条件世界{五章、眺める者}
今俺(エルティピストア)はある国の紛争地域にいる。
何故そんな危険なところにいるのか。
それは俺が世界各国を巡り歩く放浪者だからだ。
流れ人ともいうのか。そういうわけで俺は偶々流れ着いた国の戦争に巻き込まれている。
流れ者の俺が言うのもなんだがこうした本人とは関係ない争いごとに巻き込まれるのはなんと迷惑なことだろう。
紛争なんてその最たるものだ。
関係ない一般市民を巻き込んでいきなり重火器をもってドンパチやるんだから迷惑この上ない。
その上最悪死ぬこともあるんだからもう迷惑では済まされない。
俺も今まで色んな国の紛争やらデモ、戦争に巻き込まれてきたがよく生きてきたと思う。
しかしそんな俺にも死を覚悟した出来事がある。
今日はその話をしよう。
その時体験した不思議な現象とともに・・・。
~~~~~
ダダダダダダダダダダッ‼
「チッ‼ここでも戦ってんのかよ‼ゲリラの奴‼」
この時俺は丁度ある地域での紛争の真っ只中にいた。
何故そんな危険なところにいるのかという意見もあるだろうがその答えとしては情報にある。
もう少し分かり易く言い換えると俺の持っている情報量や情報の入ってくる速さだ。
家にテレビがある者や四六時中携帯やスマホをいじっている者には分からないだろうが俺が主に情報を得られるのはその国にいる者との会話やごく偶に町中にあるテレビくらいだ。
なので入ってくる情報の種類や速さも普通のそれとは異なる。
大体の人は携帯で満遍なく{勿論多少の偏りはあるが}情報が手に入るし、しかもすぐに手に入る。
それに比べて俺の場合は情報を得る為にはまず話す相手を選ばなければならないし話をしたからと言って有益な情報が得られるとは限らない。
何なら自分で直接歩いて回り確認した方が速い。
なので必然的に訪れてみたら町がゲリラに襲われていた・・・なんて場面に遭遇するわけだ。
こうした出来事の場合厄介な時と厄介でない時の二つのパターンがある。
厄介ではない時は町に行ったら始まっていたパターンだ。
こういった時は町に入る前から銃声や爆発音が聞こえる為収まるまで近づかなければいい。
厄介なのは今まさに俺が経験している町に入り食事などをしている時に始まるパターンだ。
こうした場合は多少戦火に晒されながらも離れた方が得策だ。
何故ならその場に留まっていると人質として攫われてしまうからだ。
そういった理由で戦火の中を移動し離れようとしている時ゲリラの銃口が俺の方向を向き銃弾が発射された・・・。
「マズイ・・・‼」
この時咄嗟に目を瞑ってしまったが少しして目を開けると自分の足元に5・6発の銃弾が転がっていた。
そして俺に弾を放ったゲリラの姿はもうなかった。
どうやら俺個人を狙ったわけではなく無差別に撃っていたようだ。
そして幸いなことに俺の周りにいる人も撃たれてはいなかった。
「不幸中の幸いだな・・・。」
ほっと胸をなでおろしている時1人の外国人から声を掛けられた・・・。
「your psychic?」
「・・・え?」
俺は驚きと困惑で一瞬思考が止まったが何故そう聞いたのかを聞くことにした・・・。
~~~~~
“your psychic?”外国人に何故そう聞いたのか尋ねたところゲリラの弾が俺の前でひとりでに止まった為てっきり俺が超能力者で自分のことを体を張って助けてくれたのかと思った・・・とのことだった。
俺は超能力者ではないということを伝えたら少しがっかりしたけどそれでもありがとうと、とても嬉しそうにその場を去っていった。
外国人が去った後俺は足元に落ちている銃弾に目をやった。
「俺が止めたのか・・・?」
俺は外国人が言っていた話について考えていた。
外国人が言うには銃弾が一瞬空中で静止し少しした後地面に落ちたという。
そうして考えている時にふとあることに気づいた。
「ん?弾が・・・歪んでいる・・・。」
俺の足元に転がっている銃弾がまるで鋼鉄の壁にぶつかったかのようにペチャンコに潰れていたのだ。
中には半分しかないものもあった。
「・・・って考えても分かんねーや‼」
その時は何が起きたのか分からないまま次の町に向かった。
~~~~~
「おお・・・‼」
次の町はそれなりに栄えていた。
その町では色々な種類の店があり少なくとも食べ物や宿に困ることはなかった。
ここで少し俺の事について説明しておくと俺は放浪者といっても文無しの放浪者ではない。
そして戦争孤児というわけでもない。
子供の頃は普通に学校に行きそれなりに学もある。
俺が放浪者となったのは就職して会社に殆どの時間を与えるのが嫌だったのだ。
定年まで殆ど変わり映えのしない人間関係や生活スタイル。
そのまま一生を終えるのはあまりにも退屈だと感じた俺はこうして放浪の道を選んだのだ。
話を戻そう。そんなわけで現地のカフェで久々の安寧を満喫している時とある噂を耳にする・・・。
「ようあんちゃん。観光客かい?」
「ああ。見ての通り流れ者さ。隣の町から来たんだ。」
「あの町から来たのか。じゃ、知ってるかい?あの町じゃ先日不思議な出来事があったんだぜ?」
「不思議な出来事?何だい?それは。」
「昨日銃撃に巻き込まれた奴から聞いたんだがね、マシンガンの弾を手も使わずに止める奴が現れたんだとさ‼」
「へ、へぇ~。そ、そいつはまた何とも・・・不思議なこともあるんだね・・・(お、俺の事だ・・・。)」
「だろ?嘘くさい話なんだがどうも本当らしいんだよ。証拠に現場写真を見せて来てね。確かによーく見ると、一部分だけ銃弾の被害が全くない部分があるんだよ。良かったら見てみるかい?もらったのがあるから。ホレ。」
「あ、あぁ・・・(昨日の町だ・・・)ほ、本当だ・・・不思議なこともあるんだね・・・。」
「本当にねぇ。俺はまだ半分合成なんじゃないかって思ってるけどねー笑。」
「た、確かに俺もすぐには信じられないなー・・・汗。」
「だろ?あんちゃんもそう思うだろ?ま、でもこの町は基本は平和だからゆっくりしていってよ・・・あ!でも、最近一つだけ平和じゃない物騒な話があったな・・・。」
「物騒な話?」
「ああ。あんちゃんは昨日この町に来たから知らないだろうが近ごろ世界各地で暴れまわってるイカれた野郎の話さ。そいつはグリードって言うらしいんだがね、見かけに似つかず凶暴な野郎らしいんだ。」
「どんな見た目してんの?」
「少しイカツイ感じのおじさんだよ。聞くところによると悪魔の様な男だとか色々な噂があるよ。」
「ふーん。でそいつがどう凶暴なんだ?」
「・・・町を壊していくんだよ。」
「町を?」
「そうさ。奴が訪れた町はまるで隕石が落ちたかのように廃墟と化すんだ・・・。」
カフェの店主が見せた町の写真は想像を絶するものだった。
「・・・これは町だったのか⁉」
「・・・想像以上だったろ?」
「あ、ああ・・・。」
町の写真を見ると高層ビルが粉々になっていて地面は隕石が落ちたように抉れ地下鉄の電車も破壊されていた。
「その写真のようにされた町が幾つもあるんだよ・・・。」
「これをやるグリードって人間じゃねーだろ・・・。」
「まぁ悪魔の力を使うって噂があるからね。とりあえず頭の片隅にでも入れておいてよ。」
「ああ。俺みたいな流れ者だといつ出くわすか分からないからこうした情報は助かるよ。」
「・・・なら良かった笑。」
こうして俺はしばらくカフェでゆっくりした後その日に宿を探した。
~~~~~
「・・・この町にもいないか。」
「あ、あんたグリードだろ‼」
「そうだがなんだお前は・・・?」
「お前に故郷を壊された奴だよ‼」
「お前みたいな何の力も持たないゴミが俺に何の用だ?まさかこの俺を倒すつもりか?」
「・・・流石にお前を倒せるとは思うほどバカじゃないさ。ただ、刺し違えてでも俺の家族の仇を・・・‼、くらえ‼」
ダダダダダダダダダダッッッ‼
「吸引。お前・・・バカだな。爆印。」
ドカン‼
「グ、ググゥゥゥ・・・。」
「フッ、一つ良いことを教えてやろう。俺は何も町を壊すのが目的じゃない。」
「・・・どういうことだ⁉」
「ある人間を探していてな。神の力を扱う人間を。お前は特別に生かしておいてやろう。その代わりこのグリード様が神の力を持つ者を探しているとせいぜい騒ぐがいい。いいな?」
「・・・そいつが見つかればお前は町を襲わなくなるのか?」
「ああ‼なんせそいつを探して倒す為に町を破壊して回っていたからな‼俺の宿願だ‼」
「・・・あんたの宿願に役に立つかは分からんが、昨日隣町でゲリラの弾丸を手も使わずに防いだ人間がいるって噂を耳にした。」
「ほう‼それはいい情報を聞いた‼ならばこの町と隣接する町々を探して回れば会えるかもしれんな‼神の子に・・・‼」
~~~~~
俺は久々にしっかりとした宿でゆっくりと一晩を過ごした。
その後翌日の行動予定について考えていた。
「明日どうするかな~~~・・・。」
何時もの俺の予定なら隣町に行き情報を集めて・・・とルーティーンのように行動しているのだが恐らく何時ものように行動すると意図せずグリードに近づいてしまうかもしれない。
移動せずに暫く同じ町に逗留するのは何の情報もない町に移動するよりは幾分か安全だ。
幸いなことにこの町はそれなりに栄えている。
栄えているということは情報も入ってき易い。
また最悪この町を襲ってきた場合は町を離れてしまえばいい。
少し心苦しいが人を気遣って自分の命を落とすよりは全然ましだ。
こうして翌日の行動予定を決めたところで俺は寝床についた。
~~~~~
「ピストアはどんな感じ?」
「特に変化はねぇな。上手くいけばあと1~2か月で日本に向かうだろ。」
「さっすが~♪仕事が速いわね‼」
~~~~~
「・・・ここにもいないか。まさかあのゴミ偽の情報を握らせたんじゃないだろうな・・・まぁいい。次はそれなりに栄えているあの町だ。そこにいなければ更地にしてやる・・・。」
~~~~~
「ふぅ・・・やっぱり一日ホテルの中は退屈だったか・・・。」
俺は久々に歩き回らずにゆっくりしていてホテルで買ったお菓子を食べながらテレビを見たり備え付けのプールで泳いだりしていたが午後にもなると流石にテレビも新しい情報が流れなくなり退屈になってきたのだ。
「夕飯は外で食べるか・・・。」
そんなことを考えていると突然遠くの場所が爆発した。
俺は急いでチェックアウトの準備をした。
「・・・もしかしてグリードか⁉」
何故まだ状況も分かってないのにチェックアウトの準備をしたのかというと逃げ遅れるのを防ぐ為だ。
昔ゲリラがホテルの近くを襲撃した時ホテルの観光客が一斉にフロントに押し寄せチェックアウトに時間がかかりゲリラの掃射を浴びた事件があった。
俺はその時持ち金が足りなくホテルの近くで野宿していた。
最初はツイてないと思ったがその後もしホテルに泊まっていたら・・・と考えるとぞっとする。
そんなわけで俺は無事にチェックアウトを終えた時ホテルに血相を変えて宿泊客が戻ってきた。
「おい‼みんな‼グリードが出たぞーーー‼」
「何だって⁉」
「ついにこの町にも来たのか・・・‼」
「やっぱりグリードか・・・‼早めにチェックアウトして正解だったな・・・‼」
こうして俺は爆発したであろう場所を避けながら遠くの町を目指した。
~~~~~
「ハァハァ・・・流石にここまでくれば大丈夫だろう・・・。」
俺はホテルから出た後30分程走った。
「少し休もう・・・。」
木に寄りかかり木の根っこに座って呼吸を整えていた時突然遠くの方向から爆発が近づいてきた。
ドッドッドッドッドッドッドン‼
「なっ‼何だ⁉」
「ほう、まだこんなところにもゴミが残っていたか・・・。」
「・・・お前まさかグリードってやつか⁉」
「だったら?」
「・・・何でこんなことするんだ?」
「何故って気に入らないからだよ。お前らが。この私と同じ空気を吸っていることが。私と同列だと思っていることが。お前らの様なゴミは生きるにも俺の許可を取らないといかん。」
「(想像以上にイカれた野郎だな・・・)アンタ相当歪んでんな。」
「歪んでいるのではない。お前らが自由にし過ぎなのだ。お前らの様な何の力も持たないゴミは選ばれし力を持つ私に従う他ないのだ。」
「・・・自由にして何が悪いんだよ。自由にしたことで俺はあんたに迷惑でも掛けたのかい?」
「・・・少なくとも不快ではある。理由はそれで事足りる。遺言はそれでいいのか?」
「(今回ばかりはマジでやばいかもしんねぇ・・・)・・・てめぇは一生そうやって虚しく町でも壊してやがれ‼」
そうはいた俺は急いで町の路地へと走った。
「ここまで来て逃げられると思っているとは・・・つくづくバカばかりだな・・・爆印。」
「ん?足元が光って・・・‼」
ドカン‼
・・・あれだけ騒いでいたのになんとあっけない・・・、⁉」
「(あれ?確かに爆発したよな・・・?)何だよ・・・虚仮威しかよ・・・⁉」
「(どういうことだ⁉確かに爆印は発動したはず・・・)貴様・・・何をした⁉」
「ハァ?お前こそ何したんだよ。いきなりダイナマイト爆発させやがって‼」
「(まさかな・・・)お前・・・昨日隣町にいたか?」
「(何でこいつそのこと知ってんだ?)・・・いたけどそれが何なんだよ⁉」
「(やはり・・・‼)お前だったのか‼神の子は・・・‼」
「神の子?何の話をしてんだよ?」
「この期に及んで白を切るつもりか・・・‼私の爆印を防いでおいて。」
「・・・爆印?ダイナマイトじゃねーのか⁉」
「・・・その様子。お前、本当に気づいてないのか⁉」
「だから、何をだよ‼」
「・・・昨日隣町にいたんだろ?だったらゲリラの銃弾を手を使わずに防いだ者の噂は耳にしているだろう。」
「耳にしてるしそれは俺だよ。」
「それはもう知っている。その時どのような状況だったのかよく思い出してみろ。本来ならあり得ないことが起きたはずだ。」
「・・・銃弾の半分が潰れていたことか・・・?」
「ああそれだ。それこそ神の子の力。全知全能の神の力だ。」
「・・・何言ってんだよ。」
「やっと巡り合えた・・・貴様、名はなんという?」
「・・・エルティ ピストア。」
「ピストアか。その名前はエルピスからきているのか?」
「・・・さぁね。今度親に会った時聞いておくよ。」
「残念ながらそれは叶わんぞ?何故ならお前は俺に殺されるからだ。さぁ天上の神々よ!希望が絶望に破壊される瞬間を指を咥えて見ているがいい・・・‼絶印‼」
俺の足元に紫色のエンブレムが出現し光り始めた。
そのエンブレムは周囲のレンガなどを次々と消していった。
「・・・クソッ‼」
「フッ・・・‼消えろ消えろ消えろ消えろ消えろォォォ‼」
「攻爆印{連}‼」
誰かがそう言うと空中に赤色のエンブレムが三つほど現れ爆発した。
「‼・・・アルア‼」
「そこのお若いの。ケガはないかな?」
「え、ええ・・・。」
「貴様何故此処にいる⁉」
「簡単じゃよ。これだけ栄えている町で大暴れし挙句まだこの場に留まっているとは。甘かったのアーテ。」
「懐かしい名で呼ぶじゃないか・・・だが貴様とは袂を分かった。今更何の用だ?」
「なに。今更おぬしをわし一人で捕まえられるとは思っておらんわい。今日は忠告をしに来たのじゃ。」
「忠告?何の忠告だ?」
「近々、おぬしより強い印紋師二人がおぬしを倒しに来るじゃろう。」
「・・・何を企んでいる?アルア。姫上と生命ならば返り討ちにしたはずだが?」
「残念ながらその二人ではない・・・それよりそこのお若いの。わしが隙を作るから早くお逃げなさい。」
「え?あ、は、はい‼」
「やっと見つけたのだ‼逃がすわけがなかろう‼」
「何を言っておるのじゃ?今のお前の相手はこのわしじゃ‼」
こうして俺は謎のおじさんのおかげで逃げることが出来た。
~~~~~
野宿をした俺は昨日グリードに言われたことについて考えていた。
ゲリラの銃撃を受けても無傷だったことや昨日のグリードの攻撃?を受けても何ともなかったこと。
確かに俺には何か不思議な力があるのかもしれない。
そう考えるようになっていった。
だがそれが何なのかは皆目見当がつかない。
よく漫画やアニメで扱われるような念力だったり瞬間移動ならすぐに理解出来るのだがそういったことが何にも出来ない超能力なんて聞いたことがない。
でも銃弾を消滅させたりグリードのよく分からない超能力の様な力を封じたり特殊な力であることは間違いないはずなんだが・・・。
「超能力を封じる・・・?もしかして‼超能力を無効化する超能力?」
そんなことを考えていると近くの町の住人が近づいてきた。
「ようあんちゃん‼そんなところで何してるんだい⁉」
「何って言われてもな・・・さっきまで寝てたんだよ。」
「寝てたってあんた知らないのかい?グリードの話を‼」
「あ、いやその話は知ってるよ汗。俺は昨日グリードに襲われた町でホテルに泊まっていてね。そこから逃げてきてここで野宿してるんだ。」
「あぁ・・・そういう・・・大変だったね・・・。」
「いや、生きてるだけマシさ・・・。」
「・・・そうだね。もしこの後行くところがないならうちへ来ないかい?昨日の話を良ければ聞かせてよ。」
「ああいいぜ。その代わり飯を食べさせてくれると助かる。昨日の夜から何も食べてないんだ汗。」
「お安い御用さ‼じゃ、家まで案内するよ。」
~~~~~
俺は昨日の出来事を話しながら飯を待った。
「それは大変だったね・・・。」
「ああ。そこから少し休んでたんだ。そしたら運悪くグリードと鉢合わせしちまったんだよ。」
「君・・・それでよく生きていたね・・・。」
「それが何か無茶苦茶強いおじさんが現れてさ、妙な力でグリードと戦って俺を逃がしてくれたんだよ。」
「・・・その人はアルア様だな。」
「アルア様?」
「アルア・ルチェーロ。印紋術とかいう不思議な力を使うおじさんだよ。なんでもグリードとは昔馴染らしくて今は数々の凶行に及ぶグリードを止める為の唯一の切り札なんて言われてる。警察もグリードが出たらまずアルア様に連絡を入れてるからね。」
「・・・詳しいな。あんた。」
「この町じゃ有名なことさ。みんな口にしないだけでね。少し昔はその名前を口にしただけで命を落とすと本当に信じられていたしそれ程に恐ろしい存在なんだ。」
「そうなのか・・・じゃあそんな詳しいアンタに聞きたいことがあるんだが・・・聞いてもいいか?」
「・・・いいよ?」
「この地域で神の子に関する噂はあるか?」
「・・・噂っていうより神話ならあるね。」
「・・・どんな神話なんだ?」
「今じゃ真偽の確かめようがないんだけど紀元前より神の力を扱う人間が世界各地で起きている災害や天災などを解決して回っていた・・・っていう話さ。なんでもその人間というのは火山のマグマの中に入ろうが氷の大地で氷山に挟まれようが何ともないらしい。またそうした人間は一世代に一人しか現れないらしい。そうした人間を神が現世に遣わした存在。神の子と呼ぶっていうのがあるよ。」
「・・・一世代に一人ってことは二人以上は存在しないってことか。」
「そうだね。でも長く生きてるけどそんな話は神話以外では聞いたことないな笑。」
「・・・だよな笑(・・・これはもしかすると俺はその神の子って可能性もあるな。)」
「ああそれと神の子の出現は突飛なものらしい。血縁関係とか巫女や信者といった聖職者・・・つまり神に近い仕事だとかは関係がないらしいよ?」
「何でそんなこと知ってるの?」
「僕、学生の頃は神話学を専攻しててね。神話とかは普通の人より詳しいんだ。」
「成程ね・・・その知識に甘えてもう一つ質問させてほしいんだが印紋術って何だ?」
「・・・それは僕も詳しくは知らないな。でもアルア様は印紋術のことを悪魔や天使から借りることによって使える技って言ってたからやっぱり普通の力ではないと思う。」
「悪魔・・・天使ねぇ・・・。」
「どう考えても現実離れした話だよね・・・笑。」
「本当だよ・・・あーもうやめやめ‼こんな話はやめにしよう‼」
「そうだね‼丁度ご飯も出来たし次はピストアの旅の話を聞かせてよ‼」
「おうよ‼」
こうして俺たちは旅の話をしながら食事を楽しんだ。
~~~~~
「・・・もう行っちゃうのかい?もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「いや、何時までも世話になるわけにもいかねぇ。それに次の町に行って宿も探さないと。」
「そっか・・・あ、ちょっと待ってて‼君に渡したいものがある‼」
「・・・?」
「はいどうぞ‼」
「・・・これは?」
「日本行きの空港のチケットだよ。僕さ、本当は明日日本に行って色んなところを回るつもりだったんだけど・・・コロナのせいでイベントの中止やら開催延期やらで予定が流れちゃったんだ。でも君ならそんな予定とかは関係ないだろ?このまま捨てるのはもったいないから良かったら使ってくれ‼」
「・・・いいのかよ。こんな大切なもの。」
「ああ。ピストアなら好きに使ってくれて構わない。」
「・・・じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ‼」
というわけで俺は日本行きの飛行機に乗る為に空港へと向かった。
~~~~~
「もうすぐか・・・。」
俺は初めて日本へと向かう。
何故日本へ行こうと思ったのか。
それには幾つかの理由がある。
まずはチケットをもらったことだ。
空港のチケットは中々に高価なものだ。
それがタダで手に入ったのだ。
使わない手はあるまい。
次はグリードの事だ。
グリードは俺のことを狙っている。
多分昨日聞いた神の子神話が関係しているのだろう。
このまま隣町に移動する程度の行動範囲ではまたいつ出くわすのか分かったもんじゃない。
それならばいっそ日本という外国に移動した方が安全だ。
最後の理由としては日本は俺の知っている国の中でかなり治安の良い国である。
それに加えて食事もおいしいらしい。
こうした理由から俺は日本へと向かった。
~~~~~
「ここが日本か・・・‼」
俺は日本についてから鉄道を使い色々場所や食べ物を満喫した。
そしてその中ですれ違う人々の話を時々耳にしたが奇妙な話も耳にした。
「風太ー今日も送ってよー。」
「漿郗お前俺の事タクシーかなんかと勘違いしてるんじゃないのか?」
「まぁいいじゃないか。減るもんじゃあるまいし。」
「減るんだよ‼俺の体力が‼」
「ケチくさー。」
「・・・けち臭いな。」
「うるせー‼」
~~~~~
「はぁー・・・今日もやんのかよー。一日くらいよくね?休んでも。」
「馬鹿者‼こうしている間にもやつは数々の凶行を繰り返しているのだぞ‼早く強くなって倒しに行かねば‼」
「(へぇ・・・日本にもグリードみたいな凶行をする奴がいるんだな・・・。)」
「そうですね。そしたらとりあえず俺たちのコンビネーションを高めないと。」
「・・・確かにモブ男の言う通りだな。」
「そのモブ男呼びやめてくださいよ~ニーレイさ~ん♪」
「・・・キモ男。」
「グサッ・・・‼」
「あ、口でやるのねその擬音。」
「(日本の高校生は不思議な奴らが多いな・・・。)」
~~~~~
こうして俺は日本でしばらく放浪をするわけだがこの中の高校生たちの誰かと今後会うことになろうとはこの時は思ってもみなかった・・・。