野球とともにある校閲
文を読む職業だから「校閲部員はみんな読書が趣味!」と思うかもしれません。実際そういう部員もいます。
そんな中、私の趣味は「野球観戦」。特に推しは中日ドラゴンズ。
幼いころは嫌で仕方なかった野球。ただの趣味から、「校閲」の役に立つようになった経緯をお話しします。
▽憎くてたまらなかった野球中継
関東在住の小学生だった約二十数年前、野球は私にとって悪夢でした。
1990年代といえばテレビの地上波で、ほぼ毎日19時から野球中継(特に巨人戦)をやるのが当然の時代。つまり、その時間帯に普段放送している番組は放送休止。楽しみが奪われ、いつもがっかりしていました。
そんな思いが変わったきっかけはというと…。
▽野球の面白さを知り、竜党に染まっていく
小学生の頃の日曜朝、ニュース番組内で中日・川上憲伸投手を取り上げたコーナーをたまたま視聴。
その中で力強く投げる映像が印象に残り、野球というものに興味を持つきっかけに。
そんな中、親のつてで巨人戦のチケットをゲット。
球場には「○○が変化球を打った」などと状況を説明してくれる実況も解説もいないことに驚き。
まず球を目でおっかけるところから始め、球場に通ううちにだんだん慣れていきました。
そこから竜党(中日ファン)に完全に染まったのは、2004年ごろに見たアライバ(荒木雅博、井端弘和選手のコンビ)の流れるような美しい連係守備を見てからでした。
その後は、関東在住だったこともあり中日戦が行われる日を狙って、神宮球場などに通いつめる日々。
中日の練習を見るために球場の開門前に列に並んだり、外野席で声を振り絞って応援歌を歌ったり…という学生時代を送っていました。
これらをへて、中日球団に関われるのではとの思いで志望したのが現在の会社。今思っても安直な考えだと思います。
憎かった存在がきっかけでここにいるので、人生何が起こるか分からないものです。
▽なんとなくした野球話。校閲業務に役立つ
入社してからは部内外問わず、休憩時間などに雑談をすることも。その中で、校閲業務に役立ったケースをいくつか紹介します。
①ソフトバンクが負け越した?
上司にあたる校閲部のデスク(責任者)がソフトバンクファン。
試合開始前、1戦目である前日は負けたもののこのカードは4連戦で、2戦目である今日、勝てばええんや…といった雑談をしていました。
結局負けてしまい、見出しと記事に「負け越し」とあり「残念だ」とデスクと話していたところ…。
…「いや、負け越していない!」(デスク)
そのカードは3試合ではなく4試合、2敗しても負け越しにならない。
業務前に雑談していたことが奏功しました。
②立浪監督と元中日ウッズ選手の誕生日
立浪和義監督と元中日の4番タイロン・ウッズ選手、2人の生年月日は同じ1969年8月19日。竜党であればご存じの方もいると思います。
立浪監督が就任した年、8月19日の試合開始前にスポーツ面の担当だった後輩に「今日は立浪監督の誕生日。だから紙面で触れるかも。そういえば以前いたタイロンも同じ誕生日なんだ」といった話をしていました。
すると予感は当たり、言ったことと同じ旨が記事に。後輩には「さっき話していたことが出た!」と驚かれ、少しは参考になったようです。
番外:栂野と栂池(高原)
長野県にある栂池高原。「つがいけ」と読み、難読のため記事ではルビが入っていることが多いです。
実は仕事で調べるまで「とがいけ」だとずっと思っていました。
なぜかというと、元巨人の栂野雅史投手がいたから。彼は「とがの」と読むため、勘違いしていたのです。変わった名字だからか、すごく印象に残っていたのだと思います。
このように、知識が逆にアダとなるパターンもあったり…。
▽知識に頼ることも、頼りすぎないのも大事
日頃得た知識は締め切り前の時間ギリギリにきた、字面を確認する(素読み)だけで精いっぱいな原稿を読むときに活用しています。
最近あったのは、西武の平良海馬投手の記事に出てきた「先発転向1年目のシーズン」に関して。2023年シーズン、中継ぎから先発に転向していたのを知っていたため、調べを後回しに。
もう一つ、「竜2戦連続無安打」の見出しは記事と合わせなくても、一発でおかしいことに気付けた事例。前日の試合も見ていて「無得点」が続いていたのを知っていたというのもありますが、本当に「無安打」ならもっと大きく取り上げられているはずですから。
ここまで読んで、目の前にパソコンなど調べる道具があるのだから、すぐ調べればよいのでは、と思われるかもしれません。
しかし、校閲作業では「てにをは」や「誤字、脱字、漢字変換ミス」の確認といった「ちゃんと文が成り立っていて読めるかどうか」を優先します。
どうしても、「2000安打まであと〇本」といった記録や「ドラフト〇位」といった事実の確認は、降版間際の場合は後回し。
そこで、知識をためこみ覚えておけば、上記のように素読みの段階で違和感に気付くことができ、間違いをつぶしておくことができます。
ここで重要なのは記憶に頼りきりにならないこと。
いくら自分の知識に自信があっても、先の「栂池」の読みのように勘違いは人間にはよくあることです。
真偽の確認は日本野球機構(NPB)や球団の公式サイトや記録集といった根拠のあるものを使い、調べるのが原則。
記憶はあくまでも、必要な情報にたどり着くための糸口に過ぎません。
▽趣味の延長が仕事になる
校閲という仕事は、今日は選挙や国会がらみ、次の日は相撲やサッカー…と毎日関わるニュースが違います。
就職前は興味がなかったような事柄でも、経験を重ねていくうちに多少は理解できたり、親しみを持ったりするようになりました。
ただ、本当にその事柄が好きな人にはかないません。
・好角家(相撲ファン)の後輩が素読みをしただけで、力士の年齢がおかしいと気付く
・海外サッカーファンの後輩が海外チームの選手の競技写真を見て、写真説明に記された選手と違うことを指摘
…など、詳しい人だから早期にミスを発見できた例が多々あります。
校閲では、言葉の知識以外にも活躍の場があります。
就職活動の際、野球の知識しかアピールポイントがなくて不安になりましたが、今では業務にこんなにも役立っています。
これから就活を始める方、自分の趣味や知識に誇りを持ってください。
きっと役に立つことがあると思います。