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渋谷学園渋谷(渋渋?)中学2024

中学入試探訪シリーズ(い、いつの間に!)、今回は、最近注目されている「渋谷学園」の渋谷中学の入試問題を見てみたいと思います。業界では「渋渋」と呼ばれているというような話ですが、もうちょっと考えた通称にしてやれよといいたいですね。
某受験塾の偏差値ランキングでは御三家、筑駒に次ぐところに位置しています。しかし、偏差値ランキングというモノサシでは本質を測ることはできないと思います。
やはりそれぞれの入試問題の内容を検討して、その学校のメッセージを掴まなければいけないのではないでしょうか。

計算で素数37が絡んできますが、13が出て来ますので、481が13*37であることに思い至るのはそれほど困難ではないと思います。それ以上の厭らしさはありません。
倍数の問題は3つのベン図を描きましたが、実際には使うほどのことはありません。
整数の話と「約束記号」の問題ですが、ショートカットがあります。
回転体の体積は普通に底面積×高さ×(1/3)で求めた方がベターですね。

大問1について、かなりキャプションに書いてしまいました。
(1)では、計算で素数37が出て来はしますが、「苦役」を強いるものではないでしょう。
(2)は集合の要素の数の話になりますので、ベン図を用いてビジュアルに示しましたが、実益はあまりありませんでした。「偶数」という部分を見過ごすと可哀そうなことになります。公務員試験等の命題真偽の問題で、解答のために後付けで作られた「ベン図」もどきの解説を目にしたことがありますが、本当のベン図は空集合の部分も省略しないで描くものだと知りました。基本となる集合が3つの場合のベン図は上の解説通りに書かなければなりません。「ベン図」と似たものとして「キャロル図」というのもありますが、これは下の図を参考にして下さい。左側が「ベン図」、右側が「キャロル図」です。

紫色のA~Hが対応する箇所を示しています。


(3)はガタガタ書きましたが、実は2^10<2024<2^11なので、【2024】=10だと分かります。同じく 2^4<17<2^5 で【17】= 4、2^5<33<2^6で【33】=5なので、4*5=20 とやる方が速いです。
そう考えるとこの問題の問題文の書き方はまだるっこしいですね。もう少し練った方が良かったと思います。
(4)は、直角二等辺三角形の発見や相似の利用が入っていますが、回転する直角三角形の辺の長さが求まりますから、単純に公式を用いて求めることができます。しかし、「パップス・ギュルダンの定理」を用いてみたかったのでそうしました。
この定理は、回転する図形の面積Sとその図形の重心から回転軸までの距離dが分かれば、回転体の体積は2πdS、つまり図形の面積Sに重心の移動距離(2πd)をかけて求まるという優れモノです(証明は別の機会にやりたいと思います)。通常のやり方だと、柱や錐の体積を足し引きして求めなければ、あるいは相似な立体図形の体積比を用いて求めなければならないところ、これを用いれば、簡単に求積できる場合がかなりあります。面白いのは、指輪のように円を回転させた回転体の体積を求めることもできるということです。例えば、
中心Cと直線 ℓ の距離が6、半径3の円を ℓ の周りに一回転させてできる回転体の体積を求めよ。
という問題では、2π×6×9π=108π^2 と求めることができますね。

さらに面白いのは、回転体の体積が面積と重心と回転軸までの距離という2つの変数の関数として得られるということで、これらさえ変わらなければ、回転の途中で重心周りの回転を加えてできる立体の体積も求まるということです。

続けて参りましょう。

正六角形の隣り合う頂点に中心から線分をひくと、それらと1辺を3辺とする正三角形ができる
ので、そのことから二等辺三角形が発見できます。
正n角形の内角(外角の方が楽!)が分かれば、あとは三角形の外角
の大きさが、隣り合わない2つの内角の和に等しいことを使うだけですね、


御三家+筑駒を経験しているので、とても素直な問題に見えます。
まず切断面がどうなるのかも間違えにくいと思います。
参考までに右側から見た図をいれましたが分かりやすいと思います。
CTスキャンのように、上段、中段、下段がどうなっているのかを図示してみました。

大問2は立方体ブロックを積み重ねた直方体を切断するという問題でしたが、キャプションにも書いた通り、著しく困難な問題には見えませんでした。ただ、御三家+灘+筑駒の問題を見た後なので、そう見えるのかもしれませんね。切断の影響を受ける立方体ブロックと、受けない立方体ブロックにちゃんと弁別できるかがポイントですが、三辺比が3:4:5の直角三角形の相似形であることを認識していれば、影響を受ける立方体ブロックを数え間違えることはないと思います。影響を受ける立体ブロックは切断により数が倍になり、これと影響を受けない立体ブロックの数を合計すればよいというだけの話です。

続けます。
階差数列の問題ですね。

これは、階差数列が初項4、公差3の等差数列になっていることに気付けばよい問題ですが、∑ k^2 が出てくるところを小学生にどうやってクリアさせているのかが知りたいですね。これまた釈迦に説法ですが、ある数列{a_n}の第 n 項と第 (n + 1)項の差を b_n、つまり、b_n = a_(n+1) - a_n (n=1, 2, 3, …)とした数列{b_n}を数列{a_n}の階差数列と呼びまず。
n≧2において、
  a_n = a_1 + (数列{b_n}の初項から第 (n - 1)項までの和)
として数列{a_n}の一般項が求まるというものです。大体の場合、n≧2とことわって求めた一般項 a_n の式がn=1のときにも成り立ち、すべての正の整数 n についてその a_n の式でOKとなることが多かった気がします。
(3)と(4)は数学的な記述で議論した方がはるかにクリアになると思います。特に(4)は二次方程式を解くことになり、5041が71^2であるという2桁の素数の平方数を認識していないと厳しいですね。これは満点阻止用の問題でしょうか。

数列といえば個人的には漸化式が好きでした。n の関数として数列を決めていくという「一般項」という考え方(「関数的定義」とでもいいましょうか)に対して、そこまでの項の値から当該項の値が決まるという「帰納的定義」の方が非常に面白いのです。漸化式の話は確率の問題と融合することが大学入試ではよくあり、状態遷移図などを描いて考えたりします。


なんだこれは!完全にサインカーブ入ってますね!
これは円の性質(円周角の大きさは対する弧の長さに比例する)を用いますね。

大問4は少し衝撃的でした。扇形の面積が等速円運動の時間に比例するというのは直感的に分かりやすいのですが、△OAPの面積は円の半径を r として、(1/2)*r^2*sin ∠POA となりますから、時間と面積の関係を表すグラフはサインカーブを描きます。この知識なしに自信をもって答えるというのはどういうことなのでしょうか?もっとも選択問題なので、聡明な受験生なら「どうやら比例とかではなさそうなので、イとオは違うよな。A, O, Pが一直線上に並ぶときには面積が0になるから、アとウも違う。じゃあエとカのどちらかだ」というところまではいけそうですが、エとカの弁別はなかなか厄介だと思われます。
ここレベルの中学校に入学したい小学生には、高校数学まで勉強しておくことを進めたいですね。大体中学数学というのはスカスカで多くの中高一貫校では中1で終わらせて中2からは高校数学です。そういう意味で公立中学で3年かける必要があるのかと思ったりもします。もちろん、「義務教育」として必要があるから誰にも無理なく学べる範囲を限定して中学校で扱うことにしているのだと理解していますが、事実上高校全入の状態になっているので、中高一貫教育ということにして、習熟度別、もっといえば「飛び級」も認めて、資質に応じてどんどん先を学べるようにすればよいのではないかと思います。逆に「留年」も導入すれば「学力低下」を防ぐことができるはずです。
学校の本旨は「学力を身につける場である」ことだと思います。ところが日本の学校では、児童・生徒に掃除をさせたりします。しかしそういったことは本来家庭が行うべき「躾」であり、学校がそれを行うというのはちょっと違うのではないでしょうか。学校にあまりに多くのことを求め過ぎた結果、学校現場の疲弊という深刻な社会問題を招いているのではないかと思います。
モンスターペアレントの問題も然りです。学校はサービスプロバイダーではありません。保護者は消費者ではないのです。なのであまりにもおかしな保護者に対しては民事で提訴してもいいでしょうし、公立学校であれば「公務執行妨害」、私立学校であれば「威力業務妨害」で刑事事件にしてもいいのではないかと考えます。
学校に文句をいうのはおかど違いで、むしろ本来なら家庭が担うべき機能まで果たしてくれているのだと考えて感謝すべきなのです。
ただし、学校サイドも「指導者」として上座から児童・生徒や保護者に接する、というのも違うと思います。従来のように知識が豊富な教師が教えるという形、つまり「知識勾配」に基礎付けられた教育のあり方は変容しています。そこら辺の「教え方が上手い」先生方よりももっと分かりやすい解説がYouTubeなどで溢れかえっています。分からないことはググればすぐに調べられます。そのような状況で「教える」ことは先生方にとって非常に大きな課題を突き付けることになります。
あら、入試問題の検討から、話が大きくそれてしまいましたね。この話についてはまた稿を改めたいと思います。

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