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理系学生だけの魔境「電気通信大学」で4年間過ごした話

私は現在ITエンジニアとして働いている。どんな仕事かと言われると返答に困るが、誤解を恐れず言うと主に「プログラミング」をしている。
この仕事をするに至った経緯を何回かにわたって振り返ろうと思ったので、まずはそのスタート地点である電気通信大学に入学した話を書こうと思う。


電気通信大学とは

電気通信大学とは、東京都調布市にキャンパスを備える国立の理系単科大学だ。文系は存在せず、すべての学部が理系であり、しかもその半分が情報系とかなり尖った大学である。女子の比率も1割程度で、いわゆる「陰キャ芋大学」だ。

電気通信大学は縮めて「電通大」と呼ばれるが、企業の電通とは全く関係なく、明るさで言ったら正反対のものなので絶対に間違えないでほしい。

電気通信大学に入学した理由

当時、現役ですべての大学に落ち、途方に暮れて浪人していた私は、なんとなく「時代はITだろう」という理由だけで情報系を志望していた。また、家庭の事情で私立の大学に行くことは難しかったため、選択肢は少なかった。

東工大(現在の科学大)、横国、電通大あたりが候補に挙がったが、チャレンジで前期は東工大。後期に電通大を受けた。前期は余裕で落ちた。

無事電通大には受かったが、電通大は後期でもかなり入りやすい。というのも、後期入学者を相当な人数とっているからだ。電通大尖りすぎだろ。

キラキラ大学生活の諦め

入学式での学長の挨拶

入学式の学長の挨拶を覚えている人なんかほとんどいない。しかし、私は電通大の入学式での学長の言葉に衝撃を受けたため、今でも覚えている部分がある。

「今年は新入生約750名のうち、80名が女子生徒で、ついにこの電通大も女子率10%を超えました!すばらしい!」

私は絶句した。このあと学長は理系の女子率が増えてきているという良い話をしていたと思うが、全く耳に入ってこない。
これまで共学しか経験のなかった私は、800人近くも集まって男ばかりのこの環境が異常に思えた。

入学前はキラキラキャンパスライフを夢見ていたが、それが叶わない気配を早々に感じて震えた。

電通大のサークルの新歓

電通大はサークルも一風変わっている。もちろん普通のサークルもあるが、私が覚えているちょっと変わったサークルは以下の通りだ。

  • 工学研究会

  • 無線部

  • windowsのPCゲームを作るサークル

  • ポケモンだいすきクラブ

  • サバゲー愛好会

当時私はIT未経験だったため、難易度が優しそうな工学研究会の新歓(新入生歓迎会)に参加した。

新歓の教室に入ると、プロジェクターに映し出されたVtuberらしき女の子が司会をしていた。どうやら別室で誰かがモーションキャプチャをして撮影しているらしい。

先輩の話を一通り聞いた後、新入生は全員の前で自分の名前・学部・好きなゲームを言うことになった。
音ゲーや聞いたことないマイナーなゲームが言われる中、私の順番が回ってきた。なんとか舐められないゲームを考えたが、何も出てこなかったので、「ゼルダです…」と小さい声で言った。その瞬間、教室が静寂に包まれた。
「お、王道だね~」と司会らしきVtuberがフォローしてくれたが、いっそ殺してほしかった。

自分にはこのサークルは違うかもしれないと思い、新歓の途中で帰った。
大学でのキラキラサークル生活を諦めたが、今思うと何かしらのサークルには入ってもよかったかもしれない。

他大学のサークルの新歓

電通大でのキラキラキャンパスライフを諦めた私は、他大学のインカレサークルの新歓に行くことにした。たまたま姉が代表をしているボランティアサークルがあり、その新歓に混ぜてもらえることになった。

キラキラキャンパスライフに憧れている電通大生二人を引き連れ、いざ新歓に乗り込んだら、そこは戦場だった。
こちらの男3人に対して、女の子5人の席に案内されたが、理系単科大学の話とキラキラキャンパスライフ勢の話が全く嚙み合わない。盛り上がりも一切ないまま時間だけが過ぎた。

ふと別の席に目を向けると、大勢の前で一発ギャグをする先輩や、場をぶん回す姉がいる。

「ああ、ここも違うかもな」と思った私は、キラキラキャンパスライフを諦め、電通大生として4年間過ごすと決心した。

劣化版東工大

電通大生のコンプレックス

電通大生は「東工大」にコンプレックスを抱いている人が多い。というのも、東工大は東京にある国立の理系単科大学という共通点があり、入試レベルも電通大より上だからだ。
電通大に入学しても、仮面浪人をして翌年東工大を受ける人も少なくない。

入学して早々、とある委員会の新歓で「うちは東工大の劣化版だから」と言ってる先輩がいた。

授業中に「この大学に入ったことに満足していない人もいるだろうけど、就職のときに報われるから」と言っている教授もいた。
教授陣も学生達の東工大コンプレックスを例年感じているのだろう。

学歴コンプレックスを抱いている人が多いのは、後期入学者を多く受け入れることの弊害なのかもしれないと思う。
ちなみに私は全く気にしていない。なぜなら東工大に余裕で落ちたからだ。

体力テスト

電通大生は本当に運動をしない。少しでも体を動かしてほしいのか、意外と体育の授業も多い。

授業では中学・高校同様に体力テストも実施された。
そこで私は驚愕の光景を目の当たりにする。

1500m走で続出する8分台。運動しなさ過ぎて50m走で足が回らずに転び、再チャレンジしてまた転ぶ人。
体力テスト程度でけが人や体調不良者が続出した。
まるで、子供の運動会で頑張るお父さんたちのようだった。

私も例に漏れず、1500m走で8分近くかかり、授業後吐いた。

体力テストはA~Eの5段階で成績がつく。
私の高校は割と運動できる人が多かったので、ほとんどの人がAでD, Eは皆無。しかし、電通大はほとんどの人がDで、Eの人も少なくない。

電通大は体力テストのランキングが全国の大学でワースト2位らしい。ちなみに1位は東工大だ。ここでも一番になれないのか。

合コンしたくない大学ランキング

あるとき、掲示板サイトで「合コンしたくない大学ランキング」が話題になった。もちろん1位は東工大だ。2位は電通大で、3位に理科大がランクインしている。

ここでも劣化版東工大である。
しかしこんなことは気にしなくてよい。なぜなら、ここにランクインする大学は生涯合コンのチャンスなど回ってこないからだ。

私も合コンは幻だと思っている。

電通大での授業

きつすぎる実験

一年次の実験が大変なのは、電通大に限ったことではない。すべての理系学部に通う大学生が辛い思いをしていると思う。
しかし、電通大には過去の実験レポートを配布する神のような先輩がいた。
彼は自身を「キムワイプ」と名乗り、電通大生で彼のことを知らない人はいなかった。

なぜキムワイプがそんなことをしていたかは不明だが、一説によると「実験に費やす時間とそれに対する単位が釣り合わない」ことに疑問を持ったらしい。
つまり、純粋な善意だ。

しかし、その純粋な善意は、とある学生達によって踏みにじられる。

多くの学生はキムワイプの実験レポートを参考にして、フォーマットや言葉を変えて提出する。
しかし、ある二人の学生は、キムワイプの実験レポートを丸パクリして提出した。
もちろん教授にバレて呼び出され、相当なペナルティがあったことは言うまでもない。

ほどなくしてキムワイプの実験レポートは非公開になった。

ちなみに、キムワイプの実験レポートを丸パクリした犯人は、他大のサークルの新歓を共にした私の二人の友人である。あいつら許さん。

プログラミング

電通大はプログラミングの授業が多かった、基礎的なことや、画像を認識させてロボットを動かすといった発展的なことなど、プログラミングを扱った授業が幅広く存在した。

趣味でプログラミングをやっている人や、大学以前から触っている人は、やはり強者で、未経験だった私とは雲泥の差だった。

一度プログラミングの課題が分からな過ぎて、授業中のzoomのDMで、勇気を出して強者に質問したことがある。彼は快く答えてくれた。

彼の名前をgoogleで検索すると、高校生のときにプログラミングコンテストで優勝するような圧倒的強者だった。

彼のLINEを聞いて、それからことあるごとにプログラミングの質問をするようになった。

そんなことを繰り返しているうちに、気づいたら彼から返信が来なくなった。どうやら調子に乗りすぎたようだ。5年経った今でも返信はない。彼は元気にしてるかな。

コロナ禍でのリモート授業

二年次に上がる時期にコロナ禍となり、すべての授業がリモートになった。

世間の大学生は絶望していたが、キラキラキャンパスライフを諦めている私にとって、リモート授業はむしろありがたかった。

自宅から調布のキャンパスまで、片道一時間半かかる。
私は電車での通勤・通学が大の苦手だ。電車に乗らないように人生の選択をしていると言っても過言ではない。
実際、高校も自転車通学で、東工大を志望したのも、正直自転車でいけるからだ。もちろん今の仕事も完全リモートで、電車とは無縁の生活をしている。

そんな人間にとって、調布までの片道一時間半は地獄の日々だった。
そこで、思いがけないリモート授業の開始。キラキラキャンパスライフを送れていない自分からしたら、家で授業を受けることに何の抵抗もない。

当時リモート授業に歓喜していたが、今思うとキラキラキャンパスライフ勢への妬み僻み嫉みからくる喜びも多少あった気もする。汚い人間である。

文系科目

電通大では文系の科目を選択で受けることができる。私は美術史と倫理学を受けた。正直言うと、この授業が大学4年間で一番面白かった。
どう面白かったか書きたい気持ちはあるが、相当長くなりそうなので割愛する。

美術史と倫理学は本当に面白く、これまで歴史や公民に一切興味を持っていなかった自分を恨んだし、これを学問としてできる文系が羨ましくてしょうがなく思えた。

しかし、電通大でこの授業を受けられたのだから、良しとしよう。
これらの授業を受けたことで歴史や公民に興味を持ち、今でもその類の本をよく読む。おかげで私の人生はとても楽しい。興味を持つような授業をしてくれた教授に感謝しかない。

老後は哲学や倫理学系の大学院に行くことも密かに計画している。

研究室

研究室配属

四年次に上がる前に研究室の配属がある。私はセキュリティを取り扱う研究室に配属された。

初めて研究室に行ったときのことは今でも覚えている。

教授に挨拶をし、教授と雑談しているとふと違和感を感じた。おかしい。教授と目が合わない。というか私のへそを見て話している。
直視できないほど私の顔に何かついてるのかと思ったが、トイレの鏡で確認しても特にそのようなものはついていなかった。

もしかするとへそと会話するタイプの教授だったのかもしれない。

卒業研究

理系は卒業するために、何か研究して論文を書く「卒業研究」が必要だ。
卒業研究は大変だと思われているが、案外そうでもなかった。

研究室からはリモートが推奨され、進捗報告会も二週間に一回程度だった。
生物系や化学系の人からしたら信じられないと思う。

当時、私はインターンやホストをやっていたので、ホスト終業後の始発までの時間で論文を読み漁っていた。それでもなんとかなるくらいのレベルだ。

しかし、さすがに卒業研究の発表前は大変で、これまでやっていなかった分を取り返す勢いで一日中研究と向き合う日が二カ月ほど続いた。

卒究発表本番は台本を用意したが、緊張しすぎて台本の同じ行を三回読んだ。もちろん教授の質問にも答えられなかった。

それでも無事卒業できた。

結局、研究室には最初の挨拶と卒業後の片付けでしか足を運んでいない。

さいごに

私は大学院に行かず、学部で卒業した。
大学院を経験していない「似非理系」だが、学部の4年間でも多くの経験ができたと思う。

キラキラキャンパスライフを送ることはできなかったが、幅広い知識やプログラミングの技術を身に着けることでき、歴史などの趣味も増えた。結果として、電気通信大学に入学したことはとても良かったと思う。

キラキラキャンパスライフを送りたい人には勧められないが、電気通信大学は、受験の入りやすさにしては相当コスパが良い大学だと思う。

理系志望の学生、特に情報系の学部を考えている人は、ぜひ電気通信大学を選択肢に入れてほしい。

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