或る言葉の記録2 夜のふくらみ‐Yoruno Fukurami-セットリスト


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お願いとお伝え

このnoteは10月28日(水)20:00〜行われる、

詩人・久世孝臣 配信ソロライブ

「或る言葉の記録2 夜のふくらみーYoruno Fukuramiー」

のセットリストです。

ライブ当日に読む「詩の全文」をライブに先駆けて【ほとんど全て】無料で公開しています。

ライブ前に詩の全文を公開することで、僕がやっていることをより具体的に、直感的に知覚してもらえると思うのです。

先に言葉を知っていると言葉だけを追わずに済むし、僕がその言葉に対して何をしているかが分かりやすくなる。

それに皆さんの中の言葉が僕の中の同じ言葉とどう違うか、

僕がどうやってこの言葉たちに肉をつけていくのかについて、興味深い体験をしてほしいと思います。

自分は頭の中でこう読んでた、ほうほう作者はこう読むのかなど。

あなたとわたしは少し違うかなり違う全部同じ。どう感じるでしょうか。

もちろん終わってから読んでくれてもOKです。

一度読んでしまえば何も知らず言葉の海に身を委ねることはできなくなるという考え方もあるので。

そして先ほど【ほとんどすべて無料】と言ったのは、このnote、当日読む詩を一つだけ有料として、チケット代、投げ銭用に販売しております。

金額は1000円〜。

1000円~と記載したのは、noteは定価以上に追加で金銭的なサポートをしていただけるので、いくらでも自分が価値を感じた分だけ存分に宜しければお願いしますという意味です。

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僕は初期衝動に誠実でいたい。

描くことと読むことで楽しんでもらいたい。

他にはあまり望んでいません。

スタンスがはっきりした僕の初期衝動。

今回のLIVEはYOUTUBEとニコ生にて無料で観ることができます。

YouTube
https://youtu.be/wMMXmbwzYoc

ニコ生
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv328514289

(生放送終了後も見ることができます)

動画を気に入って頂いた方、詩の全文を読んだり、ライブを観て感心してくれた方、応援したいという気持ちになってくれた方は、是非noteのこの記事を買っていただいたり、YOUTUBEの機能や、PAYPAL、amazonを使って投げ銭という形で金銭的にサポートいただければ幸いです。

やはりそれが活動を続ける強力な力になります。

※投げ銭方法は上記の動画概要に記載してあります※

大体リアルイベントのライブはドリンク代込みで3500円で行っています。

そこまでいかずともいくらでもお気持ちをいただけたらとても励みになります。

また、みんな一様に苦しいこの状況、金額面のサポートじゃなくても、このnoteをシェアしたり、配信URLを拡散していただいたり、youtubeにチャンネル登録いただいたりなんでもほんとにありがたいです。

皆様無理のない範囲で、何卒久世を楽しんでやってください。

よろしくお願いいたします。言葉の世界へようこそ。

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或る言葉の記録とは…


現代音楽家・市川ロ数、ダンサー加賀谷香、ダンス劇作家熊谷拓明、バンドネオン奏者・仁詩など、数々のアーティストと朗読でコラボしてきた詩人・演出家の久世孝臣が自分の言葉を各地に伝えて廻る朗読プロジェクト。


ひとつの言葉のような一日。

3月に予定していた東京公演、5月に予定していた福岡・東京公演がコロナ禍で中止となり、配信投げ銭LIVEよりこのプロジェクトをスタートさせる。


第2弾の今回はニューアルバムKIND OF REDリリース記念。

「夜のふくらみ」をテーマに、KIND OF REDに収録されている詩はもちろん、10年以上前の詩、舞台で使用した詩、詩集「自分の水を探し出す魚」収録の詩の中から厳選した作品を朗読します。


衝撃の言語体験。混じりけのない言葉の原液。


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月と音楽が歌う夜


74spm 

ここには歌が流れていた

静かな世界の静かさを歌った歌が


銃弾と怒号が響く中でも誰にでも聞こえるくらい


静かにはっきりと流れていた


私はそれを見ていた 歌が世界に流れていくのを


歌が流れている連続した瞬間やいくらでも分割できる時間の無限を見ていた


聴くことができていたとは思わない


綺麗だった 音楽は 今僕が居る世界を 

すごくうまく なめらかに滑っていく


どんな世界でも抵抗も摩擦もなく滑って流れていく


音楽が流れた世界は音楽を受け入れるしかないように見える


私はそれを見ていた。


じっと。


あの人はいった 
「歌の世界に居なさんな、

お母さんはいい人だった。わかるよな。

お前のお母さんは凄くいい人だった」



67FRB


信じたものは崩れ去ってしまった。

あーこの人は嘘をついている

この人の美化した言葉は嘘になる


僕はそこに世界をおさめない。

音楽と歌に嘘をつくことになる


「僕はお話しが好きです。なんでかと言われてもわからないけれど。
人が思いついたお話しの心配より自分の心配でもした方がいいかなとも思うんだけど」


話しをしていたよ


身体の裏側で目を閉じて ずっと話をしていた。

馴染んだ言葉が身体を振り回さないように。

言葉と言葉の外側で。ずっと話をしていたよ。

月みたいな意味で?月みたいな意味で


僕が作った計画で、脱出できるけど君は来る?


緑の目から花が溢れた。

ここから始めようと思った。

物語を描き始めます

外に出て、私が踊り始めたところから。


(終了)

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KIND OF RED


赤を描いた。


言葉と音で描ける赤を まだ揺れているうちに 揺れていることを。

赤。

かけらを見つけた。それをつないだ。

これまで揺れてみていた ものに 赤を 向けて

風も水も火も土も街も技術も
 
いままでここで飲み込んだ/吐いた/歩いた/笑った/分の覚えてる全部。
 
私の身体を 感じる世界と宇宙を こころとあたまで言葉にのせて 

赤を通して眺めてみる

思想を赤で見なおして、歴史に赤をのせていく、疑問に赤を塗ってから、

今までとこれからを赤を使って考えてみる

堅牢な赤の穴。

悩める赤の腕

赤が仕掛けた罠と残る希望

赤の流れ 赤の揺れ 傷が 乾く前に

これはなに?


椿だよ

それは人が付けた名前でしょ


じゃあこの子の感情は。歌は?楽しかったことや嫌なことは?

何も知らないよ


名前は誰かが付けただけ。

わたしは知りたい このこの意味を 観測した事実じゃなくて 友人として

あなたとわたしとこのこは どれだけとおい・おたがいが 

ここ にいる 今。いつも。

世界 と 私 は 

のたのたのなかにいる


けして消えないのたのたのなか

人が経験するなかでいちばんつらい

のたのたのなかにいる


私の中へ 私の赤へ

ゆらゆらと たえず うつろう せかいのなかで

わたしのなかを赤にして 眼を ひらく


私が揺れているとき世界は?


最初から最後まで全部覚えていた日なんて一日もない。


記憶は揺れていて、身体も揺れていて、

人やほかの沢山の生き物もぜんぶ揺れていて、

ぶつかって かさなって じぶんの揺れがわからない

揺れているかもわからない


誰の揺れ?誰の/何の/揺れの中の/上の/下の/何が/私の揺れ?

自分だけで決められることはなくて、


それでも [私は揺れていてここに私がいる]と言っている


揺れていることをわすてら あんたは いつも 忘れてら

ここがどこだかわかるかい?

ゆらゆらと たえず ゆらめく せかいのなかで

ひとひとりが ひらひらと

命をここに置いていく

それぞれにひとつのいのちをおいていく

揺れて巡る 渡して流れる

繋げて結ぶ 終わって変わる

揺らぎの中の微かなわたし

ここはどこ?

誰も知らないはずなんだ。


ここはどこ?

日本だよ

それは人が付けた名前でしょ?

ここはどこ?

地球だよ

それも人が付けた名前でしょ?


ここはどこ?

言葉じゃないか

それはどこ?


ゆらゆらと ゆれて かさなる せかいのなかで


人の全ては

世の、中で、

人が付けた名前をしてる


その外側で 存在が自我を手放し そこに居るの  

揺らぎの中 の かすかな わたし 


私を 遠いところで 眺めれば

私は ただの ゆらゆらで 存在してる  わかる 

揺らぎの中 に ひそかな わたし 


ここに居るのがみえるかい?

みえるよ私は。

私は実体のないたまたまここに居る何か 

終わると 揺れに消えていく


始まりも終わりも少しも変らぬ揺れのなか

生まれた 私はここにいる 

 どこでもない場所。ずっとここ。

あなたも決まった場所に居るみたい。

 どこでもない場所 ずっとそこ。

それはあなたのいるところ。


ここはわたし。 そこはあなた。

死ぬまで 

ここはどこ ここはわたし/あなた/せかい 

小さい身体。あるがまま。  


KIND OF RED


ただ立つために言葉をつかう
ただ在るために言葉をつかう

揺れて浮かべる 思考は影 


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泥の川でも月夜は綺麗だ

すぐに先を見失う、今、どこを歩いているか分からなくなる、

 
立ち止まる、歩けなくなる、見えなくなる。

またはあまり考えず、ひたすら突き進み気づけば一人ぼっち。

そんな、自分を含めた弱い人間に必要な薬。

一番厄介な病、絶望に効く特効薬というものを僕は知っています。


僕は何かを分かってる顔をして何かを話してる人は全員嘘吐きだと思う。
だから僕が今そういう顔をしているとしたら、どうかこの場を立ち去ってください

分かったような顔をする決めつけ顔の人間は信じるに値しない。

僕はいつまでたっても何も分からない。

この地球上で僕にとって確かなことはほぼ全ての人がほとんどすべてのことを何も分からないまま生きて死ぬと言う事。

こうだったらいいな、こうじゃないかというのを頭の中で確信にして生きて進んで貫いて、そしてそのことで、分かっている、知っているというのにすごく近いような状態になる。

それだけ。

自分の分かっていること以外何にも分からないのが人間です。

そして分からなくても何も問題無い。

分かってないことだけ頭の片隅においといて、あとは自分の好きなようにすればいい。

絶望したとき、 手に入れたものが全部偽物だとわかったとき、
ただ、闇に覆われもう歩けなくなったとき。

絶対にそこから立ち直れるよう、人間に与えられた特効薬。

それはよく言われている忘却ではない。

忘却は機能として完璧じゃない。

忘れられない体験、絶望とは、何十年前のものでも瞬時に確かな手触りを持ってすぐに目の前に躍り出るから。

「絶望に効く薬はユーモアです。」

圧倒的な現実の前でも頭はいつも自由だ。

イメージによって世界は変わる。

いつだって大いにくだらないことを考えたい。

ユーモアとは、どのような状況下でも断崖の壁を飛び降りないという決意のこと。

飛び降りなくても周りが許してしまう状況を「一瞬」で作り出すこと。

「視点を変えればこれは喜劇だ」と思う勇気。

魚が釣れないときは
今俺は地球を釣っているという大きな心。

月を捕まえる方法
バケツに月を浮かべてみせる。

人間の価値は、絶望的な敗北に直面していかにふるまうかにかかっている
逃げるのではなく覆す一手。

それを戦うという人も居る。

僕は遊ぶといいたい。大きな地球に落書きでもしている気分で。

この世は素晴らしい。遊ぶだけの価値がある

ただ動いているだけでは楽しくない

とにかく。
新しい毎日です。

我々の「希望の轍」はほんの一行で要約できる。
「私は生きることを十分に楽しんでいる」

人生、宇宙に関してのすべての答えは長い間の計算の結果「42」だという答えが出たそうですね。20年ほど前に。

絶望に効く薬として愛情も非常に優れていますが、もし愛する対象が永遠に損なわれたときに自分を救ってくれるのは、ユーモアしかありません。

今ある世界に別の価値観を付与する話。

そしてそれは今まで連綿と行われてきているさまざまな変革の話。

乾杯

器に月を浮かべていただきましょう。

これは銃を使わない戦いなんです。

よい旅を。
しかし、気をつけて。
いつでも船は進んでいます。

泥の川でも月夜は綺麗だ。泥の川でも月夜は綺麗だ。
泥の川でも月夜は綺麗だ。


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眠り     

私は目を閉じた。

このまま何日も何年も何世紀も眼が覚めなくていい。
シンプルな強い願いを込めて目を閉じた。もう眼が開かなければいい。


悲しみにも、怒りにも、悦びにも飽きてしまった。


同じことを繰り返しているようで同じことなど無い毎日が全て新しい日々を繰り返すこと、生きていれば享受できる素敵な喜びと驚き。

飽きてしまった。だから眼を閉じた。


次に眼が開くのは一体何世紀後のことだろう。


「何世紀後だって構わないのにな」そう思いながら目を閉じた。
「そうあってほしい」
せめて明日の朝が、何世紀後かであって欲しい。
彼にとっては、全ての災厄から眼を背けるように眼を閉じた。
その災厄の中には幸福もある。

セカイにとっては何ほどのことも無かったが彼は全てを放棄した。


笑わず、怒らず、生きず、
何も考えず、責任を果たさず、生きず。
救わず、努力せず、生きず。
誰も愛さず、誰も守らず、誰も育てず、生きず。
義務について、セカイについて、大事なものについて、考えることもせず、生きず。


それは、やはりセカイにとっては何ほどのことではなかった。
でも。確かに彼にとってセカイは放棄された。
どこで何をしていいのかもさえ決められず、
さりとて、豚になることさえできずに。彼はぎっと眼を閉じた。


「この先何世紀、何が起こっても、私は眼を閉じている。ただ、ずっと眼を閉じている起きた時のそこはどこだろう」
責任や義務を放棄した彼に残された地はあるだろうか。
そこは地球であるかわからない、人が居るかわからない。
彼は、ただ眼を閉じた。
安らかに寝息を立てて、全てを棄てた割りにいい顔をして眼を閉じた。


彼が眼を閉じる前、最後に言語化できた思考は次のようなものだった。

「眼を閉じたら、私はもうどうなろうと構わない何もなくなったって。でも開くだろうな開かなきゃいいのにどうせ眼が開いていつもの朝なんだろうな小さいころいくら思っても違う世界なんて無かったし生きている今が異世界で、とても不思議なワンダーランドなんだと思うけど、そういうことを言いたいわけじゃないんだし、そうやってどきどきしたって今を楽しんだってそれが何だろう。木にもなれず、風にもなれず、火にだってなれず、生きる限りは、考えることをやめられず、何か人より良いものを思いつこうとして、日々をめまぐるしく流していくことってなんだろう思い切り生きてなんだろう、生きる限りは強くありたいし、血が流れている限りは少しでも自分であることを自分の力でセカイに叫びたいのだけど、血が流れているんだし。それで、皆、血が流れていることを知ってほしいし、誰にも邪魔されず、ゆったりと争いも無く生きていこうなんてことがばかげていると言うのは分かっているのだけれど、寝ているあいだは何も考えなくていいのが良いなこれってほかの事では代用できないくらい素敵なことだな、寝ている間に意識が…」


となんとも中途半端なことを思いながら、多くの人間が何らかのカタチで結論をつけて妥協し、少しの人間が何らかのカタチで打破している問題を考えながら目を閉じた。

そして、私(彼)は客観的に見て、彼(私)を嫌悪する。


その人を愛しているなら、その人を傷つけていいと思います。
ただし、愛の意味を考えなさい。


その人を愛しているなら、その人に重い荷物を背負わせていいと思います。
ただし、愛の意味を考えなさい。


あなたが世界を愛しているなら、誰かを殺してもいいと思います。
ただし、世界への愛の意味を考えなさい。


誰かを殺したら世界はあなたを愛しません。恐らく、これは確実です。


でも、世界が愛するより深く、もしくは世界があなたを愛するのと同等にあなたが世界を愛していたら、それは世界に愛されているのと同じことです。


その人を愛しているなら、その人をどうしよう。愛の意味を考えて。


その人を愛しているなら、その人を受け入れて抱きしめるだなんて
そんなこと、愛の意味を考えてたらできやしない。

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手紙

私はあの人に手紙を書くことにした。直接言うのは怖かったし、
二人の距離が壊れそうで。
私は、今のままの距離のまま、
あの人にお礼が言いたかった。
ただそれだけ。
で、いざ書くとなるとなにも言葉が出てこない。
でもとにかく書かなくちゃって、「ありがとう」って書いたの。
でもね全然その「ありがとう」じゃ伝わらない気がした。
何回も書き直したわ。「ありがとう」だけ。何回も。
でも、全然、違う。それは、「世界があたしのために用意してくれた」
「彼へのありがとう」じゃないの。
だから、紙が真っ黒になるまで、「ありがとう」だけ何度も書いた。
何度も何度も。紙が真っ黒になったら次の紙に。納得の行かない「ありがとう」を渡した
ってしょうがないもの。
とても、憎みもしたし、恐れていた部分もあった、認められないところの方が多かった
でも、トータル的にみて、私は彼にとても感謝していたの。

夜が明けるころ、私は紙に一言「愛してる」って書いてたの。
それを彼に渡した。そうすることがとても自然に思えたの。

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手紙:from 孤独な絵肌・滑り込む音楽



リタ  本物の音楽ってやっぱり凄いのよ。その音が正に自分で、私自身がその曲なんだって。そんな気になるの。私の場合は「もっと自由なんだ」。そう思った。それで、自分なりに精一杯自由に生きて、尊敬する彼と恋をして、結婚したの。人生の意味と自由の意味を教えてくれた彼がまさか私から自由を奪って苦しめるなんて。そんなこと考えもしなかったし、今でも私は人生っていうものが分からない。

絵描き …。

リタ  …暗い穴の中で、ひっそりと自分の為だけに生きたいな。暗いと周りが見えないから、暗闇の中でくらい自分の好きにしてもいいでしょ。

絵描き …。

リタ  でも、自由を奪われたとしても、私は感謝していたの。アイリスにもあの人にも。アイリスのことはどこにいったんだかわからないけど。あの人は傍にいる。私はあの人に手紙を書くことにした。直接言うのは怖かったし、二人の距離が壊れそうで。私は、今のままの距離のまま、あの人にお礼が言いたかった。ただそれだけ。で、いざ書くとなるとなにも言葉が出てこない。でもとにかく書かなくちゃって、「ありがとう」って書いたの。でもね全然その「ありがとう」じゃ伝わらない気がした。何回も書き直したわ。「ありがとう」だけ。何回も。でも、全然、違う。それは、「世界があたしのために用意してくれた」「彼へのありがとう」じゃないの。だから、紙が真っ黒になるまで、「ありがとう」だけ何度も書いた。何度も何度も。紙が真っ黒になったら次の紙に。納得の行かない「ありがとう」を渡したってしょうがないもの。とても、憎みもしたし、恐れていた部分もあった、認められないところの方が多かった。でも、トータル的にみて、私は彼にとても感謝していたの。夜が明けるころ、私は紙に一言「愛してる」って書いてたの。それを彼に渡した。そうすることがとても自然に思えたの。

作曲家  …。君じゃだめなんだ。どうしても君から音は紡げない。

リタ   あの人はそういった。だけだった。何だったのかしら。私の存在って。私はただ、ここに居て、あの人を愛していて、感謝しているってことをきちんと知ってほしかったの。そして、私のことを認めて欲しかったの。アイリスみたいに自分の望む形じゃなくても。あの人があの人なりに私を認めてくれさえすればよかった。

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駅の駅

勤めを終えた駅のための駅がある


駅の駅では駅たちが、それぞれ、ゆっくり、待っている。

長年働いた駅が、最後に一度、自分の為に待つための駅。


待つことはこんな気持ちだったのか。

どこかにいくということはこんな気持ちだったのか。

来るものを待つことは楽しいものだな。

私は誰かを待たせないように、何かをしくじらないように、
人の為に色んなものを待っていた。

私の時間。私が私の為に待つ時間。

待っているものが来た駅は、音を立てて崩れて消える。

それは笑い声に聞こえた。

駅の駅が勤めを終えるころ ここは 笑い声でいっぱいになっているだろう。

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記念という言葉について

山下はガラス戸に手を置いて そっと引いた


森は素早くしゃがんで靴ひもを きゅっとむすんだ

佐藤は 眼をつむって 奥歯を磨く

相沢はコップを丁寧に拭いて棚に戻す

カバンの中身を けたたましく確かめる 松本

食べ物を食べる前に匂いを嗅ぐ 川口

金曜の夜は お酒を飲みながら 革靴をみがくのが楽しい竹田

屁について考えてどうしても笑う私

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泣かない子どもはよく寝て笑う


泣く理由が見当たらず 息をして ご飯を食べて 糞をする

泣かないこどもはよく寝て笑う

縦長の気持ち 横長の気持ち 丸いきもちに 贅沢な手足

こーろころ こーろころ 

いつまでも、泣かない子どもじゃ いつまでも 泣けない子どもじゃ

いままでも 泣かない子どもじゃ いままでも 泣けないこどもじゃ

こーろころ こーろころ

わたしたちは 誰かのこども 泣かない子ども よく寝て笑う

  目をつむる 泣く 泣かない

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自分の言葉と身体を持つ日の話し。


わたしたちは戻ることにした。

技術に蓋をすることにした。


潔く死ぬことにした

抵抗をしないことにした。

悲しむ 喜ぶ 

ただいきることをまっとうすることにした。

じぶんの言葉と身体をほとんどの人間が手に入れた

それを否定する人たちもいた

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単体

ぬれたのか 

濡れた身体を見て私はそう思った

さっきまでは濡れてなかった

考え事をしている 考え事をしている 考え事をしている

歩き出すと 風が吹いた 
 
これからまた乾く それからまた濡れる 単体ではどうにもならない

考え事をしている

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小さな頃


しかし、太陽が沈むころになると、俺は泣き叫びながら、家の中を駆け回った。

夕陽の色に、徐々に色の濃い「夜の青」が被せられていき、
空が紫色になるころ「何か」が祖母を連れて行ってしまう。

そんな気がした。

その色の圧倒的な存在感が俺に拭えない恐怖を叩き込んだ。

抗えない根源的な恐怖。何やら訳の分からぬ空の色の変化、

一瞬しかない紫色の時間、太陽が沈むこと。その全てが俺の頭を混乱させた。

一体、世界はどうなってしまったのだ・・・。

完全に陽が沈んでしまうと、「何か」があらゆるものの形を借りて、
祖母に襲い掛かろうとしていた。

あるときは手洗い場にかけてあるタオルの染みや形が「何か」だった。
見つけた瞬間、別のタオルを掛け、「何か」を刎ね除ける。

「何か」が祖母を、そして俺自身を飲み込む前に。

押入れの少し開いた隙間も「何か」だった。

「何か」が出てこられないように、きっちりとしつこいほどに何度も扉を閉める。

冷蔵庫の中身の配置、カーペットのよれ具合、料理の盛り付け方、テレビの向き、風鈴の音、着ている服。

「何か」はほとんどあらゆるものの形を取って祖母を飲み込もうとしていた。

残念なことに祖母はそれに気付かなかった。

気付いているのは俺しか居ない。

俺は一人で祖母を守る為に黙々と家中の「何か」を潰していった。

「何か」と戦っても勝ち目が無い気はしたが、
黙って祖母をやらせるわけにいかない。

徹底的に家中の「何か」を潰して殺した。

祖母を守れるのは俺しかいなかった。妥協は一つもなかった。

出来ることは全てやった。

その甲斐もなく、祖母は俺が小学校の頃までしか生きられなかった。

「何か」に連れて行かれてしまったのだ。

「何か」を祖母から跳ね除けるには俺はあまりに無力だった。

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起きる 話し

おばあちゃんは死ぬ2日前に

「おとうちゃん、そろそろ起きなあかんね」

と言った。

お母さんが「お父ちゃんて誰?」と聞くと

「うん」と答えた

「いわじろうさん(おばあちゃんのお父さん)か?
泰寿郎(おばあちゃんの旦那・僕のおじいさん)さんか?」

と聞くと

いわじろうさんか?

うん

泰寿郎さんか?

うん

と答えたので

「おばあちゃん、どっちや」

と聞くと

たいじろうさん

と答えたという。

その二日後におばあちゃんは死んだ。
家の中で息を引き取った

おばあちゃんは起きたんだな。


死んだおじいちゃんのいる方が現実の世界で

僕らの現実の世界が夢の世界になっていたんだな。

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ポーランドのプール

夢のなかで5年前の友人と会っていた。
その友人とは今でも親交がある。
 
 
ただ、その夢のなかでは彼は5年前の彼だった。
プールのそばで、二人で話をしていると、
入り口から男が入ってきた。
 
 
今のその友人だった。
 
 
私は5年前の彼に今の彼を紹介した。
5年前の彼は「こいつは大丈夫か?」と僕に何度も聞いてくる
 
 
私たちはお互いに人に話せない秘密を抱えていて、
それは社会的にもいけないことで、
その話しの真っ最中に今の彼が入ってきたので、
昔の彼は彼からすると未来の彼である今の彼をとても警戒していたのだ。
 
 
今の彼は屈託のない笑顔で
「こいつにポーランドのプールの話しをしてもいいか?」
と聞いてくる。
 
 
今の彼と昔の彼はまだ言葉が通じないみたいで私を介して会話をしている。
 
 
昔の彼は「こいつは海洋の手のことを知ってるのか?」と聞いてくる。
 
 
私は今の彼に
「こいつにはもちろんポーランドのプールの話をしても良い。仲間だ」ということを伝え、
 
 
昔の彼に「海洋の手の話しは彼から聞いた」と伝えた。
昔の彼と今の彼は私を通して徐々に打ち解けていき 
私を通さずとも言葉が通じるようになった。
 

「ふたりは同じ人間だ」という事実を伝えてみようという選択肢さえ思いつかなかった。
 
 
二人は同じ人間ではあるが5年も違うと全く違う人間だった。
私が紹介の仕方を間違うと全く仲良くなれない可能性さえあった。

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一度死んだ男の話

ものをめくったとき 何かが必ず抜け落ちる

何も逃がさない覚悟でめくることが大事なの

空気のひとかけらでさえも

ものをめくったとき 何かが必ず抜け落ちるんだから。


一度死んだという男に会いに行った。


男は一度死んでから愛想がとても良いと評判だった。


男は私の顔を見るなり、帰れとまくしたててきた。


「俺を向こうで裏切りやがって」


どうやら私そっくりな男が、一度死んだあとの世界で酷いことをしたらしい


「気を鎮めてくれ。私はただ、あなたの話が聞きたい。死んだあと、あなたがどういうところに居たのか知りたいんだ」と言うと


「向こうでもお前にそう言われた。生きてる世界のことを聞かせて欲しいと。俺はお前とは話さない」


そういうと、男は奥の部屋に行って出てこなかった。

そして、そこで首をくくったらしい。

今回も男の心臓は完全に止まっていた

男はもう一度生き返った。

私はもう一度男を訪ねて行った。


男は私の顔を見ていった。


何回死んでもお前がいる世界。

俺は死んでないのかもしれない。あっちでもこっちでも
ほとんど話したことのないお前が居る世界を行き来しているだけで。
生きている。

その日から、男は、ぽつりぽつりと向こうの世界のことを話し始めた。


ものをめくったとき 何かが必ず抜け落ちる

何も逃がさない覚悟でめくることが大事なの

空気のひとかけらでさえも

ものをめくったとき 何かが必ず抜け落ちるんだから。

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ある人の話。


私たちの住んでる場所には巨人が住んでいます。
 
みたことはありません。
 
でも巨人が投げた石が飛んでくるんです。
 
大きな石が。
 
だから巨人が住んでいることがわかるんです。
 
たまに人が死んだりします。
 
家も壊れます。
 
しょっちゅうではないです。
 
変ですか?
 
でも、死なない人間なんて居ない。
 
そっちに住んでも何かで人は死ぬでしょう。
 
私の住んでる場所には巨人が住んでいます。
 
たまに石が飛んできて人が死ぬ。
 
それだけのことで、私がここから居なくなる理由になんてなりません

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或る晩に

魚の骨を食べました。

魚のほーねを食べました。

月夜の晩に魚の骨を たーべ たーべ 食べました

月夜の晩に みんなと一緒に 魚の骨を 食べました。


たーべ たーべ  食べました。


暗さの卵が割れました

暗さの卵が割れました

闇夜の晩に暗さの卵が わーれ わーれ 割れました

闇夜の晩に みんなのなかで 暗さの卵が 割れました


わーれ わーれ 割れました


たったら るるる るったった るっるっと つるる るったった

たつ かける くらう 伸びる 減る たつけるらう かく かくかくかく

いつもの水を飲みました

いつものみーずを飲みました

眠りに落ちる 少し手前に のーみ のーみ 飲みました

不思議な晩の 素敵な月と いつもの水を飲みました

のーみ のーみ 飲みました 


星の涙と人の言葉でねじれた気持ちを超えました

こーえこーえ 超えました。

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歌・虫が来た

虫が来た 虫が来た

虫が来たよお母さん

虫が来た虫が来た 虫が来たよお母さん


この指にこの腕に 虫が来たら怖いから

どうしようどうしよう 虫が来たよ お母さん

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歌・虫が来たら殺しなさい

殺しなさい 殺しなさい  

虫が来たら殺しなさい

お前の手で  その虫を いつでも つぶして 殺せ

殺しなさい その虫を 命がなくなる感覚を

学びなさい 手の中で 虫が息を絶つ そのときを


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歌・ぬるぬるまんしょん

ぬるぬるマンション ぬるぬるマンション ぬるぬるマンション

三階まではぬるぬるで 七階までは ぬーるぬる


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あの時出なかった電話


どうも、あなたがあの時が出なかった電話です。


あの時、私をとらなかったから、あなたは今そこに居ます。

それがいいことか電話のあたしには判断できません。

でも、ほとんどの電話をめんどくさそうにとるあなたが
しばらく迷った挙句に私には出なかった。

だから、あなたは今そこに居ます。

私から言えることは、あの時私に出ていたら
あなたは今そこに居なかったということです。

私はあなたを別のところに連れていく役割のある電話だった。

時々そういうことがあるでしょう。誰の人生でも。


電話ではなくても。たまたま出かけた街、たまたま入った居酒屋。
そんなんじゃなくても。

たまたま買った服、たまたま食べた卵。

そんな気が無くてもあなたの人生がそこからがらっと変わってしまう何かとの出会い。

それがあの日は電話だったんです。

私はあなたの電話です。あなたの側に居ました。
今も側に居ます。

でもあの時の電話ではないんです。あなたが意図的に電話に出ないことなんか
あの時以外みたことがありません。
失礼ですが、そんなに勘のいい方でもないあなたがどうして、あそこであたしをとらなかったのか。それがずっと気になっています。

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オオカミの夜

昨日の夜 僕は半分だった

最後の音 最初の声

最後の声 最初の色

最後の色 最初の人

最後の人 最初の音

昨日の夜 僕は半分だった

もう半分の皮をかぶって
もう半分のふりして

もう半分ももう半分でもう半分の皮をかぶって
もう半分のふりしてる

自分たちのお腹に宿る遠吠えがもう半分。

会うまで僕はここでこうして半分でいる

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世界中の雨


世界中の音

世界中の風

世界中の水

世界中の石

世界中の話

世界中の声

割って 尖って 搾って 身体

世界中の色

世界中の林

世界中の傷

世界中の数字

世界中の昨日


そっと 溶かして 渡して 言葉

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ジーザスとパステル

逃げろ 涙。この夜の涙。
吠えろ 涙。この夜の涙。

水槽から飛び出した10センチのアロワナ。

兵士たちはそれを担ぎ戦場に赴く。

昨日までの明日からを必死こいて集めて、
手のひらにへばりついたものでここで「今」をやってる。

昨日からきたのか。
明日にいくのか。

大事なものは昨日か今日に取り残した気になる。

でも、手のひらにこびりついたもので、ここで「今」をやるのさ。

ジーザスとパステル。染み付いた身体に。
朗々とカスタマイズ。キングダム。廉価だ。
  垂れるこうべ 金属。

飛べよ 涙 10センチの涙。

涙 ここに涙 枯れた涙 パステル

ブラックデビルサバスチューン
クレイジーな生贄 ジーザスの曲芸

たまのことだ、今のことだ、どこのことだ、なんのことだ


肯定できるありったけのものを集めたってだって昨日にも今日にだって手にアマるかもしれ無い。

昨日までを集めた。今日はここで立ってる。
大事なものはもうとっくにこぼれおちたかもしれない。

イデオロギー 判断 当然 なんだ なにが 何も 考えずにいたのか

気持ちよく生きていて 気持ちいいと感じる。

それは犠牲の上に立ってるって今聞いたみたいな顔すんなよ。

恨み、揺らぎ、狂いだした憎しみ 愛のことと花のことででも僕は気持ちよいこの世界。

読む点で文や意図をこんな時も整理したくない僕は。

衝動的な暴力性の発作を抑えられず「いま」を今、一蹴。

逃げよ 涙 老いの果ての涙
脱げよ 涙 ぬぐい切って 涙


緩まない typeC これだ ジーザスとパステル

点灯もしていない、ろうそくはまだあるのか。

答え ではない なんのことはないんだ

踊り出した水の羽根に パステル色のジーザス

担ぎだしたアロワナは勇敢な孤高だ


跳ねろ 涙 通過するな 涙
波だ  今だ 掴み取れ 今だ 

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身体を包む優しい沼


ふかふかの沼に包まれる感覚を知っているかな?

田んぼに足を突っ込んだことがあれば、それを思い出してもらえると助かる。

それがなければ海や川に全身浸かっている感覚が一番近いかな。

身体を包む優しい沼があってだな。


そこに全身を沈めるんだ。


水よりも密度のある沼の泥が全身を覆う。


わかるかな?1mmの隙間もなく、身体をふかふかと優しく覆ってくれるんだ。

自分の全ての場所が分け隔てなく覆われている気持の良さはいいようのないものなんだ。


覚えてないけど、母親のおなかの中にいるような安心感とでも言えばいいのだろうか。


その沼に入るとね。先端部分から少しずつ、
なんだか分からない生き物にたべられていくんだよ。

それが不思議と怖くないんだ。血は出てるのかわからないけど、痛くはないかな。

でも自分が減っていっているのがわかるからね。少しずつ。
たまに恐怖のようなものは身体をよぎることはあるよ。
でもふかふかの沼に身体が包まれているからあまり気にならないんだ。


少しずつ減る体を減っても泥が優しく覆ってくれる。

わかるんだよ。自分の身体がどれくらい減ったか。足はもう太ももくらいしかないな。

でも泥があるから自由だな。手はもう肩くらいまでしかないな。

でも泥があるから自由だな。


意思が伝達できるんだよ。
泥があることで、足や手の指があったころと同じように
泥が自分の意思を反映させて世界に伝えてくれるんだ。


頭だけになったら、そこでしばらく、身体は減らなくなるんだ。

頭だけになって、ふかふかの優しい泥に包まれて、身体が無くても困らなくなって。

むしろ前より密接に世界とつながっている感覚があって。

手を伸ばそうと頭が思ったら身体があるときは手だけ伸びるわけだけど。

今は地平線ごと星一つ分自分の身体になった気分でね。足もそうなんだ。

泥がね、血や内臓の代わりをしてくれるから死なないよ。

最後に頭も少しずつ食べられて自分の形はなくなるんだけど。

それは死ではなく世界との同化なんだ。

私はセカイになったんだ。ちゃんとそう思えるんだよ

そして空気になって、ここで、情報として浮かんでいるんだよ。

気楽なもんさ。
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毎日


毎日毎日…毎日 

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たしかにな


一族のなかで最後のジョグボング教徒だった祖母が死んだ。

ジョグボング教の葬儀(ミビジブュ)の本当の始まりは
参列者が口の中に水を含むところから始まる。

水は飲まずに口に含み続けておくのが決まりだ。

ジョグボング教の聖典に乗っ取り、葬儀の日は、
男も女も肌のなるべく見えない、えんじ色の布に身を包む。

基本的に故人の家で執り行われ、到着すると、その家で一番大きな部屋に通され、来たものから順に円をつくるように並んでいく。
一重の円で収まらない場合は内側に二重、三重と円を重ねていく。
参列者は話をしてはいけない。目を合わせてもいけない。

これはこの場にいた人間が、故人を通して、現世でも来世以降でも
「縁を重ねる」というところにかかっているらしい。

全員が揃うと、クジを引く。(ジョグボング教でいうところのサミゥグー)
そこで口に水を含み目隠しをし、葬儀が始まるのだ。
クジは、順番を決めるためのものである。


1番手の準備ができると、合図とともに全員が目隠しを外す。
1番手は、先ほどの赤い服を脱ぎ捨て、
我々の感覚では、場に似つかわしくない滑稽な恰好をしている。
そして、少し間を置き、変な声を出し身体を動かし始めた。

場に居るものが耐え切れずに水を口から吐き出す。

人にかかるもお構いなしだ。どんどんみんな口から水を吐き出していく。

それを、場に居る人間の数だけ繰り返す。
踊るモノ、屁をこぐもの、参列者を強引にくすぐるもの、
故人の秘密を暴露するもの。

みんな笑いながら泣いている。

消費された水の量が多ければ多いほど、その葬式は良い式だとされている。

もちろん、人間である。
自分の番が来ても泣いてばかりで何もできないものもいる。


そういう時はそいつに思い切りみんなで口から水をかける。

みんながその涙を隠すように、みんなも自分の涙を隠すように、
みんな泣きながら笑っている。

最後に私の大好きなジョグボング教の経典の一節を紹介しよう。


あなたがほんとうに悲しいときに、
楽しく笑って流した涙があれば、それは誰かのいつかの涙を減らすだろう。
本当に悲しいときは悲しみで終わりにしないこと。
悲しいことは悪くなくても。


私は教徒ではないが、この言葉は子供に伝えようと思っている。

祖母の式はとてもいい式だった。それは断言する。
私はびしょ濡れでホテルに帰った。

 
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戦い方の問題

私の傍に生えている草は 明日刈られるそうだ

刈られるということは死ぬということかしら?

そう思ってみたら声がした

戦い方の問題だ。

私はもう、そこら中に居る 

そして、私はわたしじゃなくても構わない

誰がわたしでも構わないんだ。

君はわたしを見て、明日刈られることを知って
少し寂しいと思ったのかな?

それとも、なんだね、自分の境遇とわたしを重ねて
何かを描こうとでもしたのかな?

私はきみに何かを思われることをいいとも悪いとも思わない

ただ、きみがわたしを思ってくれたことでこうして声をかけることができた

それは私にとってはとても有意義なことだった。

今話してみて気が付いたけど私は今まで誰かと話をしてみたかったのかもしれない

このあたりにこれから現れる私の 私たちのことをもしまた思うことがあったら
誰かが声をかけるかもしれない。

それをきみがどう思うのか知りたかったな

そこで声は止んだ。 私は目をつむって草を思い空に飛ばして歩き出す。


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シフォンケーキの切り方

このままゆるやかに自分が減っていって消えていくのかな。ね。

文句を言ったり、喜んだりしてね、
ちょっとずつ、今こういうこと考えている自分も
多分だけど段々無くなっていってね。

今だからこういうことを考えるけど、たぶん、もっと時間が経つと、
段々無くなっていく自分の方が大きくなって、
そっちが普通になって、こうやって無くなっていく自分を意識することも
なくなっていくんだろうな。って。ね。

自分が段々減っていって。形が無くなっていくっていうのも、ね。
前は、それは逃げだ諦めだ、、
とかいろいろな理由をつけてたけどね、
多分そうじゃなくてね、

自分の形を少しづつ無くしていって
色んなことを気にしなくなっていくのが
私は…好き。(正しいって言葉は使いたくないし。まともってのも違うしなぁ)

木とか石とかに近づけたみたいで嬉しいな。

もうちょっと特別なことが起こるかもしれないなぁ、私の人生。
と思ってたけどそうでもないかな。でもまだ起こるかもな。ちょっと思う。
これっていつまで思ってるんだろうね。

みんな思ってるのかな。それともどうだろう。
私だけってことはないと思うけど。
私の人生もうちょっと特別なことが起こるかもしれないと思ってたのって。

この気持ちも小さいころに比べたら弱くなったなぁ。ね。

だからもう、結局こうなっちゃうけど、
今、この時ってとても特別なことなんだねって思うよ。ね。
そう思うようになった。
自分をどんどん減らしてね。
ゆるやかに消えていく過程の中でね。
そう思うようになった。ね。

満足には足りないけど、満ちてるな までもいかないかもしれないけど、
取り合えず、何か気分がいいなって感じる日、

悪くないんですよ。

その日は楽しいことが起きても
ちょっとアンラッキーなことが起きても、
生きることとか日常って…
まぁ、こんなもんで。って。ね。
生きてるから、こんなもんでいいし、
こんなもんが一番楽しいかもしれないな。

って感じた次の日とかにね。ね。ね。ね。


たまに、ゆるやかに過ごす、
自分が少しづつ減っていく日常から
ぷつんと切り離される日があってさ。ね。

どうしても昨日と繋がらない日があってさ。ね。

なんでかねー。せっかく昨日強く
このままゆるやかに過ごす日常でよくて、
特別なことはそんなにいらないかなって。
明日も同じような一日であるようにって思えたのにね。


昨日と何も変わってないのにね。
変わってなくていいんだって望んだから
望んだとおりになっているのにね。

朝起きたら自分だけ別の世界の人みたいに

自分だけこの世界の人とかモノと何にも関わってないみたいにさ。

昨日思ったこととか、昨日まで生きてきたこととか
そういうのと切り離されちゃってるの。
世界は一晩の間に私だけおいて新しくなったのかな。

私もほんとは一緒に新しくなる予定だったのに、
そのためにしなきゃいけないことがあったのに、
みんなとした約束一人だけ忘れちゃったのかな。ね。


なんだろうね。
このままゆるやかに死んでいきたかったのにね。

おい。このままとか言ってる余裕ないぞ。
今死んでるみたいな感触だよ。何にも動かないやね。

聞こえないし見えないやね。

うーん。わかんないな。何にも。


わかんない。わかんないね。わかんない。わかんない。


あ、あ、あ、

うーん。今私はどこの誰とも繋がっておらず、世界に居ない存在です。

いない存在としている存在です。

少しつぶれちゃったシフォンケーキがね。
冷蔵庫の上に置いてあるのが目に入ってる。
うん。ね。

あっ。そうだ。お土産。昨日買ったんだ。

カバンの中でちょっとつぶれちゃったんだ。

どう切るんだっけ。

決まってたっけ。


わかんない。わかんないね。わかんない。わかんない

シフォンケーキをどう切るかで悩んでます。
それは分かってます。

まだ私は別の世界の人みたいで、
昨日までのどことも繋がってません。

答えなぁ。うん。答えなぁ。

答えか。

「答えは新しく創っていいんだって」って言ってる気がする。
シフォンケーキ。

「少しの間僕と時間を稼ごうね(あなたのことを助けさせてください)」
って言ってる気がする。

ケーキしゃべった―


答えが出る間だけね。心が繋がる間だけね。


今みたいにさ急に何もなくなることがあるけどね。

それでもね。

世界という問題に対して、私はどう答えてるかな。

生きてる間答え続けてる。みんな。

どこから見たら私はどういう答えに見えるかな。


私の答えといつも違う毎日の私。

シフォンケーキはこう切ります。

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最後にお願い


以上が10月28日の朗読会で読む予定の詩、ほぼ全文になります。

冒頭でも言いましたが、この配信LIVEは投げ銭制です。

投げ銭用に以下の一つの詩を有料と設定し、この記事をお買い上げいただけるようにしています。

この詩を有料にしたのは理由がありまして

この詩は「僕が読んでいる間だけ詩になるような言葉」をコンセプトにしている「おはな詩」というシリーズなので、全文公開じゃなくてもいいかなと思ったんです。

ただ、でも、読んでいて面白いのもこれが一番かもしれません。

実体験だからです。

父との話を描きました。

詩の全文を読んで、または、ライブを観て感心してくれた人。

チケット代代わりに購入お願いします。

金額は1000円〜。noteは追加で支援もできるので、いくらでも自分が価値を感じた分だけ存分に。

よろしくお願いいたします。ライブをご覧いただいた方、そして、ライブ前でもなんでも、ここまで目を通していただいた方、誠にありがとうございます。
少しでも、興味深いものをお見せできるように邁進してまいります。

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※有料※おはな詩 鏡の国のケンイチ


似てる似てないで言うと、似ているんですよねぇ。

親父に。僕。

こないだの8月にね。

お盆について考えてたら不意に母親について考えることになって。

おはな詩・お盆って作品が出来たんですよ。

そのお盆って作品のとき、オカンがライブ見てくれててね。

YouTubeにコメントくれたりして割と嬉しかったんですよ。

多分、おとんと見てたと思うんですけどね。

おとんのことは一言も話さへんかったから。

寂しがっててもいややし、すねられててももっと嫌やしね。

ほな次回はおとんのこと考えて描いてみようかなぁって思っててね。

それが今です。


あんまり仲良くないんですよね。仲悪いってことはないんやけど。

僕も好きは好きなんですけどね。父親との距離感って微妙ですよね。

なんなんでしょうねぇ。不思議なもんで。

表面的なことは話すんですけどねぇ。
そして、結構それだけやと、楽しいなぁって感じるんです。

なんかふとした一言でいらっとするんですよ。

現実の認識の仕方が俺と違うというかね。

俺が嫌だと思っていることを平気でしてきて
「お前の為にしてやってる」っていうんですよ。

東京にも行かせてやって、大学にもいかせてやって、演劇もさせてやって。
そんな年になるまでふらふらさせてやってるって。

俺はお前に学者になってほしかったんやって。


知らんがな。知らんがな!

ちょっとそうすると話は違ってくるんですよね。感謝はしてますけどね。
演劇はさせてもらってるわけちゃうしね。俺には俺の人生があるしなぁ。

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