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久々に読書レビュー

「令和元年の人生ゲーム」麻布競馬場
を読んでみた。

著者の麻布競馬場さん、かなり変わったペンネームである。デビュー作の「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」が良かったし、この作品もタイトルが気になった(万延元年のフットボール、のオマージュ?)ので手にとってみた。

連作短編集のなかに共通して登場する沼田くんが、はじめは嫌なやつという立ち位置で登場するのだけど、彼がなかなかに味わい深い。どこか憎めずに惹かれていってしまうキャラクターで、本当はこんな人だったんだと思わせつつも、最後までミステリアスな部分を残したまま終わる。こういった人物描写、なかなか好きである。

また作品中にZ世代というキーワードが頻繁に出てくるが、話の本質は若者たちの迷いと葛藤であり、昔から不変のテーマだ。実際にボランティア暴走のエピソードを読んでいると、昔読んだ1960年代に学生運動が活発化しすぎてエスカレートしていく様のようだった。

自分を振り返っても、大学生時代はバブルの真っ最中で世の中は浮かれていたけれど、就職前にはこれからの自分に対して悩みというか漠然とした不安感があったことを思い出す。結局はいつの時代も、これから社会へ出ていこうかという時期や社会人になりたての頃って、悩みや課題が時代を問わず共通なのだろう。

それでも物語の背景にあるのは今どきのシェアハウスだったり、プロジェクトだったりするので、今現在進行形の小説として読み応え十分である。

印象に残った沼田くんのフレーズを引用しよう。
「だって、被害者の側が加害者を追いかけなきゃならないだなんて、収支が赤字じゃないですか」

前後の文脈がないと、なんのこっちゃ?という一文だけど、ネタバレになるのでこの程度でご容赦を。おそらくは読む人それぞれのケースに置き換えて、考えさせられるコメントだと思う。久々に読書中も読後も、思考が刺激される作品となった。秀作!


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