もし行政保健師が「カスタマーサクセスとは何か」を読んだら
こんにちは!いわきりです。
4月から入社する会社で、私は「カスタマーサクセス」という仕事をすることになった。
いわきり:かすたまーさくせす…🐴
イケメンめちゃすごプログラマのひと:これを読んでみなよ(イケボ)
↑注意:いわきりの脳内変換です。実際のやりとりとは異なります。
ということでオススメされたのがこの本
私の会社では「CSの赤本」と言われており、多分私以外全員読んでいらっしゃる様子。
外出自粛でなくても土日はパジャマのまま家に籠っている私なので、入社前最後のこの土日に一気読みした。
今後カスタマーサクセスとして働くためにここで感想を述べるのは簡単なのだけれど、一方で「行政保健師」の目線でこれを読むと結構面白いことに気づいたのでここで書いてみる。
著者の弘子ラサヴィさんの語り口は簡潔で分かりやすいため、いわきりの解説など足下にも及ばないのだが、全く読んだことのない方にも本書の内容をざっくり知っていただける内容になっていると思うのでぜひ読んでいただきたい。
なお、ここから本書を購入したとしてもいわきりには一円も入らないノンアフィリエイト記事であることを申し添える。
1. 本書の構成
本書の構成は全3章。
第1章では、「カスタマーサクセス(以下、「CS」)」という新しい概念がなぜ日本企業に必要であるのか、「カスタマーサービス」とどう違うのか、日本企業にこそ実は馴染みやすく、むしろ必須な考え方であることを示している。
あわせて、これまでのビジネスモデルである「売り切り型」から「リテンションモデル」に現代から未来の顧客はシフトしており、日本企業もリテンションモデルへの転換を迫られていると説いている。
そのリテンションモデルとCSが密接に関係しているため、今後さらにCSの重要性は増していく。
※リテンションモデルについてはここでは記さないのでググってください。ごめんなさい。
第2章は本題とHow-toになっている。
CSとは、CSの本質、CSの原則を具体例とデータを用いながら解説している。
本記事もベースはこの章に基づいて書き進めるつもりなので、ここでの説明は省略するが、ぶっちゃけ時間がないならこの章だけ読んでも1,782円(3月29日時点)の価値はある。
第3章は、日本におけるCSの現状を、世界と比較し、さらに実際の企業の実例と共に紹介している。
まず、日本企業のカスタマーサクセス実務は出遅れているが、一方で日本ならではの「CSの特徴」が確認されたということが示されている。
CSの世界にはどうやら、「どれだけCSやれてますかね指標」というのがあり(正式名称:カスタマーサクセスパフォーマンス指標(TM)、CSPIと略される)
それによると日本は「チーム」と「リソース」で他国を上回っているというのだ。
これに対し著者は、
より広い業務をバランスよくこなせるゼネラリスト志向が強い日本企業と、個人の職務内容を明確に定義し、特定スキルを持つ多様なスペシャリスト集団としてカスタマーサクセスチームを編成する欧米企業との文化的な違いが背景にある
と考察している。
また、リソース部分については、日本企業は顧客に提供する情報や手段を提供するための仕組みや資料づくりに注力しているとしている。
Appleは説明書とか全然ないけど、Panasonicの洗濯機の説明書は分厚い、とかそういうことだと思う(小並感)
2. カスタマーサクセスとは何か
カスタマーサクセスとは、と聞かれた著者は
「サザエさんにでてくる三河屋の三平さんの現代版」と答えるそうだ。
(「三河屋のサブちゃん」だった気がするんだけど気のせいかな)
「そろそろお醤油切れる頃じゃないですか〜?」とか言ってくれるあの人。
でもそれじゃただのルート営業であり、「カスタマー」は「サクセス」していない。
しかしCSには三平(サブちゃんかも)との共通点がある。
それは「商いは買っていただいたあとが大切」という基本精神だと著者は説く。
つまり、カスタマーサクセスとは簡単に言えば「買った後の顧客を大切にする」ことなのだ。
顧客とよい関係を築き、最初の商いを継続させ、減った商いを小さくし、増えた商いを大きくする。
一昔前は当たり前だったこのビジネスモデルは、大企業の「たくさん作って安く売る」売り切りイケイケドンドン手法により消えていった。
売り切りモデルは買ってもらうまでが勝負で、その先の顧客の顔は見えない。
しかしこれからのビジネスモデル(リテンションモデル)では、CSによる、「顧客をケアし、継続してそのプロダクトを使用してもらい、さらに買い増しを促す働き」が売り上げを増幅させる。
なぜそのような現象が起こりうるのか。
それこそ、「カスタマーに成功を届ける」=カスタマーサクセスの働きなのである。
3. 行政保健師が「カスタマーサクセス」を考える
まず、ここで断っておくが、行政保健師はビジネスではない。
行政保健師(公務員)というのはもとより、「お金にならないが住民の生活や健康のために必要なこと」を皆様から納めていただいた税金で行う仕事だ。
だから暴言を吐かれてもゴミ屋敷に突入したり、相談を延々と受けたり、うざがられても服薬指導をしたりする。
しかしそこには、「この人の未来が健康的で明るいものであるように」という「健康上のサクセス」という視点があるのだ。
だから、この記事では保健師がこうすれば儲かるとかそういうことではなく、
あくまで
「あなたが受け持つ地域住民の健康上のサクセスを得るために」
という観点で読んでいただきたい。
本書の中で述べられているいくつかの「CSの原則」から、行政保健師にも役立てられる3つの原則をチョイスした。
(1)カスタマーの成功を正しく理解する
(2)成功を届けるまで責任をもって行動する
(3)プロダクトチームとサクセスチームがベタベタに連携せよ
では、順番に見ていこう。
(1)カスタマーの成功を正しく理解する
ここで言う成功とは、「生活上の成果」だ。
例えば、あなたが介護予防の担当者だったとする。
あなたは「足腰の筋肉が弱っており、これまでの生活を続けられず困っている住民が多い地域がある。そこで介護予防教室を開こう!」と企画した。
チラシを作成し、包括支援センターなどと協働し綿密な計画を立てたところたくさんの参加者が集まった。その後のアンケートで、教室で学んだ運動を継続している人が50%以上いた。めでたしめでたし。
さて、これは「カスタマー(住民)の成功」と言えるだろうか。
本来、この介護予防教室の目的は「住民の足腰の筋肉を弱らせることなくこれまで通り生活し続けられる」ことであろう。
「運動を継続する」ことがこのカスタマー(住民)の成功ではないのだ。
「カスタマーの成功」を正しく見極めることは難しい。
教室で学んだ運動を継続している住民が多かったとしても、その住民が結局要介護状態になったり、これまでの生活を継続できていなければ「成功」ではない。
(2)成功を届けるまで責任をもって行動する
この部分で著者は3つの行動を確認すべしと言っているが、抜粋して1つ紹介する。
それは、
他社サービスと乗り入れてデータを共有する仕組みがあること
である。
まず、他社サービスと乗り入れて、というところを行政で変換すると、民間企業との共創ということになる。
私は2つの自治体での勤務経験があるが、現在日本国内で「これから税収が上り調子でヒャッホーだぜ!」という自治体はゼロである。(あるなら行きたい)
ということで、一般事務職員よりカネのかかる私たち行政保健師の雇用枠には限りがあり、高齢者人口の増加や止まらない核家族化とともに増える仕事に際限がない。
一方で、民間企業の技術革新は凄まじい。
(プログラミングを学んでいて、職場のネット環境と開発環境…と私のスキルさえ整っていれば私の出勤日数は3分の1になると確信した。)
私のようなぬるま湯行政保健師だった者には想像もつかないIT・AI技術が進んでおり、それを利用しない手はないのだ。
AIに仕事を取って代られるのでは?なんてハラハラしてる暇があったら、こっちから技術を取り込むくらいの意気込みが必要だ。
意気込みたいあなたにはこの本をオススメする。
話が逸れかけているが、地域住民の健康にサクセスしたいなら、行政だけで課題を抱え込みなんとかしようとすることは「責任を持っている」ことにならないということだ。
たとえあなたがどんな住民にも健康を届けられる凄腕保健師だったとしても、あなたが転勤したら住民に「成功」が届けられない。
継続的に「成功」を届けるための仕組みづくりに、民間企業との共創やIT・AI技術を積極的に取り入れることで、責任を果たすことにつながるのだ。
(3)プロダクトチームとサクセスチームがベタベタに連携せよ
これを行政用語で変換すると、
「本庁部門と窓口部門の連携」だ。
筆者は、
カスタマーが手にしたい成功は通常、テクノロジーそのものではない。つまり、成功を届けるにはテクノロジー「以外」の価値もセットで提供する必要がある
としている。
例えば、本庁で「子育て応援アプリ」を作成したとする。
そのアプリを通じて、本当に地域の親子が楽しく便利に子育てができるようになるには、窓口部門にいる保健師の相談内容の蓄積や、解決手法、実際の親子の声・ニーズの反映が必要不可欠だろう。
また、そのアプリを使い続けてもらうには、一方的なアプリからの情報提供だけでなく、実際の子育て支援サービスへの誘導や、親子ひろばでの活用を連動し、カスタマー(ここでは子育て中の人)にメリットを感じ続けてもらう必要がある。
ここではアプリの活用を例にしたが、これは「国から下りてくる」事業についても同じことが言える。
国(私たちの部門では主に厚労省)から実施を必須とされる事業は、ざっくりとしたフレームのみ提供され、「あとはそれぞれの自治体で」とお任せされる場合がほとんどである。
そういったフレームを、どの分野のどの事業であろうと、現場保健師が得た情報を吸い上げ、本庁保健師がその自治体としての事業に落とし込んでいくという作業により、「絵に描いた餅」を「食える餅」「美味しい餅」にしていくことができる。
これには、本庁部門と窓口部門の連携が必要不可欠だ。
4. まとめ
「カスタマーサクセス」という言葉は、日本ではまだ聞き馴染みがないし、行政人にはもっと馴染みのない言葉だ。
しかし、この「CSの赤本」からは行政保健師、いや、公務員も学ぶべきエッセンスがたくさん詰まっていた。
この本の帯には
デジタル時代の「お得意さま」戦略
と書いてある。
行政保健師こそ、地域にたくさんの「お得意さま」を抱えてなんぼなのだ。