家庭料理こそ一期一会、再現性を求めてはいけない
獅子柚子という、やたらデッカい「ゆず」的なものがある。
柚子のように黄金色の果皮で、とても大きいことから「獅子柚子」「鬼柚子」と呼ばれている。乳児の頭くらいの大きさがあり、大きいものだと 1kg 程の重さになるらしい。
名前には「柚子」と付いているが、実際には、文旦(ブンタン)の亜種。内側は約半分は白いワタ状、果肉部分は小さく、果汁も少ない。果肉は食べられるが、甘味も酸味もパッとしない大味。要はあまり美味しいモノではないため、ジャムなどに加工して食べる。
しかし、一応、縁起物である。
邪気を払う、千客万来の縁起物として、店先に飾られることもあるらしい。また、実が大きいことから「実入りが大きい」という意味合いも込められているとのこと。
先日、スーパーの産直コーナーにて、「獅子柚子 250円」。
これは買うしかない。久しぶりに、家ジャム、食べたい。
商売もしていないし、邪気払いは、四国の寺院にお任せしているので、飾ることなく、元気なうちに加工する。
「実入りが大きい」とはいうが、実際半分に切ってみたら、中はカスッカス。想像以上に果肉は小さく、果汁も少ない。果芯もスカスカで乾燥気味。
記録写真を撮る気もない、私の頭も同様にカスッカスであるので、画像をお借りして貼っておく。
商売する人は、こんな「実入り」の縁起を担いでいいのだろうか。あまり質の良い「実入り」とは思えないのは、私だけなのか。
ともあれ、獅子柚子ジャム作りを進める。
レシピを検索すると、2度も3度もゆでこぼしをしてから、がっつり砂糖を入れて作るのが定番のようである。
中果皮と呼ばれる白いワタ状の部分に苦味があるからだと思う。柑橘のジャムは、これがあるからめんどくさい。
ただ、このワタ状の部分には、ポリフェノールの一種であるヘスペリジンが含まれている。抗酸化作用、血流改善、血圧上昇抑制、血管老化防止、毛細血管壁の保護、新陳代謝促進など、健康効果があるといわれている。
獅子柚子ジャムのレシピと一緒に、ワタ(ヘスペリジン)の健康効果なども紹介されている方が多い。
しかし、このヘスペリジンは、水には難容であるが、熱には弱い。ゆでこぼし+煮込みで、健康効果が期待できるのかは不明である。世に溢れる健康情報の多くは、そんなものである。振り回されてはいけない。
ヘスペリジンの効果はともかく、柑橘系の苦味はキライではないので、飛ばせる過程は飛ばして進める。
獅子柚子ジャムの作り方
8〜16等分にわける(獅子柚子のサイズ次第)
果肉部分を切り離し、細かく刻み、砂糖にまぶす
果皮と中果皮は、薄く櫛形に切る
3 を鍋に入れ、水を加え、煮る
沸騰後3分ほど煮たら、ざるに開けて、軽く水を切る
2(果肉と砂糖)と5(果皮と中果皮)を鍋にいれ、鍋底が焦げ付かないように、適量の水を加える
弱火で20〜30分煮る
風邪も吹っ飛ぶような極めて爽やか、かつ、ちょい苦で”オトナのジャム”感溢れる仕上がりである。
いつものことではあるが、我が家のジャムは砂糖が少ない。
計量さえしていないが、糖度が低いことは間違いない。
よって、瓶に小分けして、順に早々に食べ切る。
しかし、どんなに美味しくても、この味が我が家に来ることは2度とない。
私が作るものには再現性がないからである。
私は、あまり料理も好きではないし、得意でもない。
それでも、素材と私の気分と手加減が調和すると、なかなかに、それなりに、美味しく仕上がる。あくまで「ウチの味」ではあるが、夫にも褒められ、喜んでもらえる。
料理はさほど好きではないとはいえ、作ったものを喜んで食べてもらえるのは嬉しい。
「ありがとう。残念ですが、2度目はないよ」
我が家の料理は、どんなに美味しくても、気に入っていても、同じ味に出会うことは、2度とない。
正しく言えば、再現不可能レベルに、あまりにいい加減なのである。
だいたい同じレシピで作っても、素材の違いや分量、ちょっとした火加減、匙加減、時間で味が変わるなんてよくあることだし、食べる側の気分や体調、なんなら季節や天気によっても、受け止め方が変わる。
美味しくない、イマイチな仕上がりになれば、残念であるが、仕方がない。そういう時もあるのだ。所詮、家の事。生業としての料理ではないのだから。
とはいえ、料理も作り続けていると、ぼんやり学習しながら、経験値も上がる。口にするのも躊躇するようなとんでもないモノに仕上がる確率は、ほぼゼロである。イマイチだけど、食べられる。そこがまた、適当さを助長するのだけど。
家庭料理は、一期一会。再現性は不要である。
私の座右の銘である。神経質・潔癖症の傾向のある私ではあるが、家事に完璧さを求めたり、完成度をあげることを自らに課したりはしない… ことにしている。
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キッチンサイエンスは、レシピ本よりはるかに面白いと思う。