条件世界{一章、あらゆる知}
私の名前は如月早苗。
何処にでもいるごく普通の女子高生だ。
普通に学校に行って平穏な日々を過ごしている。
でも時々自分には何か凄い力があるんじゃないか・・・そう思えてならない。
何故そう思うか。それは私が小学生の頃に経験したある出来事が関係している。
私は小学生の頃友達とよくドッチボールをして遊んでいた。
ドッチボールをしたことがある人なら分かると思うが遠くにいったボールや草むらに隠れたボールを探すのがまぁ〜〜〜面倒くさい!!
ボールを探している時なんて“何しているんだろう・・・自分”という気持ちになる。
まぁボールを探している以外に無いんだけど笑。
そんなわけで心の何処かでなんとか楽をしたい私は千里眼みたいな超能力を使っている自分をイメージしてなんとかボールが見つからないかなぁ・・・と期待してみるけど当然見つからない。
そうしているうちにボールが普通に見つかりやっぱり普通に探した方が早いなー・・・なんて思っていた。
でもあの時だけはいつもと違った・・・。
その日はいつものように巴ちゃんたちとドッチボールをしていた。
そしていつものようにボールが遠くに行きジャンケンで取りに行く人を決めた。
私はジャンケンに負けたので探しにいった。
そして私が探している時に足元にあった木のツタが引っかかったらしく転んでしまった。
その時に特殊な経験?というか変な感覚を体験した。
転んで手をついた瞬間ボールとその周りの情景みたいなものが頭の中に浮かんできたのだ。
「!?、何?今の・・・。」その時は混乱したけどすぐにボールを探していたのを思い出しボールを見つけ友達の元に戻った。
その後友達とドッチボールをしながら「あれって何だったんだろう・・・。」とさっきの出来事が頭から離れなかった。
でも友達には言えなかった。
だって何て言えばいいの?ボールが見えた!って言っても意味分からないし・・・てか自分でも何が起きたのか分からないし!もし自分が巴ちゃんにボールが見えた!なんて言われたら「あぁ夢と現実の区別がついてないのかな?」と思ってまともに受け止めてもらえないし・・・。
小学生の頃の私は運動派だったので頭を使うのに慣れてなかった。
なのでその時は疲れて家に帰ったら寝てしまった。
そんなわけで現在までそんな経験は起きていない。
でも高校生の頃の私と小学生の頃の私には一つ違うことがある。
それは自分の経験にある程度目星がついてきたことだ。
私は小学生から高校生になるまでに時々超能力について調べていた。
調べていたっていうと研究者ぽくってカッコいいけど、実際はネットとかで超能力の種類とかを暇つぶしに見てただけなんだけど笑。
あんまり熱中することが多くない私の数少ない趣味みたいなものだ。
瞬間移動とかサイコキネシス。千里眼とかもし自分が使えたら・・・どんな感じなのかなぁ・・・こうして想像してる時間が好きなんだ。
便利さでいったら瞬間移動だよね。
電車とか乗らなくていいし。千里眼ってどこまで見えるんだろう?とか考えていた。
そしてその目星の超能力とはサイコメトリーだ。
触ると触ったものについての情報が読み解ける能力だ。
でもあの時の状況とはなんか違う気もする。
たしかに触ったけどサイコメトリーは物体の残留思念を読み取るらしいし過去も見える能力らしいけど私はボールの場所が地面に手をついて分かったから残留思念を読み取った感じじゃなかったしボールを探してたのは〝今〟だったし・・・もう全然分からない!
まぁ目星はついてる!って銘打ったけど実際は進んでいるようで全然が進んで無いのが現状だった。
そんなわけでずるずると高校生まで来たけどあれから一度も超能力みたいなものは使えていない。
色んなものを触ってみるけど当然残留思念なんて読み取れるわけもない。
そうだ!またドッチボールすればなんか解るかも!・・・いや、やめておこう。
女子高生にもなってドッチボールに友だちを誘うメンタルは私は持ち合わせていない。
う〜〜ん参ったなぁ・・・やっぱり行き過ぎた妄想だったのかなぁ・・・。
最近はだんだんそう思うようになってきた。
第一、能力があったとしても使い所分からないし。調べる手立てもないしなぁ・・・。
そういえばお母さんが高校生になったら話しておかないといけないことがあるって言ってたけどなんだろう・・・?
そっちの方が気になるしとりあえず聞いておこうかな。
~~~~~
「ただいまー。」
「お帰り早苗。今日はまっすぐ帰って来たんだねぇ。」
「え?あぁ今日はお母さんに聞きたいことがあったから早めに帰ってきたの。」
「何を聞きたいの?」
「お母さん昔高校生になったら話しておかなきゃいけないことがあるって言ってたじゃん?それって何なのか聞きたくて。」
「あー言ったわねぇ・・・そういえば。」
「で、それって何?」
「あなたもそろそろ自覚してきてるとは思うんだけど・・・うちの家族だけが持っている能力についてよ。」
「え!超能力!?」
「・・・いやまぁ違わないけど・・・世間一般で言われている能力とは違うわよ?」
「そうなの?」
「そう。とりあえず先祖から伝わる秘伝書の話もあるし早く帰って来てくれて良かったわ。」
「秘伝書なんてあるの!?」
「あるわよ。」
「じゃあうちの家族ってみんな能力者!?」
「その血を引いてるってことよ。あんたにも心当たりあるでしょ?」
「ない事はないけどよく分からないよ。」
「まぁそうよね。とりあえず・・・あんた能力のことどこまで自覚してる?」
「いや、どこまでって言えるレベルまで知らない。だってお母さんに能力の話されるまであるのかさえ疑ってたし。」
「つまり今まで能力者って自覚もなかったし話を聞いた今でも半分疑わしいって感じかしら?」
「そんな感じ。」
「そうなのねぇ・・・そう言えば私が心当たりがあるか?って聞いた時少しはあるって言ってだけどその時の話を詳しく聞かせてくれる?」
「分かった。」
私は小学校の頃の奇妙な経験を母に話した。
~~~~~
「んー成程ねぇ・・・。」
「でもその一回だけだよ?それって本当に能力なの?」
「歴とした能力ね。話の後で秘伝書を見せるけど多分見ただけじゃよく分からないから今ここでも少し話しておくわね?よく聞きなさい。まず、あなたは能力があるかどうか疑ってるわよね?」
「うんだって使えたのはその一回だけだし。」
「じゃあそこの説明からするわね?秘伝書によると私達の能力は強く意識することで発動すると書いてあるの。つまり能力を発動するにはキッカケとなる行為とその時の心のあり方や気の持ちようがセットになって初めて発動するの。」
「じゃあ強く意識するだけでも触るだけでも能力は使えないってこと?」
「そう。あなたは手をついた瞬間情景が頭の中に浮かんだって言ってたわね?今となっては想像するしかないけど多分あなたが探していたボールのイメージと転ぶかも知れない!っていう強い意識があったから能力が使えたんじゃないかしら。」
「成程!能力の使い方はとりあえず理解した!・・・ちょっとやってみていい?」
「いいけど・・・まだ話が残ってるから試したらすぐ戻るわよ?」
「分かった!」
私は試しに近くにあるテーブルに触って意識を集中してみた。けれど何にも起きなかった。
「・・・使えない。」
「ま、まぁやり方は分かったんだしまた後でいくらでも試せばいいじゃない。秘伝書もあるんだし・・・話を戻すわね?」
「うん・・・。」
「次に私の能力について話しておくわね。」
「次って後幾つあるの!?」
「もうあと2つだからそう長くは続かないわよ。安心しなさい。」
「(ホッ・・・)そっか。てかお母さんの能力って触るやつじゃないの?」
「あんたと本質的には同じだけど触るやつじゃないのよ。私のは・・・そうねぇ、空間っていうのかねぇ。」
「空間て何よ?」
「・・・そうねぇ、これ以上話すとあんたの頭がショートしそうだから先に3つ目の話をしようかねぇ。」
「うん。出来るだけ分かりやすくお願い・・・。」
「はいはい。心配しなくても超絶シンプルだから安心しな。3つ目は私達の能力の本質についてよ。」
「能力の本質?」
「そう。言ってみればあんたと私の能力に共通してること。揺るがない特性みたいなものよ。」
「揺るがない特性?」
「つまり能力の強みよ。それを今から言うからよく覚えておきなさい。私達の能力の本質は{知ること}にあるわ。」
「知ること?」
「そう知ること。つまり知ることに関してなら何でも出来るってこと。」
「何それ!かっこいいじゃん!」
「ま、まぁかっこいいかどうかは別として・・・ここで私の能力に話を戻すわね?さっき私は空間って言ったわよね?」
「うん言った。」
「私の能力は空間について知ることなのよ。」
「・・・さっきよりはイメージしやすい気がするけど・・・でもまださっぱり分からないよ。」
「そうよねぇ・・・お父さんの気持ちが今になって分かるわぁ・・・。」
「ん?何のこと?」
「いや何でもないわ。こっちの話。例えを出すけど私が能力を使えばもしあなたが学校に行くって言ってゲームセンターに行っても電車に乗らず公園にいてもすぐに分かるってことよ。」
「え?千里眼が使えるってこと!?あとごめんなさい・・・どうか怒らないで下さい・・・。」
「怒らないわよ笑。ちょっとびっくりさせただけ笑。あと千里眼じゃ無いわよ。大切なことだから何度も言うけど私達の能力の本質は知ること。私の場合はある人を意識するとその人が何処にいるか・・・それが頭の中に情報として入ってくるの。これが空間について知るってこと。人以外でも、物を意識するとそれが何処にあるか分かるの。」
「あーそういう意味だから空間を知るだったんだね。」
「そうそう。言い方が他に無かったの。因みに言っておくとあなたのお爺さんも私と同じよ。」
「おじいちゃんも使えるんだ・・・。」
「当たり前じゃない。同じ血筋なんだから。いずれ三葉や千も知る能力を使えるようになるだろうからその時はあなたが教えるのよ?」
「え?私が!?」
「勿論私も教えるけど・・・あなたも話を聞いてあげてって意味よ。」
「あぁそうゆうこと・・・。」
「そう。そして私が話すのはこれで終わりだけど質問とかある?」
「質問っていうか・・・ちょっと整理させて欲しいんだけど私の能力って結局触ることで使えるんだよね?」
「んーそうだと思うんだけど・・・あぁあなた目的意識が足りないんじゃない?」
「目的意識?」
「そう目的意識。私が能力使う時はあんたが何処にいるか。つまりあんたを“探す”って目的意識がある時に能力が使えるのよ。あなた最初に使えた時ボールを探してたんでしょ?それも関係してるんじゃない?」
「あぁ・・・たしかに!今度は使えそう!」
「そう?それなら良かったわぁ。」
「今日は頭いっぱい使ったから疲れちゃった。」
「そうよね。じゃあ夕食食べたら早く寝なさい。」
「は〜い・・・。」
私は夕食を食べた後お風呂に入ってすぐに布団に入った。
いつもより疲れていたせいかすぐに眠ってしまった。
~~~~~
「ふぁ〜よく寝た。」
私は朝起きていつも通り学校に行く道の途中で自分の能力について考えていた。
「意識して触ることで様々なことが出来る能力か・・・。」
お母さんから色々為になる話を聞いて自分が今まで何で能力が使えなかったのかどうやったら使えるのかとかは分かったけど、それ以上にこの能力との折り合いを考えなければいけない新たな苦悩が生まれた。
「能力が周囲にバレたらどうなるんだろう・・・。」
まず真っ先に頭によぎったのはテストのカンニング疑惑だ。
知る能力なんてテストと周囲の印象に対して相性が悪過ぎる。
勿論今まで能力のことを知りもしなかったんだから、するわけない。
そして勿論今後するつもりもない。
でも多分お母さんが言った通りの能力の発動の仕方なら答案用紙を意識するだけで発動してしまうんじゃないか?やったことないから分からないけど。
考えれば考えるほど良くない能力の使い方が頭に浮かんでしまう・・・。
成績トップの人の答案用紙を意識して触れば絶対に分かるじゃん。
まぁ他人の答案用紙を触ってる時点でカンニングみたいなもんだからそこは心配ないのか。
そんなことする方が難しい。
ヤバイヤバイ・・・頭がやろうとする方向で考えてる・・・汗。
「ん・・・?まって?触ると知るってことは“知りたいものを直接触れば”知るってことなの?それとも触るって行為はただの能力を発動させるキッカケで知りたいものと“間接的にでも触れていれば”発動するの?もし後者なら確実に分かっちゃうじゃん・・・。」
私は冷や汗が止まらなかった。
「これは大事故になる前に差し障りないもので試しておかないとヤバイわね・・・。」
私は最初に能力が使えた時のことを思い出した。
「確か最初はボールの場所を意識して地面を触ったんだったな・・・整理しよう。目的はボールを探すこと。触ったのは地面。ボールは草むらの中にあったから・・・地面と間接的に繋がってたと言えなくもないか・・・。」
あー頭痛い!勉強以外では頭使いたくなかったのにー!
でも仕方ないよなぁ能力バレたら今以上に頭使う羽目になりそうだし。
「やっぱお母さんの予想通りかな・・・今問題なのは触る行為がただの引き金なのか。それとも関係してるものに触ってないと発動しないかなんだけど・・・そこは試してみるしかないか。」
私は考えながらふと恐ろしいことに気がついた。
「まって?この世の中に間接的に触れてないものなんて何処にあるの・・・?」
そうこの世界。空気や地面。更には海の水。全く物理的に接点がない物体や生命体なんて何処に有るのか皆目見当がつかなかった。
例えば海の中に有る沈没船だって間接的に繋がっている。
自分がいる家の木やコンクリートと繋がる地面。
その地面と繋がる海の水。
そして水の中にある沈没船。
色々な物体を介し繋がっている。
「いや、ハハ・・・そんなスケールのでかい能力じゃないよね・・・。」
私は口ではそんなことを言いつつも本能的な恐怖を感じていた。
今は能力初心者だから分からないけれどいずれ分かるようになってしまうのではないか。
という恐ろしさとそれが出来てしまう人間は果たして本当に人間なのかという恐ろしさを感じていた。
「はぁ・・・一旦能力について考えるのはやめよう。疲れちゃった。」
私は一旦気分を切り替えて学校で程々に授業を聞いて寝ることにした。
だってずっと聞いてるのは疲れちゃうもん。いいよね少しくらい。
そんなこんなで放課後になり頭も回復したところで改めて能力について考えて実際に試してみることにした。
「やっぱり・・試してみないと分からないよね。」
まず私はお母さんが何処にいるか意識して全く関係ない学校にある机を触って試してみた。
「何にもない・・・(ホッ・・・)良かった。これで分かったらどうなることかと思った。」
もしこれで分かったら間接的にでも触れていれば知れるのが証明されてしまうからだ。つまり触るもの自体は関係なくても良くなる。
次に私は同じ机を使って机に何があるかを強く意識して触ってみた。
そうすると机の中の情景が頭に浮かんできた。
「おぉ・・・!!すっご・・・!!!」
嬉しさのあまり女子らしからぬ声を出してしまったが、意識して使ったのは初めてなのでめちゃくちゃ感動した。
「私・・・超能力者じゃん!人には出来ないことが出来るってこんなに気分が良いんだ!」
私は初めて能力が使えたことに喜びその気持ちのまま、帰宅した。
~~~~~
「ただいまー♪」
「お帰り。どうやら能力が使えたみたいだねぇ。」
「そう!そうだよ!やっと使えたんだ!!お母さん私が使えるのも分かるんだねー。」
「使った時感じたからねぇ。」
「へーそうなんだ!」
「さっきお父さんから電話があって“妙な違和感があったんだけど何か知らないか?”って言われて〝早苗が能力使ったのよ〟って言ったら“使えるようになってるなら早く言わんかい!”って一喝されちゃったわ笑。」
「え?おじいちゃんに言ってなかったの?」
「あんたが言ってるものだと思ってたからねぇ。それで急なんだけど週末私とあなたでお爺さんのところに行くよ。“秘伝書を見せておかないと”って言ってたし。あなたも見ておきたいでしょ?」
「うん!ちょー見たい!」
「笑。決まりね。じゃあ週末といっても明日だから準備早めにしときなさいね。」
「え?来週じゃないんだ笑。とりあえず分かった!」
私は翌日お母さんと一緒におじいちゃんの家に行った。
~~~~~
「お父さん言われた通り来ましたよー。京子ですー。」
「おじいちゃん遊びに来たよー。早苗だよー。」
私とお母さんは秘伝書を見せてもらう為におじいちゃんの家を訪ねた。
「おう聞こえとるぞー!そのまま居間まで上がってきなさーい!」
そう呼ぶので私達は靴を脱いで居間に向かった。
「おぉよう来たの。まぁ自分の家だと思ってゆっくりしなさい。積もる話もあるじゃろう。」
「そうねぇ。色々話もあるからとりあえず座らせてもらいます。」
「(私としては秘伝書を見せてもらえればそれで良いんだけど・・・)そうだね・・・。」
「して、いきなり本題に入るが早苗。自分の能力のことはどこまで理解しておる?」
「うん。とりあえずは知りたいものや事柄を意識してそれに関連するものを触ると頭に浮かぶ・・・ってことだけかな汗。」
「まぁ最初はそんなもんじゃの。まだ使えるようになって間も無い。これから色々分かって来るじゃろう。」
「そうゆうものかなー。」
「そうゆうものよ。私もそうやって使い方を理解していったからねぇ。それよりお父さん。早苗の能力の件、報告遅れてごめんなさい。」
「全くじゃ!能力を自覚した頃は頭が混乱して不安になるもんじゃ!それを1週間も放置しおって!お陰で秘伝書を見せるのが遅れてしまったわい!」
「まぁそう怒らないでくださいな。確かに少しビックリするけど慣れれば何とかなるし。」
「お前の場合はわしと同じタイプだったから混乱も少なかったんじゃよ。早苗はワシらとはタイプが違うゆえ不安も大きいじゃろう。」
「でも本質は同じなんだから大丈夫だと思いますよ。」
おじいちゃんとお母さんは喧嘩では無いけどよく意見が対立する。
おじいちゃんは気持ちを考えてくれているけど、お母さんは理性的と言うか論理的というか・・・とにかく考え方にノイズや雑念がない。
どっちも私は好きなんだけど・・・今回ばかりは話が進まないから困る。
・・・積もる話になりそうだ。
「おじいちゃん!私秘伝書が見たいな!!」
「おぉ!そうじゃったな。丁度ええ。秘伝書を元に話をした方が早苗も分かりやすいじゃろう。まずは一通り読んでみい。気になることはわしや京子に聞いとくれ。分かる範囲で答えてやろう。」
「うん分かった!」
私はおじいちゃんから秘伝書を渡してもらった。
・・・渡してもらったけど秘伝書は“書”と言うより一枚の紙切れだった。
「・・・おじいちゃん・・・これ・・・書?」
「はっはっは。京子も同じような反応をしておったな笑。珍しく驚いておったのぉ。」
「だって書じゃないですもん。ただの紙ペラ一枚なんてねぇ。最初は揶揄われているのかと思いましたよ。」
「わしも最初見たときは拍子抜けしたがの。まぁ秘伝書と呼ばれているだけあって大凡のことは書いてある。書けることはな。」
「・・・書けること?」
「文字で書いて表現出来ることは・・・って意味。私達の能力を表すには文字だけでは足りないからねぇ。」
「へぇー・・・とりあえず読んでみるね。」
~~~~~
秘伝書には以下の内容が書いてあった。
・私やお母さんが使う能力は「探知法」という名前があること。
・探知法は人によって使い方が違うこと。厳密に言うと私の接触タイプやお母さんやおじいちゃんの空間タイプ。その他にも感情に関するタイプもあるらしいこと。
・各タイプごとの能力の使い方。
・能力の注意点。
大まかにあげるとこの四つだ。
「どうじゃ早苗。聞きたいことはあるかの?」
「質問っていうか・・・なんか自分の能力について更に分からなくなってきそうなんだけど・・・。」
「まぁ無理もないじゃろ。一度に多くの情報を目にしたからの。」
「まぁ聞きたいことじゃなくても気になることがあれば聞いておきなさい。お父さんしか知らないこともあるかもしれないからねぇ。」
「・・・じゃあまず気になったんだけど私達の能力の起源の書き方さ・・・曖昧過ぎない?全知全能の神がなんたらって・・・あまりにも投げやりというか雑じゃん。全然詳しく書いてないじゃん!」
「曖昧か笑。まぁ確かに書いてある情報が少な過ぎるのは事実じゃな。」
「でしょ?これってどうしてなのか二人は分かる?」
「そうじゃな・・・まずわしから話そう。恐らく・・・分からないのじゃよ。」
「分からない?」
「もう少し詳しく言うと本当の起源というのは明らかになっていないとわしは思うとる。」
「私もそう思うわぁ。その人に会って話したことがないから分からないけど多分起源を調べてはみたけれどハッキリとしたことは何も分からなかったんじゃないかしら?」
「・・・ってことは能力の起源は誰も知らないってこと?」
「そうなるの・・・。」
「そしたら・・・この水天って人はどうやって全知全能の神が関係してるってところまでを知ったのかな?」
「・・・ワシもこれを読んだ時気になっておった。最初は水天殿の願望が込められているのかと思いさほど気に留めてはいなかった。じゃが読み進めていくうちに疑問に思うようになってきた。何故なら水天殿はこの秘伝書に願望や思い込みの様な憶測は一つも書いておらんのじゃ。嘘や無駄な情報が書かれていない。ということは“全知全能の神に近づいた人間が関係している。”この文は何か確信があって書いているに違いない。」
「・・・探知法じゃないかしら?」
「ん?どういうことじゃ京子。」
「どうやって神様が関係してるってことまで知ったかって話ですよ。多分探知法を使って知ったんじゃないかしら?だってこの秘伝書には私たちや早苗以外の発動タイプや使い方が書かれているでしょう?ってことはつまりこれを書いた水天さんはこれ全部使えるってことになるわよね。」
「・・・確かに!知らなきゃ書けないもんね!」
「でしょ?それにもう一つ読んでいて思ったんだけど発動タイプによって知れる範囲が違うんじゃ無いかしら?」
「どういうことじゃ?」
「まず端的にいうと私とお父さんの空間のタイプでは起源を探れないのでは無いか?ということです。」
「・・・ふむ。」
「お父さんも薄々感じているわよね?」
「まぁ認めたくは無いがの・・・。」
「どういうこと?」
「つまりね、能力の発動タイプによって知れる範囲が決まってるんじゃないか?って話よ。」
「詳しくお願い!」
「まず私とお父さんの能力は空間を意識することで能力が発動するでしょ?」
「うん。」
「つまり“空間”という単語が関係していれば何でも知れるの。でもこれは裏を返せばそれ以外は分からないことも意味しているわ。」
「それと起源を知れないってどう関係してるの?」
「早苗。昔のことを調べる時あなたはどうする?勿論能力抜きで考えてね。」
「えー・・・とりあえず歴史の教科書とか古事記・・・とか?」
「そうよね。普通に考えて昔からある書物から調べるのが妥当よね?ここで私の空間タイプを使って昔を知るとしたらどう考える?」
「・・・お手上げです。お母さんはどうするの?」
「私もお手上げなのよ。」
「え?」
「私の探知法は空間を意識する事でしか発揮しないし誰もいないところに本を置いて使っても本があるってことしか頭の中に入ってこなかったの。おそらくお父さんも同じタイプだから試したことはあるんじゃない?」
「そうなの?おじいちゃん!」
「いや、試しては無いが経験から薄々は感じておった・・・空間タイプは一言でいうならGPSじゃ。つまり対象が今生きている時間。昔も未来も探れん。」
「ここで絶望して欲しく無いんだけど早苗なら私やお父さんが探れなかった起源が探れるんじゃないか?って思うの。」
「わたしが?」
「そう。さっきどうやって昔を調べるかの話をしたわよね?それで書物で調べるってあんたが答えて私は能力で書物が調べられないってとこまで話したね?」
「うん、あ!そうか!私の触るタイプなら書物を調べることが出来るかも知れないって言いたいのか!」
「そう。」
「たしかに早苗の可能性は喜ばしいことなんじゃがのー京子。さっきワシが言ったこと忘れとりゃせんか?」
「あ、そうだよお母さん!うちに関係するものは残ってないっておじいちゃん言ってたじゃん!」
「たしかに言ってましたね。でもお父さん。身近にあり過ぎて一つだけ昔からの品が残ってること忘れてません?」
「一つだけ?」
「身近過ぎて?何なんじゃそれは?」
「目の前にある秘伝書よ。少なくともその書を書いた水天さんの時代までは探れるんじゃないかしら?そうして探ったものの中から目的を指定して探知法を繰り返せばもしかしたら起源までいけるんじゃないか・・・って思ったの。」
「秘伝書か・・・!たしかに身近にあり過ぎて気づかんかった・・・!」
「成程・・・でも起源を知れるのが私だけって・・・責任重大なんですけど・・・。」
「そこまで気負わなくて良いわよ笑。」
「そうじゃよ早苗。気が向いた時に探り調べれば良い。そもそも知ったところで今を生きるワシらには過去は過去以外の何ものでもないからの。」
「・・・そういうものなのかな。」
「そういうものじゃ。過去に捉われることは水天殿も望んでおらんじゃろう。」
「それは・・・確かに。」
「さて早苗。ほかに私達に聞きたいことはある?」
「今のところはもう無いかな笑。聞いても頭に入らないし。」
「そうね。じゃあそろそろお夕飯にしましょうか。」
「そうじゃの。早苗もお腹空いとるじゃろ?たんと食べていきなさい。」
「はーい。」
今日はおじいちゃんの家で夕食を食べてそのまま泊まることにした。
そして翌日帰る時に秘伝書の内容で一つだけ気になったことを聞いた。
「京子、早苗。気をつけて帰るんじゃぞ。」
「分かってますよ。」
「おじいちゃん!最後に一つだけ聞きたいことがあるんだけど!」
「何じゃ?」
「能力の発動タイプで空間タイプと接触タイプ以外に感情のタイプっていうのがあったんだけど・・・うちの家系にそのタイプの人っていたの?」
「んーどうじゃったかのー・・・うちの家系はほとんどが空間タイプで稀に早苗の接触タイプだったと記憶しておるが・・・じゃが必ずしも1人に1つのタイプとは言えんがの。」
「それって・・・一人で複数の発動タイプを持つ可能性があるってこと?」
「そうじゃ。うちの家系だとワシの母がそうじゃったな。」
「・・・そっか。」
「話が終わったなら帰るわよ。あんたは明日学校があるんだから。」
「う、うん!」
「じゃ、気をつけてのー。」
「うん!」
「時間があったらまた帰って来ます。」
私達はこうして秘伝書や能力について情報を得て、家に帰った。
~~~~~
「おはよー。」
「おはよーお姉ちゃん!」
この子は私より一つ下の妹の三葉だ。
「お姉ちゃん千は?」
「千は寝てんじゃない?私アイツが朝起きてるの見たことないよ?」
「まぁアイツはいつも夜遅くまでゲームしてるし笑。」
ここで少し説明しておくと私にはもう一人三つ下の弟がいる。
名前は千。
「じゃ、先行くねー。」
「おー、三葉いってらー。」
私はふと三葉達について考えた。
「(そういえば三葉も千も如月一族だよね・・・てことは能力の片鱗が見えててもおかしく無いよな・・・特に三葉なんて私と一つしか変わらないからもうすでに能力あるんじゃない?)」
なんてことを考えながら私は学校に行った。
学校では妄想に費やしていた時間が探知法をどう使うかに考える時間になっていた。
実際自分が超能力を使えるようになってみると色々なことに気付かされる。
超能力者=無敵とか何でも出来るみたいなイメージを勝手に抱いていたけど全然そんなことなかった。
寧ろ弊害の方が多い気がする。
なんせ本来考えなくてもいいであろうことも探知法という能力が存在すると分かった今その探知法について考えなきゃいけなくなったからだ。
例えるならいきなり夏休みの宿題を一人だけやらされる気分だ。
「どうしろってのよ・・・。」
とりあえず私は分かっている事を紙に書いて整理することにした。
「確か思考の方法がまとめられた本に確定法があったな・・・。」
確定法というのは私の世界で出版されている『至高の思考』という本の中にある思考パターンの一つで確定事項を明らかにすることにより正解に近づく思考法の一つとして書かれている。
何でも思考において大切なのは{どれだけ考えないか}だそうでこの確定法は確定事項を上げて明らかになっている点はあえて考えずに保留しその他に何が明らかになっていないか。何を明らかにする必要があるかを考えるらしい。
私はとりあえず明らかになっている点を上げてみた。
探知法の確定事項一覧
・起源が明らかになっていないこと。
・発動のタイプは空間、接触、感情の3種類が確認されていること。
・一人で複数の発動タイプを持つ可能性があること。
・私は接触タイプでまだどんな特性があるのか分かってないこと。
まず起源について。
これは今はどうしようもないからとりあえず放置だ。
発動タイプの種類と複数の可能性も放置。
そうすると考えなきゃいけないのは私の接触タイプの特性を知ることだ。
多分お母さん達も空間タイプの特性は分かってるはず。
つまり今やるべきは現時点で接触タイプに出来ることと出来ないことを明らかにすること。
そして同時に能力が伸びる事を前提として考えなきゃいけない。
こうなったらあとは試してみるに限る。
まず私は学校の壁を触り学校の構造を強く意識したり歴史の本を開いてイメージしやすい江戸時代とかを対象に能力を使っていった。
流石にトイレは怖くてやらなかったけどね笑。
やってみると意外なことに気付かされる。
学校内にいる巴ちゃんを探す時に気がついたんだけどある程度場所の目星がついてるとイメージが映像のように頭に流れる。
どうやら一定の集中力を保ちながら能力を使うと意識したものを継続して見れるらしい。
あと歴史の教科書に対して使った時に気がついたこととして今から時間的に離れれば離れるほど見るのが大変だということだ。
江戸時代を探った時はちょくちょく動画みたいに見えたのに対し縄文時代を見ようとした時は全く見えなかった。
少し時代を戻して鎌倉にしたら燃えた写真みたいに頭に浮かんだイメージに穴が開いてこれもしっかり見れなかった。
室町まで進めてようやく一瞬だけ写真みたいに見えた。
でもこれで水天さんが起源について曖昧に書いたのが分かった。
やっぱり分からなかったんだ。
水天さんも能力を使って探ったのはいいけれど起源なんてどう考えても縄文時代と同じくらいかそれ以前の出来事なのは確かだ。
下手したら天地開闢より前って可能性も捨てきれない。
もし神さまから貰った力なら大地を作ったとされる神さまが生きていた時代だ。
いくら今よりも昔の時代に生きてたとしても天地開闢は果てしなく遠い・・・。
「起源なんて分かるのかな・・・。」
起源をみる目星はついていても今の能力じゃ届かない。
だって縄文時代すら見えないんだもん。
多分ジュラ紀とかの時代まで見えてないと話にならない・・・。
「まぁ気長に考えるか・・・。」
目星とは日本神話が書かれている書物である。
それを触って意識すれば理論上は見えるだろうけど今の私の力じゃそこまでは届かない。
まぁ今日はこれくらいにしておこう。
やっぱり探知法を使うと頭がめっちゃ疲れる。私は家に帰ることにした。
~~~~~
「ただいまー」
「あ、早苗お帰り。いきなりなんだけど今週末時間ある?」
「え?なんで?」
「三葉と一緒におじいちゃんの家に行ってくれない?」
「え?・・・それって・・・マジ?」
「マジだねぇ。」
「ついに三葉も!?」
「そ。あ、でも今は混乱してるからあんまり刺激しちゃダメよ?」
「混乱ってビックリしてる感じ?」
「ビックリっていうより少しパニックって感じだねぇ。多分色々不安だと思うからあんた時間あるなら近くにいてあげな。お母さんも手が空いたら改めて三葉の部屋行くから。」
「うんわかった。」
「あと一つ。安心すると思ってあんたも能力使えるって言ってあるから能力について聞いてきたら色々答えてあげなさい。その方が少しは落ち着くわ。」
「うんそれは分かるよ。じゃあ三葉の部屋に行ってくるね。」
~~~~~
「・・・三葉ー?今大丈夫?部屋入ってもいい?」
「・・・大丈夫じゃないけど入っていいよ。」
部屋を恐る恐る開けると少し疲れた様子の三葉が座っていた。
「能力のこと・・・お母さんから聞いたんだって?」
「お姉ちゃんが能力使えることも聞いたよ。」
「私が使えるようになったのは最近だよ笑・・・で、どう?話を聞いてどう思った?・・・やっぱりビックリした?」
「ビックリっていうか・・・最初は訳分からなかったよ。能力って漫画の世界の話でしか聞いたことなかったから。」
「まぁ・・・そうだよね。」
「お母さんから能力のこと聞いたんだけど・・・私の場合は特殊かもって言ってたんだけど・・・どう言うことか分かる?」
「特殊ってお母さんは何て言ってたの?」
「一人で二つのタイプを持ってるかもしれない・・・って言ってた。」
「!!、嘘!?何と何?」
「空間と接触だって。私能力があるなんて知らなくて私が気づいたのは教科書を触った時にいきなり頭の中に変な情景が入ってきて・・・ビックリしたんだけどそしたら今度は学校を上から見てるような景色が浮かんできて・・・もうパニックだよ。」
・・・確かにお母さんやおじいちゃんが言ってた空間に関する知と私の触ることで入ってくる接触による知が出てる・・・。
そっか。だからお母さんは私もおじいちゃんちに行った方がいいと判断したんだ。
「そっか・・・確かにそれはパニックだよね・・・お母さんからは能力について聞いた?」
「いやまだ何にも。“落ち着いたら声かけてね”って言われたくらい。」
「・・・そっか(・・・まずは三葉の気持ちを落ち着けることに重きを置いたんだ・・・。)」
「お姉ちゃん!」
「ん?何?」
「能力について教えてくれない?お母さんからはお姉ちゃんが接触タイプって聞いたからそれについて!」
「分かった!じゃ可愛い妹の為に人肌脱ぎますか!」
「やった!じゃお願いします!」
「まず最初に空間タイプ接触タイプ関係なく大切になる能力の本質を伝えるよ。よく覚えておいてね!」
「はい!」
もし三葉が二つのタイプを扱えるなら本質が尚更大切になってくる。
私は三葉に今まで分かっている接触タイプの特徴について話した。
~~~~~
「ここまでで何か聞きたいこととかある?」
「・・・お姉ちゃんがさっき言ってた触る行為がトリガーなのかって話。それって“今は”出来ないってだけなんじゃないの?」
「どう言うこと?」
「だから間接的にでも繋がっていれば何でも読み取れる可能性がある話!私達って能力を使えるようになってから日が浅いでしょ?」
「まぁ昨日今日使えるようになった人と大差ないよね。」
「その私達でもビックリするくらいのことが出来るんだよ?多分能力を今よりも使いこなせるようになったら・・・出来ちゃうんじゃないかな・・・沈没船。」
「・・・ゾッとする話じゃないんだからあまり脅かさないでよ汗。」
「ごめんごめん笑。でも無きにしも非ずって感じじゃない?」
「まぁ確かに笑。」
「あとは・・・大丈夫かな。聞きたいこと。」
「そっか。じゃあ空間タイプのことはお母さんに聞いてね。」
「分かったー。」
「私は部屋に戻るねー。」
「はーい。」
私は部屋に戻りながら三葉の気持ちが戻ってるのに安心しながら部屋に入った。
~~~~~
週末私は三葉とお母さんと一緒にまたおじいちゃんの家に行った。
「お父さん来ましたよー。」
「おうよう来たの。三葉、早苗と京子も変わりはないかの。」
「変わりありません。」
「元気だよー!」
「よしもう準備は出来ておるわ。おあがり。」
私たちは早速居間に上がって三葉の能力について話を始めた。
「三葉よ。能力のことはどの程度聞いた?」
「接触タイプと空間タイプについてそれぞれお姉ちゃんとお母さんから聞きました。」
「そうか。それであとは秘伝書のみと言うことか。」
「そうです。」
「・・・秘伝書を見せる前に複数のタイプを持った者の特徴について話しておこうかの。」
「特徴?」
「そうじゃ。殆どは一人一タイプが基本なんじゃが稀に三葉やワシの母のように一人で二つの発動タイプを持つ者が現れる。これは如月の歴史でも稀に見られるがそれ故にある特徴が見られる。」
「それは?」
「その特徴とは一人一タイプよりも能力が伸びにくい点じゃ。」
「・・・じゃあ接触タイプならお姉ちゃんより上を行くことがないってことですか?」
「そこまでは言っておらん。あくまで伸びにくいということじゃ。一人で二つのタイプを持っているが故に伸ばしにくい・・・程度に捉えて置けば良い。実際ワシの母も時々ワシと父の探知の限界を知ることが出来ないということがあった。」
「でもそれってどっちつかずってことなんじゃ・・・。」
「心配するな。ワシの母がやっていた探知法の使い方を今から伝える。母は二つのタイプで足りない部分を補い合って使っていたんじゃ。」
「・・・補い合う?」
「そうじゃ。接触タイプでは知り得ない部分を空間タイプで探り穴を埋めるように補い合っていた。時にはワシらよりも知り得ていたじゃろう。」
「補い合う・・・か・・・少し光が見えた気がします。」
「そりゃ良かったわい。それにお前には早苗や京子がおる!心配することはない!」
「うん・・・!」
「よしワシの用事は終わったぞ。あとは秘伝書を見てもらうだけじゃの。」
「三葉は頭いいから何か気づくかもね。」
私達は三葉に秘伝書を見せた。
「どう?三葉、気になることとかあるかい?」
「起源・・・なんだけどこれって要するに誰も知らないってことだよね?」
「正確にはねぇ。」
「少し引っかかってるのが昔から残ってるのがこの秘伝書一枚なのが疑問だね。」
「・・・意図的に残ってないのかもって思ってるのかい?」
「そんな気がする。」
確かに。それは私も気になっていた。
秘伝書は随分昔のものなのに残っている。
なのにそれ以外のものは全く残ってないっていうのに違和感がある。
「これって起源を隠してるみたいだよね。」
「隠してるというより如月の人間にしか見れないようになってるわよねぇ。」
「・・・他の人に見られたらダメな理由があるのかな?」
「他の人ってより・・・世間の目に触れること自体がまずいんじゃないかしら?なんていっても私たち一族ですら容易に見れないようになってるし実際水天さんが書いた通り神様が関わってるなら私たちが想像するよりずっと大切なことなのかもしれないわよ?」
「・・・隠されていることが?」
「そう。」
確かに。神話なんてただの昔の人の妄想や作り話に捉えていたものが本当に実在するかもしれないと言われても普通の人なら一笑に付すとこだ。
だけど実際私たちは探知法という常識で測れない力を目の当たりにしているしその能力が使えて使い方まで残されていている。
そしてその能力の起源が神に関係していると示唆されていればただの作り話では片付けられない。
神様が前より近くに感じられるし色々と想像が膨らむ。
「他に気になることはないか?」
「・・・いや今はないかな。」
「そうか。」
「・・・秘伝書以外でおじいちゃんに聞きたいことがあります!」
「なんじゃ?」
「この探知法についてなんですけど・・・能力に幅ってあるのかな・・・って。」
「・・・幅?」
「例えば・・・おじいちゃんの空間タイプなら探知出来る範囲が広がるとかお姉ちゃんのなら触れたものがより明確に分かる様になるとかそんな幅です。」
「あぁそういう幅か。それならあるぞ。」
「やっぱりそうなんですか!だって!お姉ちゃん!!」
「ちょっと!三葉!」
「ん?なんじゃ早苗が聞きたかったことなのか?」
「前お姉ちゃんが触れてるものが“間接的にでも”触れていれば直接触れていなくても探知することが出来るのか・・・試したことがあるみたいで。試した時は出来なかったみたいなんですけど私話を聞いた時にそれって〝まだ〟出来ないだけなんじゃないか?って思ったんです。だって私たちってまだ能力を使えるようになってから日が浅いじゃないですか?つまり能力者の土俵で考えると初心者なんです。だからこれから色々経験を積んで熟練者の域になれば能力の幅が広がって出来るんじゃないかって。それでおじいちゃんに能力の幅があるのか確認したくて。」
「成程の。まぁ実際能力の幅はある。京子はわしと同じタイプじゃが能力の純粋な高さはわしより上じゃ。」
「そうなの⁉お母さん!」
「・・・なんせ同じ空間タイプでありながら、接触タイプに近いことも出来るからの。」
「・・・どんなことが出来るの?」
「ほれ、娘たちに説明してやれ。」
「はーい。空間タイプで空間の流れを探知して少し前にどんな人がいたのかを知ることが出来るのよ。」
「どんな人って?」
「イライラした人がいたのかのかなーとかお年寄りがいたのかなーとかよ。ちょっと過去に遡るくらいかねぇ。早苗みたいに時代までは超えられないけど。」
「お姉ちゃん時代遡れるの⁉」
「え⁉まぁそうだけど・・・何でお母さん知ってるの⁉」
「あんたが能力試してる時にちょっとね♪」
「はぁ・・・つまりわたしが能力使っているのを探知してその時にわたしの方に意識を集中させて感覚を同調させて繋げることで知ったってこと?」
「そういうこと。」
「どんだけ応用力あるのよ・・・お母さん。」
「我が母親ながら末恐ろしいです・・・。」
「流石・・・というか、ねえ?」
「うん・・・。」
うちのお母さんは昔から普通の感覚では理解出来ないことが沢山あった。
なんせ難しいことでも母がやると何でも簡単にこなしてしまうのだ。
母が困っているところを私は見たことがない。
見せてないにしても一緒に暮らしているのに見えないんだから大したもんだ。
さながら一流マジシャンのようだ。
「ま、まぁ能力の幅が分かって良かったわね?三葉?」
「うん笑。」
「他は大丈夫か?三葉だけでなく早苗も聞いてええぞ?」
「三葉が聞いてくれたから大丈・・・いや、まって!最後に一つだけ聞いておきたいことがある!」
「何じゃ?」
「さっき純粋な能力の高さって言ったよね?それって能力の幅でも縦幅のこと?」
「そうじゃよ。」
「じゃあ能力に横幅と縦幅があるの?」
「ある。まず最初に縦幅じゃがこれは純粋に能力の高さのことじゃ。空間タイプで言うと能力が及ぶ範囲じゃな。感知出来る広さが広いほど能力が高いことを示す。恐らく接触タイプなら遡れる時代の遠さじゃろ。そして次に横幅じゃがこれは早苗がさっき言っていたが応用の幅じゃ。空間タイプしか持っていなくても使い方を考えることで、京子の様に早苗と同じように時代を遡ったり能力の幅を利かせることが出来る。」
「あーなるほど!」
「どうじゃ分かったか?」
「うん!すっごくためになった!」
「よし他にないなら今日はこの辺にして夕食にするかの。」
「そうですね。」
「うん!」
「はい。」
私たちはおじいちゃんのうちに泊まり翌日に帰ることにした。
~~~~~
「じゃあ早苗と三葉は明日からまた学校がありますから帰ります。」
「おじいちゃんまたねー。」
「昨日は色々ありがとうございました。」
「おう気をつけてお帰りー。」
私たちはうちに帰ってから能力について色々話した。
「とりあえず整理しよう。お姉ちゃんは純粋な接触タイプ。」
「で、三葉が接触タイプと空間タイプの2種類を持ってる。」
「・・・私の場合は能力の縦幅より横幅が重要になってくるよね。」
「そうだね。それに三葉はお母さんが出来ることも私が出来ることもある程度は出来る様になるんだろうね。」
「多分ね・・・そういえばさお母さんがお姉ちゃんが能力使ってみた時に感覚を同調させて知ったとか言ってたけど・・・それ、試してみていい?」
「いいよー。私が能力使えば入れるってやつでしょ?」
「そうそう。じゃお願いしまーす。」
私は能力を近くにあった歴史書を触って力を使った。
「・・・どう?出来た?」
「うん‼出来たよ!・・・っていうかこれを思いつくお母さんやっぱ凄いね笑。」
「本当だよね笑。それより三葉がおじいちゃんの家で秘伝書を見てる時に考えてたことがあるんだけどさー聞いてくれる?」
「うんいいよ。何?考えてたことって?」
「お母さんが空間タイプで今三葉が試した能力の使い方を聞いて思いついたんだけど・・・私の接触タイプで空間タイプと同じようなことが出来そうな気がするんだよね。」
「え?初耳!どうやってやるの⁉︎」
「い、いやまだ試したことはないけど接触タイプって要するに{触れていれば}良いんだよね?ってことは空気に触れて意識すれば空間についても知れるんじゃないか?って思ったんだよねー。」
「あー、確かに。お姉ちゃんお母さんに似てきたね笑。」
「・・・なんか嬉しいような嬉しくないような・・・。」
「でも空気ってどうやって意識するの?」
「そこなんだよねー・・・出来れば後はスムーズに行きそうなんだけど・・・意識するまでが大変かも・・・。」
「ドライヤーとかで風当ててあげようか?笑。」
「えー・・・でもそれって空間じゃなくてドライヤーに意識がいかない?」
「あーそっか・・・。」
「そっちは時間がある時にやるからいいよ。」
「そうなの?ならいいけど。」
「それよりさ!!私たち能力出たじゃん!後は千じゃない?」
「あ!能力出てないのは千だけだね!どんな能力か気になる・・・。」
「・・・でしょ?」
そう。うちの家系ではあと1人能力を発現させる可能性を秘めている者がいる。
中学生の弟。千だ。
少し生意気なところもあるけどあいつも歴とした如月の人間だ。
能力を開花する可能性は十分にある。
しかし千が能力に目覚めるのは今より少し後になる・・・。