【0022】えむしたのこと「明日はやりたいをやってるだけだもん」
日中はアルバイト、夜は途中配信をつけながら日付が変わるまでスタジオかカラオケ練。夜更けに自転車で帰宅して、風呂に入って寝る。モデル関連の仕事と練習は、しばらくすべて断った。事務所からは渋い顔をされたけれど、冬まで時間が欲しいと頭を下げた。もしかしたら、これで干されてしまうかもしれない。でもそれは、ひとつを選んだらひとつを諦めなければならなかったり、その隙にあっさり奪われてしまったり、いくらでも自分の代わりはいる。当たり前のことだと割り切っていたから、少しも悔しくなかった。いまは、とにかく歌わなければという焦燥が強かった。
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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。
小説「えむしたのこと」
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