
最後の弟子の店"華祥"のうまい秘密。大雪の週末京都でいただく中華のおはなし。【フードエッセイ】
週末京都の朝、カーテンを開けると雪国のような真っ白な景色だった。晴れ間から光が差し込むとしゃんと舞っている粉雪がキラキラしている様子は嬉しい。旅行先の景色で雪を見ることはあるけれど、日常に雪が見れるのはそうなかったので後悔ないよう目に焼き付けておいた。
それは夜になっても続いた。たまに吹く冬の風が吹雪のようになって夜ご飯を食べに行こうと歩く顔にくらいつく。私はマフラーに顔を埋めながらしかめっつらで歩き続ける。今日の朝はあんなにわーいとテンション上がるものだったが、今の私にとって雪は天敵だ。その立ちはだかる雪吹雪にただひたすら気合いで歩きなんとか店へと到着した。

本日の晩酌は元田中付近にある「華祥」という中国料理屋。創業者の田口茂雄氏は、世界に名を誇る料理人である陳建民氏の最後の弟子だそう。惜しまれながらこの世を離れた後は、息子である貴典氏が店を支え続けている。
店内に入るとテーブル席は全て埋まっていた。厨房にはジャージャーとフライパンを炒める音と香ばしい油の匂いが食欲を掻き立てる。
私たちは19:30から予約していたことを伝え、案内された2階席のテーブルに座った(予約必須)。

絶賛推しがあったので早速行くことにしたのだ。
席に着くとメニューを手に取り、後ろのページに書いてある飲み物を見た。中華といえばビールしか勝たん。だからすぐさま瓶ビール(スーパードライ)にグラス2つを頂いた。肝心の料理はまず前菜から。蒸し鶏の胡麻ソース和え、クラゲの酢の物…絶対ビールに合うなと思いながらメニューを丁寧に眺めていった。そこには"皮蛋"という単語があった。
実は"皮蛋"というものを人生で食べたことがない。
皮蛋と紹興酒で箸が止まらんというのを飲み屋のおっちゃんから聞いたことがあったので酒飲み精神が無性に心掻き立てる。というわけでクラゲと皮蛋の酢の物を注文することに。
そして無類の揚げ物好きの相方セレクトで唐揚げ(確か油淋鶏系だったような…)と、ちょっとさっぱりとした味が食べたかったので白菜と豚の煮込みを頼むことにした。

最初にお待ちかねのクラゲと皮蛋の酢の物が到着した。
食材たちにまとわりつく艶めきがもはや酢の物の領域を超えている。まずはお手柔らかに胡瓜とクラゲと鶏肉を頬張ると無邪気に踊り出す食感たちがもう楽しい。そしてコーティングされた油分のギュンギュンした旨みが堪らんかった。
そして酒飲み好奇心はもう抑えることができず、おまちかねの皮蛋を口に入れる。その瞬間、私の身体は停止した。自分が想像していた皮蛋の触感とは異なる現実だったのだ。というかそもそも私が想像していた"身が引き締まった漢方が効いている硬い卵"という皮蛋像があまりにも現実からかけ離れた想像だった。そういえば皮蛋とは何か調べておらず勝手な妄想ばかりしていた。妄想と現実の差が違いすぎるとこうなる。なんでもギャップは程よいくらいが良いのだと身をもって感じる。
黄身のまわりのぷるんぷるんしたやつが紹興酒と合うんだなーとか思ったけど、私の皮蛋デビューはまだまだ先であった。
しかしながらこちらの酢の物、なぜこんなにも箸が進んでしまうのか…。皮蛋デビューは惜しくもならずだったが、酢の物がこんなにもうまいなんてと少しバカにしていた酢の物像が、私の中で新たにうまいもんとして更新され、わたくし一品目で大感激であります。

そんな脳内実況しているうちに相方おまちかねの料理がやってきた。もも肉をからっと揚げて皿にドンと盛り、仕上げに酸味のある醤油?ベースのネギダレをたらりとかけたやつ。有無言わずこちらのお料理絶品でありまして、特に絶妙なのが中華料理のだんだん厚かましくなってくるガツンとさが一切感じられないタレの酸味加減。このタレ家に持ち帰ったら唐揚げ一生食えるぜ…と厚かましき願望を胸にとどめながら食した。

そして最後の料理がやってきた。
白菜と豚バラ煮込みというシンプルイズベストな料理。
普段だったらあんかけそばとか天津飯とか炒飯とかいっちゃいそうになるけど、この日は何故かシメはじんわりと穏やかに終わりたかった。奇遇にも相方と意見が一致したのでこちらのお料理を選んだ。その選択肢は大正解だった。
店員さんが"何もつけなくても召し上がれますし、小皿に入っているタレにつけても美味しいですよ"と言ってくれたので出汁も飲める旨さなのだと蓮華にスープを掬ってずずずぅーっと流し込んだ。そして白菜と豚バラを箸で重ねて頬張った。うん。豚バラの奥から溢れるコクと白菜のとろける心地、そしてダシの柔らかさ。優しさと旨みの最高潮シメで理想中の理想のシメだった。
味変で小皿に入っているタレをつけて食べるとまた一味違う爽やかさが登場。最後ら辺に発見するであろう春雨をタレにつけて啜るとこりゃまた最後まで堪らんのだ。
軽く箸が進んでしまう優しい味なのであっという間に真っ白な皿となってしまった。
そんな感じで中華晩酌のひと時は幕を閉じた。京都の新たな店を開拓できた上に皮蛋という新たな味を知ることができて色々大満足な状態で会計を済まし、店をあとにした。
さっきまで吹雪いていた雪もやんで今は寒さがあるだけだ。これなら少し散歩できると思った私たちは百万遍の方へと向かい、途中にあるジャンカラの誘惑に負けて(歌ではなく)ダーツを1時間ほどして帰宅した。
その翌日はもう雪は降ってなくて、散歩していたら雪解けの雪だるまがあらゆる所にいらっしゃって愛でした。

