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【無料】趣味欄に悩む人へ

 「趣味はなんですか?」という質問は、有名人ではない僕でも、たまに聞かれる質問だ。自己紹介をするときだけでなく、SNSのプロフィールにある趣味欄、履歴書にも好きなことや趣味を記入する箇所がある。そういう機会に遭遇するたびに、自分が好きなものは何か、自分の趣味はなんだろうと思い悩む人もいるだろう。
 趣味の記入欄があるとき、僕は「読書」と書くようにしている。実際に、本は毎日のように読んでいて、一週間に約2冊は読むので、月8冊としたら年間で約100冊ほど読んでいることになる。ほとんどがノンフィクション(哲学、歴史、伝記、インタビュー集)に集中している。雑誌を購入することはほとんどなく、iPadの有料アプリで雑誌を眺めている。
 毎日のように活字を見るので、趣味という実感が湧かないが、周囲が納得してくれるのでそういうことにしている。スマホを持っているのが当たり前の現代で、「スマホを操作するのが趣味です」と宣言するのに似ている。慣れ親しんだ行為なので、わざわざ趣味として言うには違和感がある。

 世間では、同じ趣味を持っていることが相手に好印象を与えるらしい。趣味が同じということは、好みや嗜好が似ていて、価値観も近いと考える人が多いらしい。ただ、読書の場合は同じ趣味のようで、全く異なる場合がある。これは読書というカテゴリーの広さに原因がある。
 「私も本を読むのが好きです」という話になったとき、相手が「本」で意味しているのは、小説、マンガ、ライトノベルのようなフィクション作品であることがほとんだ。読書という趣味は、フィクションとノンフィクションという全く異なるものを、「読書」という言葉で1つに括っているので、「読書」という言葉だけで、お互いに共通の趣味を持っているといえるのか怪しくなってくる。
 さらに、小説が好きな人は、お気に入りの小説家というものが決まっている。そのため、共通の趣味が本を読むことだとわかると「好きな作家は誰か?」という話になる。僕にはお気に入りの作家はいない。そのときに抱いている疑問や問題を解消するために本を手に取るので、作家よりも本の内容で購入を決める。そのため、特定の作家だけ買い集めることはない。その結果、「好きな作家は誰か?」と聞かれると返事に窮する。そもそも、書き手のことを作家と呼ぶのは、小説好きの証だ。僕は、書き手のことを作家とはいわずに著者という。

 たとえ同じ作家が好きだとしても、同じ作家のどの作品が好きかで好みが分かれる。さらに言えば、同じ作品が好きでも作品の捉え方が違ったり、好きなキャラクターや好みの場面が異なったりする。そのため、お互いの共通の趣味を確認しようとすればするほど、お互いの相違点が浮き彫りになるという矛盾に陥る。
 ぴたっと合致するお互いの趣味がもしあれば、それは奇跡だと思ってよいだろう。そのため、共通の趣味を頼りにして、相手と仲良くなろうとするのはほどほどにしたほうがいい。好きなものを共有しようとすればするほど、ズレが大きく見えるので、ざっくりとしたゆるい共通点で留めておくのが懸命だといえる。

 むしろ、あなたの趣味がどんなにありきたりなものであっても、その趣味はあなただけの趣味と思ってよい。まったく同じ趣味を抱いている人が、それほど多くはいないということは、あなたの唯一性を示していると捉えることができるからだ。
 「自分の好きなことは何だろう」「自分が他の人と違うところはなんだろう」と悩み人がいれば、人と異なることをしようと周囲を見渡すよりも、いま自分が好きでやっていることをより深めていけばいい。好きなことに時間をかけて突き詰めるほどに、新しい疑問や関心が湧いてきて、趣味といえるものに成長している。疲れた時にふと周囲を見渡すと、自分の好きなことが唯一無二の趣味となっているかもしれない。

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