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久しぶりに通勤電車に乗った。
今日から実務者研修のスクーリングがはじまり、週一日だけ通勤の時間帯に電車に乗ることになる。
かれこれ3年ぶり。前職の時は毎日乗っていた電車。単なる移動手段としての電車が、今日は旅になった。
ぼくの住んでいる街はそれほど都会ではない。ぼくの都会のイメージが東京山手線なのは、芸人をしていたころ東京に住んでいたから。ギュンギュンに押し込められた車内で、詰め込まれた火薬のようにイライラが今にも爆発しそう。狂気が蒸発して純度を増している。仕事に向かう人もいれば、明け方に家路につく人も交差して。到底、旅だなんて考えもしない。結局列車は旅をするものではなく、物を移動させるために生まれたのだと突きつけられているようで。
東京の通勤電車に乗って毎日仕事に行っている人を思うと、今のぼくはとてもじゃないが東京では働けない体になってしまったなぁと感慨深くなった。
ちょうどよく空いている社内がぼくは好きだった。通勤中はもっぱら本を片手に30分の乗車時間が待ち遠しくて仕方がなかった。
若気の至りで「俺は死んだような顔をして通勤電車に乗るサラリーマンにはなりたくねぇ」なんて口にしてみる。
久しぶりの電車。車内は黒かった。黒のスーツに身を包み、黒のスプリングコート。黒のブラウスにスカート。黒い鞄と黒の靴。とにかく車内は黒かった。猫背でスマホゲームをする。ちっちゃい画面に睨みを効かせスマホゲーム。広角は下がり眠そうな目をした大人たち。
反して、スマホの反射を鏡にして髪を直す女子学生が爽快に映った。行き先を楽しんでいるように見えたから。
ぼく景色を眺め荷物になりながら心の中では旅を楽しんでいた。「俺は死んだような顔をして通勤電車に乗るサラリーマンにはならねぇ」と思いながら。
介護している時は黒い服を着ないようにしている。黒の物を身につけないようにしている。
黒は「死」を連想させる色。仕事がら汚れが目立ったり何かが飛んできたりした時、黒い服装の方が都合がいいかもしれない。でも、黒い服は「死」連想させる色。ぼくは家にある黒い服を全て捨てている。あるのは喪に服す時のための服だけ。
黒は全てを吸収して黒にしてしまう。白なら相手の色を受け取ることもできる。
黒い電車に乗ったとしても黒く染まらないように、ぼくは色を持った人になりたい。
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