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心の扉を開いた黄金の鍵

ものがたりの はじまり、はじまり

 時は戦国時代。

ここはヨーロッパ中世のイタリアとバチカンの中間に位置する、とても小さな国。

この国の名前はフローレンス国といいます。
まだ世界中にあまり名前を知られていない小さな国。

国民は1500万人位。
そして国土はなぜか今の東京ドームの広さに匹敵するくらい。
日本から見ると大きな広さかもしれないけれど、世界から見ると、地図を開いた時のように小さくて、住む人たちも少ないそんな国です。

この国の産業はアート、芸術です。
絵を描く人、音を奏でる人、仲間と一緒に歌を唄い、踊り、そして時にはパフォーマンスで人々を楽しませる。
そんな人たちが集まってアートを作り出して、世界中の人びとにそれを伝えていこうという志の高い人たちの集まりです。

この国のキャッチコピーはハミングバード。
国王とここに集まる芸術家たちが共に考え、そしていつしか人々の口から出てきたキャッチコピーなのです。

国王の名前はアルフレッドといいます。
生まれた時にその名前をもらい、先祖代々の血が彼の身体の中に流れていて、そして先祖と共にこの国の未来を見続けてきています。

彼が先祖から受け取ってきた宝物。
それはクリスタルでできた黄金の鍵。
ずっしりとしていて手に握った時にひんやりとした感触があります。

それを太陽の下にかざしてみるととてもキラキラとして輝いていて、彼はいつもそれを太陽にかざすたびにうっとりとした気持ちでみていました。

けれど・・・
彼の大切にしている宝物は今、彼の手の中にはありません。
気が付いたらどこかに見失ってしまっていたのです。

彼はそれを探し求める旅に出ました。
国を出て、イタリア、バチカン、その国境を越え、そして遥か彼方大陸を横断し、モンゴルの砂漠に辿り着きました。

広大な砂漠の中に幾日も幾日も探し求めて歩いていると、突然、彼の全身に砂嵐が襲ってきました。

雨が一滴も降らないのにものすごい強い風が吹いてきて、そして目の前が黄色に砂で覆われていき、その砂で彼は埋もれてしまいそうなりました。

ここから逃げ出さなければ、これを乗り越えなければ、黄金の鍵を取り戻すことができない。

そんな気持ちで彼は必死です。
そしてある小さな洞窟を見つけ、そこに砂嵐の中を這いながら洞窟の中へと進んでいきました。

洞窟に入ってほっと一息ついたとき、彼はあの砂嵐から身を守るマントを身につけていたことに気がつきました。

それを身体から外し、ポケットに入っていた砂を外に出そうとしていた時に、砂とは違った手の感触がありました。

あっ、と想い彼はそれを手につかみ、薄暗い洞窟の中で目の前に持ってきて、ようやく気がつきました。
あの探し求めていたクリスタルでできた黄金の鍵が、彼のポケットの中にあったのです。

ああ、やっと見つかった。
その想いで喜び、そして意気揚々と国に戻っていきました。

実は国を出る時に、彼は一つの悩みを抱えていました。
この国に集まる人たちはみな、アートや芸術で自分の才能を開花させています。
けれども彼はその国の国王でありながら、自分の想いを表現することができませんでした。
幾日も苦しみ、悩み、そして身も心も疲れ果てていました。

砂漠での困難を乗り越えて国に戻ってきた時に、彼は気がついたんです。

才能が溢れる人たちがこの国には住んでいる。
そしてそれを掌る自分自身。その自分自身は、人々の心を掌握し、彼らが生き生きと伸び伸びと過ごせるその場を作り上げる才能が自分にもあった。
そして自分にも開放的な心と物事を表現する力があり、それが国民たちに伝わっていた。

国民たちの喜び、笑顔、それを改めて感じることができたのです。

あの旅に出る前の苦しみ、イライラ、憤り・・・

その感情は今はすっかり消えていて、全ての物が美しく見え、そして一人ひとりの国民たちが愛おしく感じられ、それが自分と写し鏡であると感じられるようになっていました。

彼が探し求めていたあの自分を解放する、ということは実は自分の内側にすでに宿っていた、そしてこの国民と共に触れ合い、関わることで自分は心を解放することができた、全ては自分の内側にあるんだ、ということを感じていました。

それから10年の時間が経ち、国王は少し年を取りました。
あのときの気持ちは今も変わらず、彼の内側に眠っています。

そしてこの10年間、この国だけでアートを表現していた人々は世界中で表現する者へと変わっていき、今度は世界中からアートを教えて欲しいという人々が集い、集まり、そして世界の人びとが見守るユートピアへと変わっていました。

彼はさらに10年後、20年・30年、100年経った時の美しい世界を心に描き、その想いをこの国に集まる人々のハートの中に少しずつ落とし込んでいけるように、日々関わり、努めています。

一体これから10年後、この国はどのような素晴らしい世界に変わっていくのだろうか、そこに想い馳せながら、今日も一日、美しい夢を見ながら深い眠りにつきます。

そして目覚めると、また新しい一日が始まるのです。
 
おしまい、おしまい

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