のキャラクター、ハイビィちゃんのお名前をお借りします。)
水の妖精ハイビィちゃんは、仲間を探して旅に出ます。
地元沖縄を出発して、南西に向かいます。
島では、ハイビィちゃんをお見送りする仲間達が、琉球音楽を奏でてくれます。
台湾、ベトナム、タイ、マレーシア。
行く先々で、仲間に出会い、地元の音楽で迎えてくれます。
インドネシアでは、ガムランに合わせて、みんなで踊ります。
ボルネオ島をぐるっと廻って、フィリピンを通過します。
楽しい旅はあっという間。太平洋を渡って帰ってきました。
海辺の貝達がシャラシャラ鳴って、ハイビィちゃんに「お帰り」と言っています。
東南アジアは、みんなご近所。水も、音楽も、繋がっているね。
でも、東南アジアだけではありません。
太平洋の向こうも、大陸の向こうも、みんなみんな、世界は繋がっています。
水も、音楽も。
『南溟暁歌』廣瀬量平作曲 1998
「語り部は」
語り、琵琶
盲目の僧が、夜語りに語ったお話。
琵琶は、ご本人の弾き語りで聴くことがほとんどですが、今回は、語りと琵琶、お二人での演奏。
語りは、声楽の方でしょうか。とても美しい声。
邦楽の語りとは違う発声に、怪しい気配に引き込まれ、トランス状態に陥ります。
語りはもちろん日本語で、それでストーリーは分かるのですが、日本語を話さない琵琶の、なんと雄弁なこと。
セリフにない言葉、セリフにできない言葉、その場の情景、空気、お芝居であればあるはずの舞台背景、大道具小道具一式、そのすべてが、一面の琵琶で語られます。
「語り部」はお二人の、どちらなのでしょう。
『奥浄瑠璃 琵琶に磨臼』間宮芳生作曲 1997
「組歌 春霞」
唄、三味線、箏、十七絃、笛、笙、胡弓、尺八、打楽器
いくつか(5つ?)の唄にそれぞれ曲が付いている。
言ってみれば、現代版「組歌」。
(組歌とは「既存の短い歌詞を複数組み合わせ、1曲にまとめて新たに作曲したもの(ウィキペディア)」)
雅やかな日本昔話。でもなんだか怪しげで、妖怪たちがうろうろしている。
1曲ごとに、演奏される楽器も曲の雰囲気も変わっていく。
唄も、それぞれの楽器も、ここぞと言うときにその音が放たれ、でも互いに反発するのではなく、淡く溶け込み、柔らかなベールに包まれる。
春霞のやわやわとした空気の中で、物と物との境界線がだんだん無くなり、物と人との境界も無くなっていく。
人も自然と溶け合って、自然の一部となる。
『風姿行雲』 大岡信撰歌 湯浅讓二作曲 1988
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
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会場 国立劇場小劇場
日時 2023年6月10日(土) 17:00
プログラム
秋庭歌[1973]武満徹作曲
笙 中村華子 篳篥 鈴木絵理 龍笛 伊﨑善之 高麗笛 角田眞美 琵琶 〆野護元 箏 中田大梧 鞨鼓 八木千暁 太鼓 笹本武志 鉦鼓 北村茉莉子
笙 三浦礼美 東野珠実 五月女愛 武智和子
篳篥 國本淑江 中村仁美
龍笛 平井裕子 田口和美
海峡[1996]佐藤聰明作曲
尺八 黒田鈴尊 箏 寺井結子
水の相対[1989]一柳慧作曲
七絃琴 吉澤延隆 瑟 木村麻耶
南溟暁歌[1998]廣瀬量平作曲
笛 藤舍推峰 尺八 小濱明人 十七絃 池上亜佐佳 打楽器 會田瑞樹
奥浄瑠璃 琵琶に磨臼[1997]間宮芳生
語り 松平敬 琵琶 久保田晶子
風姿行雲[1988]大岡信撰歌・湯浅讓二作曲
唄 杵屋巳三郎 杵屋佐喜 今藤政子 萩岡松柯
三味線 今藤長龍郎
箏 山野安珠美 森梓紗
十七絃 市川愼 マクイーン時田深山
笛 福原寛
笙 大塚淳平
胡弓 木場大輔
尺八 元永拓 小湊昭尚
打楽器 篠田浩美 望月左太助