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愛され続ける皿盛。京都の100年以上続く食堂のおはなし。【フードエッセイ】

これは4年前のお話。
京都で大学生活を過ごしていた私は、管理栄養士の国家試験に追われていた中でつかの間の楽しみといえば京都ご飯散策だった。

その頃の食マイブームは懐かしの老舗へといくこと。中華系なら鳳泉やマルシン飯店、寿司なら末廣寿司、喫茶店は六曜社やスマートコーヒーと昔ながらの京都の風景を味わえる雰囲気が不思議と心穏やかになる。

そのひとつが「篠田屋」だ。
三条大橋付近にあるブックオフの横にあって、昭和の家にタイムスリップしたような空気感を解き放つ。
そこはもう外観からしていい味なのだ。

店に入ると窓際のテーブル席に案内された。あたりを見渡すと常連さんらしき人が多くぎゅうぎゅうで賑わっている。何をみんな注文しているのだろうと、チラッと横目でテーブルの上を見る。その時覚えているのは、ラーメンやうどんなど各々が好きなものを食べているようだった。

私は一瞬、"一番人気"と書かれていた中華そばを頼もうかと揺らいだから焦る。注文の品は店に入る前から決まっているのだ。この優柔不断な思考はいつも注文する時に困らせてくる。
私はその思考の誘惑に我慢しながら、最初から決めていた"皿盛り"を注文した。

"皿盛り"
それは篠田屋のオリジナルメニューだ。
"御飯の上にカツのせてカレーうどんのルーをかけたもの。ちょっと和風な感じがいい!ボリュームたっぷり!ガッツリ食べたいかたにおすすめ。そのまま食べてもソースをかけても七味をかけてもOK!"
メニューには皿盛の写真とその脇に小さく可愛らしい文字でそう書かれていた。

皿盛を食べたかった理由は、カレーをわざわざあんかけみたいにするなんて!と奇想天外な発想に無性にワクワクしたから。
どこかで皿盛の存在を知ってからその好奇心は、よくあるカレーには抱かない新たな感情を覚えて、私の胃に収めたいと異様な食欲求を抑えることができなかった。

私の目の前にとうとうやってきた。
見た目はよく見るカレーだけど、その艶めきは日本の餡文化を象徴するものだった。

ついにいただく。
今から私はこやつを胃の中に収めるのだと長年片思いしてきたから絶対逃さないという謎の欲求に狩られながらドキドキと一口頬張った。
和風のカレー餡かけは何口食べてもスルスルと飲み込むことができ、ペラッペラのカツはスナック感覚で食べれるから飽きがこない。脇役という名の福神漬けはもはや主役級で一層食欲を増進させてくれる。
シンプルイズベストなうまさ。
これは胃もたれしてても何杯だって行けてしまう味だ。

そんな感じて私はペロリと皿盛を食して店を後にした。この日の天気は秋の快晴で、三条大橋から見える鴨川のきらめきは一層増していた。

きらめく鴨川の穏やかな日常よ

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