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伊勢物語と通読授業
0 はじめに
本投稿(及び今後の「伊勢物語と中学生」に関連する投稿)は、2020年度に僕が始めた「中学生と『伊勢物語』を通読する授業」の記録です。備忘録として書いているものですので、特に面白いことは無かろうと思います。
1 生徒
生徒とは中学1年生からの付き合いです。私立の中高一貫校ですので平均的な学力は高く、また集団内の学力差は比較的小さめの集団です。
古文の導入としては、中学1年生の三学期に、黄表紙の「桃太郎後日噺」(新日本古典文学全集79所収)をコピーして配り、全員で読みました。現代語訳も付いていますので、音読をしながら内容を確認しつつ、古文に慣れることが目的でした。
2 授業
『伊勢物語』は中学2年生の4月から読み始めました。テキストには安部俊子『伊勢物語(上)』(講談社学術文庫 1979年)を使用しています。
4~6月はオンライン授業で第一段から第十三段を、6~12月は対面授業で第四十五段まで。このまま本年度は第六十段まで読み、中学三年生に繋げる予定です。二年間で第百二十五段(最終段)まで通読できるようにと考えました。
4~6月はオンライン授業です。「ノートの作成」を課題として課し、ノートの画像を撮影してGoogleフォームを通じて提出させました。ノートの内容は
・本文及び現代語訳の書写
・Googleスライドで示した背景知識
です。
また、淡々とノートを作るだけではつまらないので、第八段まで読んだ段階で「好きな段を一つ選び、その絵を描いて投稿せよ」という課題を出したり、ちょうどそのころ発刊された高樹のぶ子氏の『業平』の第一段と本文を照らし合わせて「小説化するにあたって工夫したと見られることは何か、指摘せよ」という課題を出したりしました。それらについては後日、別の投稿で紹介します。
6月以降は対面授業に移りました。ここからは4月からやってきたことをいったんリセットし、取りあえず音読をするだけです。慣れてきたら、5W1Hの確認や人物関係の整理とメモなどを指示して行わせました。並行して古典文法の学習も進めました。
3 音読
勤務校は一ヶ月に一度、考査があります。だから一ヶ月(週に授業が二回あるので、概ね8回分)を一セットとしました。
一回目の授業で一段目、二回目の授業で一段目と二段目、三回目の授業で一~三段目、と音読します。最終的には一段目~八段目までを音読することになります。
1回の授業で
・僕も一緒に読む斉読(いわゆるオーバーラッピング)
・生徒達だけで読む斉読
・新しく読んだ段の現代語訳確認
・新しく読んだ段だけ、再音読
をこなします。8回目、考査の直前ともなると八段分の音読を二周しますので、音読だけで10分ほどは時間をとられました。
ともあれこれで、平均すれば一段につき10回ほどの音読回数を、授業だけで確保できることになります。
最終的に、「『伊勢物語』を最初から最後まで10回音読した中学生」を作り上げるのが、僕の野望です。段によりばらつきはありますが、上記方法をとれば授業で達成可能です。考査にも関わりますので、実際には更に音読回数は増えると思います。
4 内容整理
先にも少し触れましたが、多少長い段では現代語訳を読みながら5W1Hを整理させました。特に「いつ」「とこで」「誰が」「誰と」「何を」を確認させると理解が進みます。第二十四段(「梓弓」の段)では特に効果的で、Q&Aを進めるごとに、展開の意外さに驚く生徒の様子を楽しめました。
第三十段を過ぎたあたりから、ルーティンとして「人物整理」を始めました。最初の音読のあと、現代語訳を読みながら人間関係を図示します。『伊勢物語』は登場人物が少ないので、訳があればすぐにできます。1分ほど自分で考えさせ、次に1分ほど隣の生徒と確認、相談をさせました。
後々長い文章を読むようになるとき、この作業方法が身についていると読解の助けになるだろうと考えました。今後もこれは続けていこうと思います。
5 まとめ
以上の授業を12月まで続けました。
学習効果を確かめる目的で、12月の考査には中三用の模試の過去問を出題しました。中高一貫校向けの、最高難度と言って良いであろう模試です。
採点は甘めにしたものの、平均点は二十点満点中の九点で、高くはありませんでした。ですが満点も含め80%以上の成績を取る生徒が全体の一割、60%以上の生徒は三割弱に達しています。彼らは普段から成績上位にいますので、ある程度試験として機能しているのだと思われます。
つまり一年後に受ける模試が試験として機能するだけの学力を身につけられた、ということは言えると思います。その模試は文章を読んで問いに答えるタイプの試験です。この試験で点数を取ることは、文法の問題集をこなすだけでは不可能だったのでは無いでしょうか。
というわけで、甚だ雑な検証ではありますが、『伊勢物語』を大量に音読してきたことは、中学生にとって有効な学習であったと判断し、今後も続けていきたいと思います。