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チンポ

 山の神に媚びたり,海の神の怒りを鎮めたり,悪霊を退かせるためには,男性器(以下,チンポ)を振り回してみるのが有効である旨の俗信は,日本列島津々浦々で散見されるものである。

 ここで私が問題にしたいことは,これら俗信の真偽ではなく,かような俗信を今日(こんにち)まで口伝させてしまう程の力の源はどこにあるのかということだ。これは,殊にスピリチュアルな領野において,かくもチンポが万能化・神格化されているのは何故かという問いだと言い換えられてよい。

 そもチンポは,少なくとも手足や表情に比して,「勃て」と命じても「勃つな」と命じても,しばしばこれに反するもの──アンコントローラブルなものであろう。かような諸経験が,自我とは別に身体を支配する得体の知れない威力のシンボルとして,我々の内心にチンポを神格化せしむるのかもしれぬ。

 さらに,男は生命の危機を感じたときに性欲が高まるという(低度の説得力は感ぜられる)俗説がある。これを一旦認めるとすると,人力ではとうてい御せぬ圧倒的な神力に畏怖するとき,己がチンポに神秘的な力能を信じてみたくなるのもまた男の道理と言えるかも知れぬ。

 男は,理性によっては解決の期待がもてないアポリアに直面したとき,一縷の,否,いちもつの望みを託してチンポを振り回してみたくなるものなのではあるまいか。

 言語や理性を超越した力への期待を,ともすれば信仰を,われわれ男は恒に身体の中心にぶら下げているのではあるまいか。

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