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31.01 ベクトルの初歩(幾何ベクトル)

「ベクトル」は、理科(物理)の「ちから」の表記や「ちからの合成と分解」だけでなく、日常においても「物事や考え方の方向」の意味で使われているので、耳にしたことがあると思います。

このシリーズは、主に高校数学「平面・空間のベクトル」の話をします。
 ①幾何ベクトル ②数ベクトル ③図形への応用 ④大学数学の入口
を予定しています。


ベクトルは数学者のハミルトン (W.R.Hamilton) (※1)が、ギリシャ語をもとに名付けたもののようです ([飯高])。英語で vector と書くので「ヴェクター」が英語の音に近いと思いますが、慣習に従いベクトルと表記します。

ベクトルは、物理学では、矢印 → で「ちからのはたらいている向き」、矢印の長さで「力の大きさ」を表します。ここでは幾何学的にベクトルを導入しますが、結果的に同じものです。

ベクトルは現代数学において欠かすことのできない概念で、あらゆるところに顔を出します。ここでは高校数学を主に扱うので、図形との絡みが多くなりますが、実際、図形を扱うときにとても便利な道具で、大学以降の数学(微分積分、ベクトル解析、微分幾何など)で再び登場します。ベクトルを抽象化したものはさらに多くの数学で用いられます。その抽象化されたベクトルは大学1, 2年の「線形代数」で学びます。


幾何ベクトル

平面または空間において、2点A, Bを直線で結んだものを線分といい、記号で AB または BA と書きました。この線分に向き (方向) を考慮し、$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}}$$ と書いたらAからBへの向きの付いた有向線分を表すことにします。これによって、これまでは AB=BA でしたが、$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}\neq\overrightarrow{\mathrm{BA}}}$$となります。

注意1:$${\overleftarrow{\mathrm{AB}}}$$という表記はしません。この記号での矢印は常に右向きです。


下図の平行四辺形ABCDにおいて

$${\overrightarrow{\mathrm{AD}}}$$と$${\overrightarrow{\mathrm{BC}}}$$は位置は異なりますが、向きと長さが等しい有向線分です。言い方を換えれば、平行移動させると2つの有向線分はぴったり重なります。
このような有向線分を同じものと見なしたものを幾何ベクトル (単に、ベクトル) と呼びます。つまり、位置は考えず、有向線分の向きと長さだけに着目したものが幾何ベクトル (ベクトル) です。今後は、単に、ベクトルと呼び、ベクトルを表すのに、有向線分と同じ表記を用いることにします。
ベクトル$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}}$$と書いたら、向きと長さが等しい有向線分を代表していると読み取ります。

記号の読み方:ベクトルを表す記号$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}}$$を、ふつう、ベクトルABと読みますが、ABベクトルと読んでも構いません。

注:ベクトル$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}}$$と表記すると重複している感じを受けますが、これは有向線分$${\overrightarrow{\mathrm{AB}}}$$と区別するためであり、それぞれベクトルAB、有向線分ABと読みます。

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