見出し画像

31.19 ベクトルの初歩(数ベクトルの内積)


数ベクトルの内積

2つの数ベクトル$${\vec{a}=(a_1, \: a_2), \: \vec{b}=(b_1, \: b_2)}$$に対して

$${\vec{a}\cdot\vec{b}=a_1b_1+a_2b_2}$$

が成り立ちます。
注意:高校数学の教科書と流れが異なります。

この数学事始めでは、次の内積の性質

      ③$${(\vec{a}+\vec{b})\cdot \vec{c}=\vec{a}\cdot \vec{c}+\vec{b}\cdot \vec{c}}$$
      ④$${\vec{a}\cdot (\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot \vec{b}+\vec{a}\cdot \vec{c}}$$
      ⑤$${(k\vec{a})\cdot \vec{b}=k(\vec{a}\cdot \vec{b})=\vec{a}\cdot (k\vec{b}) \:\: (k\in \mathbb{R})}$$

31.11 で証明しているので次のようにして成り立つことが確認できます。基本ベクトル$${\vec{e_1},\: \vec{e_2}}$$を用いると

$${\vec{a}=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}, \quad \vec{b}=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}}$$

と表せるので

     $${\vec{a}\cdot\vec{b}}$$
    $${=(a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2})\cdot (b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2})}$$
    $${=a_1b_1\vec{e_1}\cdot\vec{e_1}+a_1b_2\vec{e_1}\cdot\vec{e_2}+a_2b_1\vec{e_2}\cdot\vec{e_1}+a_2b_2\vec{e_2}\cdot\vec{e_2}}$$
    $${=a_1b_1|\vec{e_1}|^2+(a_1b_2+a_2b_1)\vec{e_1}\cdot\vec{e_2}+a_2b_2|\vec{e_2}|^2}$$
    ▲ 性質 $${\vec{a}\cdot\vec{a}=|\vec{a}|^2, \: \vec{a}\cdot\vec{b}=\vec{b}\cdot\vec{a}}$$ を利用
    $${=a_1b_1+a_2b_2.}$$ ▮
    ▲ 性質 $${|\vec{e_1}|=|\vec{e_1}|=1, \: \vec{e_1}\cdot\vec{e_2}=0}$$ を利用


高校数学では内積の性質を証明していないので、 31.10 で内積を定義した式

$${\text{AB}\cdot \text{AC}\cos \theta=\dfrac{1}{\:2\:}(\text{AB}^2+\text{AC}^2-\text{BC}^2)}$$

をベクトル$${\vec{a}:=\overrightarrow{AB}, \: \vec{b}:=\overrightarrow{AC}}$$で書き直した

$${|\vec{a}||\vec{b}|\cos \theta=\dfrac{1}{\:2\:}(|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-|\vec{b}-\vec{a}|^2)}$$

の右辺を成分で計算することによって

$${a_1b_1+a_2b_2}$$

を得ます(これは各自で確認してください)。つまり

$${\vec{a}\cdot\vec{b}=a_1b_1+a_2b_2}$$

となります。そしてこれによって、内積の性質を証明します。▮


余話
高校数学はこのような論理の組立よりも結果の使い方に力を注ぎます。大学以降の数学ではどちらも大事ですが、研究する上では論理の組立が大切になります。特に数学科ではこれが顕著です。
なので、大学で高校数学のように数学をたのしむのなら、数学科ではなく、数学を使う他の学科が良いかと思います。
プラトンのアカデメイアで幾何学が重んじられたのは、この論理の組立を学ぶことが立法にいかせると考えたからだと思います。そう考えると、法学部の学生にこそ数学科の1・2回生が学ぶ線形代数や微積分の理論を学ぶ意義があるように思いますが、実際はそうなっていません。

なお、数学者だからといって数学科出身とは限りません。物理学科だけでなく、工学部や経済学部出身の人もいます。大学3回生以降で学ぶような数学をたのしむには、受験数学が必ずしも必要であるとは限らないといえると思います。


閑話休題。数ベクトルの内積が計算できるようになったので、幾何ベクトルと同じように、角の大きさや面積を考えることもできます。

 $${\vec{a}=(1, \: 2), \: \vec{b}=(-1, \: 3)}$$のとき、内積$${\vec{a}\cdot \vec{b}}$$は

$${\vec{a}\cdot \vec{b}=1\cdot (-1)+2\cdot 3=5.}$$

2つの数ベクトル$${\vec{a}, \: \vec{b}}$$の大きさは

$${\vec{a}=\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt{5}, \quad \vec{b}=\sqrt{(-1)^2+3^2}=\sqrt{10}.}$$

ここで$${\vec{a}, \: \vec{b}}$$の成す角を$${\theta}$$とすると$${\vec{a}\cdot \vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos \theta}$$より

$${\cos \theta=\dfrac{\vec{a}\cdot \vec{b}}{\:|\vec{a}||\vec{b}|\:}=\dfrac{5}{\sqrt{5}\sqrt{10}}=\dfrac{1}{\sqrt{2}}.}$$

したがって、$${\theta=\dfrac{\:\pi\:}{4}.}$$(θ=45°)

さらに、2つのベクトル$${\vec{a}, \: \vec{b}}$$の始点を揃えたときに張られる三角形の面積を$${\text{S}}$$とすると

$${\text{S}=\dfrac{1}{\:2\:}|\vec{a}||\vec{b}|\sin \dfrac{\:\pi\:}{4}=\dfrac{1}{\:2\:}\cdot \sqrt{5}\sqrt{10}\cdot \dfrac{1}{\sqrt{2}}=\dfrac{\:5\:}{2}}$$

と求められます。▮

注:上の例では具体的に角の大きさを求められましたが、具体的に求められなくても最後の三角形の面積を求めることができます。
(方法1)$${\cos\theta}$$の値から$${\sin\theta}$$の値が求められるので、上と同じように求められます。
(方法2)ベクトルの内積 31.13 で紹介した公式

ここから先は

778字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?