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31.16 ベクトルの初歩(数ベクトル 導入)
これまでは幾何ベクトルを扱っていたので、平面上または空間内を特に区別することなく扱ってきました。
ここからは数ベクトルを扱うので、平面上と空間内に分けて話を進めます。
分けて話す理由
あなたは机上で数学をたのしんでいます。机上にある消しゴムはあなたから見てどの位置にありますか。もしもノートに横軸と縦軸が書かれていれば、消しゴムの位置は横縦を用いて表せます。横軸縦軸が書いていない場合なら自分の位置から消しゴムまでの距離および方角で位置を表せます。
どちらの場合も情報は2つです。
では机上から落ちた消しゴムはどの位置にありますか。ノートに横軸と縦軸が書かれていても表すことができません。でも高さを考えることで位置を表すことができます。横軸縦軸が書いていない場合なら上と同じように距離と方角で表せそうです。しかし、方角は東西南北だけでは不十分で、上下の方向を表す尺度も必要になります。
これらの場合は情報として3つ必要になります。
これから学ぶ "数ベクトル" はこのことに関係していて、平面上か空間内かで情報量が変わります。だから平面上と空間内で分ける必要があります。
平面上の数ベクトル
座標平面を考えます。このとき、座標平面上に点Pをとれば、点の位置が分かると同時にベクトル$${\overrightarrow{\mathrm{OP}}}$$が決まります。
先にベクトル$${\vec{a}}$$を与えても、ベクトルの始点を原点Oに取ると決めておけば、ベクトルの終点の位置および座標が同時に決まります(※1)。
具体的に見てみましょう。
ここで、次のような2つのベクトルを考えます。向きが$${x}$$軸の正の向きで長さ1のベクトルを$${\vec{e_1}}$$、向きが$${y}$$軸の正の向きで長さ1のベクトルを$${\vec{e_2}}$$とします。
座標平面上に点$${\text{P}(3, 2)}$$をとると、ベクトル$${\overrightarrow{\mathrm{OP}}}$$は
$${\overrightarrow{\mathrm{OP}}=3\vec{e_1}+2\vec{e_2}}$$
のように表すことができます。
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逆にベクトル
$${\vec{q}=\vec{e_1}-2\vec{e_2}}$$
が与えられていて、始点を原点としたときの終点を$${\text{Q}}$$とすると点$${\text{Q}}$$の座標は$${\text{Q}(1, -2)}$$と分かります。つまり、点の座標とベクトル表記が1対1に対応しています(※2):
$${\text{P}(3, 2) \longleftrightarrow \overrightarrow{\mathrm{OP}}=3\vec{e_1}+2\vec{e_2},\quad\quad \overrightarrow{\mathrm{OQ}}=\vec{e_1}-2\vec{e_2} \longleftrightarrow \text{Q}(1, -2).}$$
一般的に言えば
$${\text{A}(a_1, a_2)\longleftrightarrow\overrightarrow{\mathrm{OA}}=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}}$$
という対応です。そこで数の組$${(a_1, a_2)}$$とベクトルを同一して、$${(a_1, a_2)}$$がベクトルを表していると考えます。このベクトルを数ベクトルといいます。
数ベクトルは横に並べて書くこともありますが、多くの場合、縦に並べて書きます。計算しやすいのが利点の一つです。この『数学事始め』では計算するときに限り、縦に並べた数ベクトルも使うことにします(※3)。
$${\vec{a}=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}\:\longleftrightarrow\: \vec{a}=(a_1, a_2)}$$
注:一見、座標とベクトルの区別ができないように思いますが、前後関係や表現の仕方で区別できます。ただし、単に(3, 2)と書かれたら座標なのかベクトルなのかその他の何かなのか判断できません。これは単に「谷川」と書かれていた場合、谷と川なのか、群馬県の谷川なのか、将棋の谷川16世永世名人なのか、3丁目の谷川さんなのか区別できないのと同じです(※4)。
ベクトル$${(3, 2)}$$という場合、ベクトルは位置を問題にしないので、座標平面上のどこにあっても構いません。つまり、原点を始点とし点 (3, 2) を終点とするベクトルだけを表しているのではありません。
$${(3, 2)\: \longleftrightarrow\: 3\vec{e_1}+2\vec{e_2}}$$
という対応があるので、3は右方向に3の移動、2は上方向に2の移動を表していると見ます。もちろん、$${\vec{e_1}, \: \vec{e_2}}$$が与えられていることが前提です。
例 2点$${\text{A}(3, 1), \: \text{B}(2, 4)}$$に対して、$${\vec{e_1}, \: \vec{e_2}}$$が与えられている下で、ベクトル$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}}$$を考えてみます。
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点Aから点Bまでの移動を考えると、左に1上に3なので
$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}=-\vec{e_1}+3\vec{e_2}}$$
または
$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(-1, \: 3)}$$
と表すことができます。さらにピタゴラスの定理を使うことにより
$${|\overrightarrow{\mathrm{AB}}|=\sqrt{1^2+3^2}=\sqrt{10}}$$
と分かります。▮
幾何ベクトルを思い出すと、ベクトルは位置を問題にせず、向きと長さによって決まる量でした。数ベクトルもいま見たように、位置を問題にせず、向きと長さを有しています。
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