映画:The Son/息子
先日、見てきました。わりと明るい印象のポスターで、予告編を見ると、息子がうつ病を患っているのだなとわかります。
きっと、親子の再生の物語的なものだろうと思って、俳優もヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、アンソニー・ホプキンスと有名な人が出ているし、と軽い気持ちで見に行ってしまいました。
が、実際はかなり厳しい内容の映画でした。
少なくとも、うつ病で苦しむ当事者やその周囲の人が見に行く場合には、メンタルサポートを受ける準備が必要ではないかと思います。
同じ監督の過去作品で「ファーザー」を最近見ていますが、これもとても怖い映画でした。認知症を患う父(アンソニー・ホプキンス)と娘(オリビア・コールマン)の話でしたが、認知症の人が見る世界が実に緻密に描かれていて、とても怖かったです。
この映画のときも感動の名作みたいな宣伝に騙されて?見に行って、めっちゃ怖かったんですよね・・・家族の物語をなんでもかんでも感動の名作的に宣伝するのやめてほしい・・・。
今回の映画も結末に至るまでの物語が緻密で、役者もうまくて、とにかく逃れられない怖さがありました。
というわけで、以下完全にネタバレするのでご注意ください。
メンタル面が心配な人はネタバレを読んで行くかどうか決めた方が良いと思います。
父親(ヒュー・ジャックマン)はとても優秀な弁護士。
大企業に勤めている様子で、どうやら彼の父親(アンソニー・ホプキンス)は政界にいた様子。前妻(ローラ・ダーン)と息子(ゼン・マクグラス)のいる家を出て離婚し、不倫相手だった現在の妻(ヴァネッサ・カービー)との間に赤ちゃんがいます。
そこへ、前妻が「息子の様子がおかしい」と連絡してきます。
息子に話を聞くと「母さんとは一緒にいられない、父さんと暮らしたい」と言い、リストカットの跡もあり、現在の妻も賛成してくれたからと、妻と赤ちゃんのいる家で息子も一緒に暮らし始めます。
いやいや。思春期でメンタルバランス崩している様子の息子ですよ・・・。
このあたりでもう「あかんやろ・・・」という最初の心の声が・・・。
息子は父親と仲良くしているときもあれば、離婚で母親がどれだけ苦しんだか知らないだろうと父親を非難したり、離婚後しばらく母親が父親をけなしているのが許せなかったと母親を非難したり、ときどきで複雑な心境を吐露していて、どう見ても心のバランスを崩していて、専門家に診てもらうべき状況とスクリーンの外にいる私にはわかります。
が、父親は「息子が心を開いてくれている」「話をしてくれている」というような感覚で、親の欲目か、人間の正常化バイアスか、とにかく息子の状態がまったく見えておらず、さらに父親の考える正しさを説いて、息子は黙り込んで話が終わる、というような場面もあり、いやいや、あかんやろ・・・という心の声が止まらない。
さらにまだ新婚な妻と父親。ちょっとラブラブしているところを息子が見てしまったり。
リストカットを続けているのを見た父親が、リストカットを禁じてしまったり・・・。
いやいや。私は専門家ではないですが、リストカットをしている人にそれを禁じたら、もっと違うことをするだけで、禁じるのではなくてそれをする原因の解決が必要なわけで、早く専門家に診てもらおうよ・・・と思うわけですが・・・。
案の定、自殺未遂で救急車で運ばれます。
そこで、重度のうつ病、希死念慮が強いから入院が必要と医師から告げられるわけです。
ただ、入院には法的拘束力がなく、本人も同席の場で親が同意する必要があるそうで、本人同席で父親と前妻が入院に同意するよう求められるわけですが、ここで息子は「家に帰りたい、ここは頭のおかしい人ばかりで同じように扱われる、ひどい扱いを受けてる、助けて!」と泣き叫び、入院に同意した両親を見て手のつけられない暴れ方をして部屋の外へ連れ出されます。
どう見ても、精神的に深刻な状態だと、またしてもスクリーンの外にいる私にはわかるんですけど、両親は泣き叫ぶ息子の様子に胸が張り裂けんばかりの表情で、結局病院を出るか出ないかのところで、やっぱり連れて帰ろう、と翻意して息子を家に連れて帰ってしまうんです。
いやいや、あかんて。あかんてそれは。専門家の言うことは聞こうよ・・・と、もう心の声が口から出そうになるほどでした・・・。
そして自宅に連れて帰って3人で穏やかに話をしていて、3人で出かけようと相談していると、息子が「病院ではシャワーを浴びられなかったからシャワーしてくる」と行って部屋を離れます。
そのときに両親にお礼を言って部屋を出るんですよ・・・。
なんというか、その結末に向けて、話が緩やかに確実に進んできて、もう絶対そうなる、ってわかる状況なのに、スクリーンの中はとても穏やかで。
あかん。それはあかん。もうあかんて・・・ってなって、スクリーンを正視できなくて、ちょっと斜めに見てたんですけど・・・
大きな銃声が響きます。スクリーンの中よりも先に私の斜め後ろに座っていた中年女性が大きな悲鳴をあげていました。この女性、このあとずっと啜り泣き状態で、メンタルが心配になりました・・・。
銃声が響いたあと、暗転、後日談として、父親が完全にメンタルバランスを崩してしまっていて、それを妻がケアしている様子がちらっと描かれて映画は終わりました。
不倫で離婚されて、息子まで失ってしまった母親はどうしただろう・・・と思うものの、あんまり考えたくない感じでした。
(亡くなってる可能性まであると思いました・・・)。
話が緻密で役者もうまくて、スクリーンのなかで確実にその結末に向かっていく様子を見ているのが本当にこわい映画でした。
救いのない結末で、人に気軽におすすめできる映画ではないのですが、前回の「ファーザー」同様、自分が当事者だったらこうなってしまうのか、という恐怖は知っておいてもいいのかもと思いました。
そうそう、映画の最後に自殺防止のための情報がたくさん出ているのですが、ここに和訳がついてなかったことを批判している投稿を読みました。WHOの指針で自殺報道のときに、必ず相談窓口の案内が記事の下についている、あれがこの映画の最後にも出ていました。
絶対必要な情報だったので、日本語で日本のサポート連絡先等を載せておいてほしかったなと思います。斜め後ろに座っていた女性、大丈夫だろうか、と思いますし。
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