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早春賦
故郷はまだそこかしこに雪があるだろう。
暦の上では春を迎えたとは言っても、まだまだ雪は降る。
そんな雪国で、もう少し季節が進む頃、祖母はよく「早春賦」を口遊んでいた。
「春は名のみの」から始まる歌を聞くと、春の陽射しに揺らめく川縁の猫柳を思い出す。
3番の歌詞にある
「春と聞かねば 知らでありしを 聞かばせかるる 胸の思いを」
本当にその通りだな、と心にしみ込んでくるようだ。
幼い頃、3番まで歌っていただろうか。
歌っていたとしても、今ほどに心に滲み入ることはなかったかもしれない。
春の気配がすると、なんとなく心が湧き立つ。
もうそこまで来てるのか、とそわそわしだす。
この時期になると、祖母の歌声がどこかから聞こえてくるようだ。