企業の社会的責任(CSR)とは何か?背景や問題点も解説!



問:企業の社会的責任(CSR)とは何か、150字以内で説明しなさい。



ダメな解答例:
企業の社会的責任っていったら・・・そりゃあれだよ、企業の社会に対する責任だよ!



解答例:
企業の社会的責任(CSR)とは、経済・環境・社会など、幅広い分野に企業が与える影響を考慮しながら、顧客・株主・従業員・消費者などの様々なステークホルダーの要求に対し、適切な責任を果たしていくという考え方の事である。具体的にはコンプライアンス、消費者保護、環境配慮、労働衛生安全、社会貢献などが対象となる。(148字)






《企業の社会的責任という概念》


企業の社会的責任とは、企業がその活動内容に社会性を浸透させて社会の期待にこたえることをいう。英語でCorporate Social Responsibilityといい、CSRと略す。この場合の社会性とは、一般的な倫理・道徳的規範のみをさすのではなく、各種環境主体が企業に対してもっている具体的要請をも含んでいる点に特色がある。

 CSRは企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をする責任を指す。CSRは企業経営の根幹において企業の自発的活動として、企業自らの永続性を実現し、また、持続可能な未来を社会とともに築いていく活動である。企業の行動は利潤追求だけでなく多岐にわたるため、企業市民という考え方もCSRの一環として主張されている。

 CSRが重要視されるようになった背景としては、過度な競争社会に対する反動が挙げられる。自由市場経済において営利企業の目的は利潤をあげることであるが、利潤追求を重視するあまり公害問題を始めとした環境問題を引き起こしたり、労働者を不当に働かせたりといった事例が多数確認された。こういった問題は社会全体の幸福度や安定性を脅かすだけでなく、当該企業にとっても事業の持続性を低下させることになる。そこで、企業活動が社会に与える影響を考慮しつつ、持続的発展を可能にする経営を進めていくことが必要だとされたのである。

 最も基本的なCSR活動として挙げられるのは、企業がその活動について、利害関係者に対してアカウンタビリティを果たすことであるとされる。アカウンタビリティは一般的に「説明責任」と訳されることが多いが、それは単に活動内容について説明するということだけでなく、説明を求められても困らないように、普段から公正な運営をする責任があるという意味も含まれる。企業がアカウンタビリティを果たすべき項目とされているのは、環境(対社会)はもちろん、労働安全衛生・人権(対従業員)、雇用創出(対地域)、財・サービスの品質(対消費者)等、多岐に渡る。国連では、このうちの「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関する10原則をグローバル・コンパクトとして提唱し、世界中の企業・団体に参加を呼びかけている。

※参考:
国連グローバル・コンパクト
人権
原則1.企業はその影響の及ぶ範囲内で国際的に宣言されている人権の擁護を支持し、尊重する
原則2.人権侵害に加担しない
労働
原則3.組合結成の自由と団体交渉の権利を実効あるものにする
原則4.あらゆる形態の強制労働を排除する
原則5.児童労働を実効的に廃止する
原則6.雇用と職業に関する差別を撤廃する
環境
原則7.環境問題の予防的なアプローチを支持する
原則8.環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブをとる
原則9.環境にやさしい技術の開発と普及を促進する
腐敗防止
原則10.強要と賄賂を含むあらゆる形態の腐敗を防止するために取り組む


《CSRに対する消極的な意見》


 上記の通り、CSRは社会の要請に応えた重要な概念であるとされているが、中にはCSRに対して消極的な姿勢を見せる向きもある。その根拠となっているのは会社法との兼ね合いの問題である。会社法105条では次のように定められている。

第105条  株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。
一  剰余金の配当を受ける権利
二  残余財産の分配を受ける権利
三  株主総会における議決権
2  株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

 ここで特に問題となるのは「剰余金の配当を受ける権利」と「残余財産の分配を受ける権利」である。株主は、企業の剰余的利潤を配当という形で受け取る権利が保障されているのである。企業が社会貢献の為にお金を使えば、当然株主に分配する剰余金配当は少なくなる。このような理由から、企業は法令の範囲内で株主の利益を最大化すべきであるという趣旨で会社法105条を解釈すると、CSRに対して消極的な姿勢を取ることになるのである。

 ところで、環境保全の為にかかる追加的費用や労働者の安全性を高める為にかかる費用といった、いわゆるCSRのコストは、余剰金の無駄使いであろうか。CSRのコストを必要経費と捉えるか、余剰金の利用と捉えるかによって会社法105条の解釈は変わってくる筈である。この点に関しては全体的な合意は形成されていない。

 また、自由競争市場の原理から考えて、特に社会的制約がなくとも各々の企業の競争によって自然と最適な社会バランスに収束するという意見もある。市場原理にしたがえば、各人が利潤を追求することで社会的余剰が最大になるような取引が為されるので、下手に倫理観や道徳観を持ち込むべきではないということである。

 どちらも少し偏った意見ではあるが、見るべき点はある。法的解釈や経済理論といった異なる視点から見ることで発想が変わってくる。また視点を変えることによって考慮すべき項目も変わる。(市場原理の話は社会的余剰を最大化するための視点を持ち込んでいるが、個別具体の企業の利潤最大化について言及していないことにお気付きだろうか?) こういった多面的な分析を試みることで気づけることもある筈だ。
CSRの機運の高まりにただ便乗するのではなく、しっかりとした理念とその実現の為の方法論を持ち合わせていることが必要である。


《日本におけるCSR》


 日本では1970年代から企業の社会的責任という言葉が使われていたが、一般に日本企業がCSRに期待するものは、「企業の持続的発展」であり、慈善事業を行うことで企業のイメージアップに繋げ、それを収益の増加に繋げる、という考え方が主流である。これが悪い事という訳ではないが、CSR本来の趣旨とは少し乖離している。


※ワンポイントアドバイス


CSRは倫理観の問題であると同時に、効率性の問題でもあります。長期的な視点で見たときに、CSRのコストを支払ってでも尚メリットがある場合も多いからです。
学習するにあたっては、様々な意見を聞きつつ、それはどの立場から考えたことなのかを推測するようにしましょう。同時に、その根拠となる背景知識として政治理論や経済理論についても大枠を捉えておきましょう。


※追記

ここまで読んでいただいてありがとうございます。
学びがあったと思っていただけましたら、SNS等でシェアしていただけますと幸いです。

また、現状としては読者の方がどういった点を解説してほしいのか、どういったテーマを掘り下げてみたいのかということがあまりわからないまま記事を書いています。
ご意見やリクエスト等、コメント欄に打ち込んでいただけないでしょうか?
「こういうことがわかりました」「こういうことが難しかったです」といったアウトプットの場にしていただいても構いません。
よろしくお願いいたします。

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森本@何度も大学いくマン
放送大学在学中の限界サラリーマンですが、サポートは書籍の購入にあて、更に質の高い発信をしていきます!

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