シニフィエ・上演台本@11月19日(金)東京都浅草橋CPKギャラリー
はじめに
2021年11月16日~20日。
東京都浅草橋にあるCPKギャラリーで開催されていた令和三年日本の形という展示の企画の一つとして11月19日(金)に上演された、
舞踊家・加賀谷香と詩人・久世孝臣の【シニフィエ】
「あなたが死んだ日の晩である」から始まる、ある夜の話は、
12月10日(金)に秋田市文化創造館で形を変え、
加賀谷香さんのソロパフォーマンスとして上演されました。
11月は40分程度の作品として、詩人・久世孝臣の生の朗読と音楽家・市川ロ数の生演奏で行われた本作品は、秋田では10分に凝縮されて、生演奏ではなく、久世の録音した朗読と、市川の制作された音源での上演となりました。
文章としてどこがどう違ったのかお楽しみいただきたく、両方のバージョンを言葉のみでお届けします。
両方を見比べやすいように、こちらは11月の上演台本のみを掲載いたします。
※11月の作品は配信リンクを貼りつけておきます※
シニフィエはサポートのお願いの後に本文を掲載いたしますので、
サポートのお願いも是非お読みになって本文をお楽しみください
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ここまで目にして下さった方、ほんとうにありがとうございました。
シニフィエをお楽しみください。
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シニフィエ
※注意※
最初の黒太字はト書き(本番時は読まず、動きや雰囲気を関係者に伝えるための文字)です。
そのほかの黒太字は詩のタイトルとです。
この作品はシニフィエのための言葉と、詩の朗読で成り立っいています。
このような雰囲気で上演されました。
画像かリンクをクリックしていただくと動画が再生されます。
シニフィエ
あなたが死んだ日の晩、あなたの横で行われる人間の挙動。
舞台上には椅子が一脚客席から背を向けておいてある
沈黙
沈黙
沈黙
一人の人間が現れる。
一点を見たり、呼吸をしたり、頭の中では家族、
自分の人生、その他、諸行無常がぐるぐると回っている
一人の人間(久世)が舞台上に現れる
背を向けてある椅子に座る
あなたが死んだ日の晩である。
沈黙の中、一人の人間が身体を動かし始める。
その日は、月があった
その日は、海があった
その日は、死があった
言葉があると、今、月が見えただろうか
海が、死がみえただろうか?
あなたの死が。
言葉があるだけで、この場はそう意味されただろうか。
月と暮らす僕にとって
心に浮かぶ月の形は
まあるい かけた はんぶんや全部
まあるい月の隣に見えない月をおき
かけてる月はかけた月と対の月をおいて、二つの眼で見て綺麗に思う。
私は素肌に闇を灯す
私の肌に月を干す。
月が真っ赤に染まる日は
私は外でうずくまる
(了)
ある人の話
私たちの住んでる場所には
巨人が住んでいます。
みたことはありません。
でも巨人が投げた石が
飛んでくるんです。
大きな石が。
だから巨人が住んでいることが
わかるんです。
たまに人が死んだりします。
家も壊れます。
しょっちゅうではないです。
変ですか?
でも、死なない人間なんて居ない。
どこに住んでも
何かで人は死ぬでしょう。
私の住んでる場所には
巨人が住んでいます。
たまに石が飛んできて人が死ぬ。
それだけのことで、私がここから居なくなる理由になんてなりません
(了)
言葉とはなんだろうか。身体とは何だろうか。
描くとは、踊るとは、そして、出会うとはなんだろうか。
あなたが生きていることから何が意味されて、
あなたはあなた以外のものから何が意味されていると感じているのだろうか。
例えば、地震、例えば、病気、例えば誰かの秘密、例えば近しい人の死、
虹が出たこと、晴れていること、空があること。
何かは意味されるのか?意味されてしまうのか?
何かをしたら、誰かによって
何かの意味にされてしまう。意味が無くても。
意味意味意味意味。意味。
今・今・今。意味。沈黙。
沈黙。
沈黙という言葉が添えられた今。…意味。
夜の暗い海の傍で
遠くに三つの光が均等な距離に並んでいる。
少し目を離すと、三つの光の均衡は壊れていた。
台所で何かがつぶれる音がした。
私は音の方を見て、また三つの光から目を離す。
もう一度視線を戻すと三つの光は私の目の前にいた。
夜の暗い海の傍で、暗い海の傍で、三つの光は私の傍から離れずにいた。
(了)
沈黙・沈黙・沈黙
私・僕・あなた・あなた・彼・彼女・人・人々・世界・命・時間・身体・記憶・私・僕・あなた・彼・あなた・私・人間・世界・あなた・記憶・彼女・命・時間・僕・時間・彼女・人・人・人々・記憶・意味
その綻びを身体で埋める
私とあなた、僕と彼、人と僕、彼と彼女・人と世界・命と身体・私と時間・時間と世界・記憶と私・意味
人がいる・人がいる・人がいる
その綻びを身体で埋める。
歌のようにあなた
紙のようにあなた
水のように、岩のように、あなた
生きることに疲れたあなた。
毎日に満足しているあなた
成熟したあなた
どこにも行けない あなた である あなた
海の上に立つ人
海の上に立っている人がいた
海の上に立つ人は泣いていて、
海の上に立つ人が泣けば泣くほど波が高くなり、
太陽は晴れていく
海の上に立つ人は私の方向に向かって叫んでいた。
それこそ、喉から血が出るような大声を出しているのだろう
首筋には血管が浮き出ている。
でも波のせいで声が全然聞こえない。
どれだけ海の上に立つ人がこちらにむかって真剣に叫んでいても、
たまたま叫んでいる方角に私が居るだけで、
私に何かを求めているようには思えなかった。
海の上に立つ人は急に笑い出すと、海の上を歩いて山の中に消えていった
何のことだかわからず、怖くもなかったな。
ただ、人が真剣に訴えていることが全く聞こえず理解もできず
自分には全く関係と思ったことが怖かった。
私は山の方をじっと見ていた。
いつの間にか、海の上に立つ人は、さっきの場所に戻っていて、
また喉から血を出して叫んでいた。今度は私はそちらの方を見すらしなかった。
(了)
あなたは、とても怖い人だった
怖い人だった 怖い人だった
私から見たら怖い人だった
私から見たら怖い人だったあなたはもうすぐいなくなるかもしれない
私もあなたもいなくなります。必ず。
あなたはとても優しい人だった
優しい人だった 優しい人だった
私から見たら優しい人だったあなたは
遠くないうちに私のことを忘れてしまうかもしれない。
どうするんや?なぁ?そうなったらどうするんや?
私は心臓を掴まれた
あなたがいなくなる 私がいなくなる あなたも私もいなくなる
私は心臓を掴まれた
昔、遠くに遊びに行った帰り、船から東京の方を見たら、
東京の上空だけすっぽりと まっ黄色のスモッグでおおわれてて…
月が割れてこぼれたみたいで
私 あそこに帰るんだなって、怖い感じがした。
ホントにすっぽり 東京の辺りだけ。
それでも、私は私は私はここにいる。
月が意味するもの月
月が意味できるもの月
月からは月以外の意味は出てこない。
月は月という言葉。月は月で月が意味。
でも人は月以外の意味を月につけてしまう。
朝は娘、
朝は女、
朝は人間
夜は身体
夜は踊る。
あなたは今地球の中に居る。
あなたは今人間の中に居る
あなたは今時間の中に居る。
綻びを身体で埋める。
・海を渡る、時間を沈める
私は海を渡るらしい。これから月を抱えて海を渡るらしい。
そう言われてる。
私は今ここに居ない。居るけどいない。
まっすぐに海の上を歩くと私はここに居なくなる。
月をもってまっすぐに歩くとここに身体いなくなるの、
目だけになって。
好きと月
月と好き
耳と好き
耳と月
腕と月
好きと腕
月と好きと耳と腕
好き私
海を目になって歩いていると、月の中から、四本足の月が出てきた。
二匹。それは私の身体に螺旋状にまとわりついて。そして。海の中をまっすぐ斜めに、こうゆっくりと、海の中に降りて行った。
そのあと月からは蜜がしみだして。私はそれをおでことほほに塗り、踊った。
それから持ってきた時計を静かに海に沈めた。時間が海に沈んでいく。
日は巻き戻り、月は息を吹き返し、死んだ人も生きている人も笑っている。
そして、海を降りていく。時計を拾うと、それを海の引き出しにしまった。
時計を窒息死させてる気になるの。時計を使っていると。
休まず働いてくれてるのに。私は時間を気にしていない。私の時間は行ったり来たり。まっすぐ前に進まない。
なのに人知れず、まっすぐ緩やかに止まらない時計を思うと悲しくて仕方なくて。
時間お休み。時間。ゆっくりお休み。
私は月を巻き付ける。
この世界は誰のもの。
(了)
あなたへ何か手紙を書くとしたら何を描くだろう。
踊ったほうが月は月の気持ちを表せるだろうか。
それが伝わる人だろうか。
どんな気持ちですか?私のことどう思ってました?
月はまだ言葉になりません。でも月はここに居ます。
月の花の中身について。
夢を見た
夢では月の花の中身だった。
中身と月は同じ場所に居る別の生き物だった
月は月の花の中身である私に言った。
そろそろ眠ることにします。
そこで目を覚ました。
私は今ここにいる。
月の花の中身として現実を歩いている。
月が目を覚ますまで。
(了)
昨日までは終わった
昨日世界が終わったらしい
宇宙の全部が終わったらしい。
私は朝 開けた
部屋のドアを
その日差しは世界で最初の光。
木も草もこの建物も地面も今日が世界で一番最初の一日。
私も今日が新しい世界で最初の一日。
昨日全部が終わって、
今日、
昨日 までと同じ形で世界が始まった。
昨日世界が終わったことは間違いない。
花に聞いても風に聞いても蟻に聞いても、
昨日までと違って 彼らは言葉を話さないから。
彼らはまたはじまった世界を、 昨日までと違う体の自分で楽しんでいる。
すべてを一から始めて知っていくことを。無垢な世界を。
私は人で記憶がある。
だからはっきりと昨日世界が終わったっことが分かるのに、
でも昨日と続いてるって半分くらいは思っている。
今日から始まった世界で、終わった世界の昨日と同じ道を歩きます。駅まで。
本当に新しくなった世界の中を。今はまだ言葉が要らない世界の中を。
雨もいつの間にか止んだことですし。
(了)
例えばその日、海があった。
夜の海があった。
夜の海に沈む体があった。
沈みながら広がる言葉があった。
それは私 で それはあなた だった…
そこには何も意味がない。ただの私・ただのあなた。
その上を歩いてみる。
最近夜中に電話があると怖い
あなたが死んだ晩のことである。
その晩はどこにでもある。
いつか私も綻びに埋まる。
(終わり)
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