のこった記憶
その人は、ぼくの顔を見るなり不適な笑みを浮かべて口をひらく。
「あいつが来る」「あいつには気をつけて」「後ろからナイフで刺されるから」
物騒にな助言は、ベッドから起き上がることのできない寝たきりの方から受け取った。介護施設の4人部屋の居室。経管栄養でいのちをつないでいる方だ。
もちろん、あいつは誰かわからない。周りにナイフをもった人なんていない。
なにが見えているのだろうか。ぼくはどう映っているのだろうか。
「ありがとう、気をつけるね。」
その方の世界観にあわせて返事をしてみる。ぼくが見えている世界の話をしても意味はないと思うから。
「気をつけてね」と、不適な笑みがニッコリに変わった。誰かの呪いが解けたのだろうか。ちょっとでも安心して笑っていてほしい。
記憶にのこしたい出来事は、どうラベルをつけておけばいいのだろう。深い感動なのか、衝撃的な恐怖なのか。
ぼくはぼくの最後を迎えるとき、どんなことばを残したいのだろうか。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。