オレは女が嫌いだが 7
朱里に促されて店内に入ったのはよかったが、席についておしぼりをもらうと自分の情けなさがぶり返してきた。
うつむいて、おしぼりを握りしめることしか出来ずにいると、朱里の顔が耳元に近づいた。そして吐息が耳にかかった。
オレは瞬時に朱里から距離をとった。そうか、コイツとサシで飲むってことは隣り合って飲むってことか。
「林田有希、26歳。彼氏は大手飲料メーカー勤務。結婚の話は出ているものの、彼氏に対して不満があるらしい。そこで近場のちょっと顔のキレイな男にちょっかい出した……ちゅうことらしいな」
「は?」
目が点になるとはこのことだ、コイツは、朱里は何を言っている?
「あれ? 言うてなかったっけ? 私の本職。そのあれを使えばこれくらいお茶の子さいさいや」
「え? え?」
「大和田朱里、探偵や」
ものすごいキメ顔で、ものすごい信じられないことを言われた。このアロハシャツの女がなんて? 探偵? 探偵?!
「えっと……。どう工作に出る? なんぼでも出来るで。男に不満持ってるなら男をぶつけるのが常套やわな。どうやら夜の街に出歩いとるようやし、この女。素人に見せかけて玄人をぶつけて、証拠写真ねつ造して……」
「ちょっと待て!! どういうことだ?!」
朱里はこちらをきょとんと見る。
「ん? 私なんかおかしいこと言うた?」
「言った、言った。なんだ工作って? 素人とか玄人とか、証拠写真ねつ造とか!!」
はんっ、と朱里が鼻で笑う。
「アンタな、お人好しも大概にしいや。アンタ、こけにされてんで。やられたら、やり返さなアカン。鬼の手でも、悪魔の首でも使えるもん使い」
「いや、でも……!」
「なんや? なんか文句あんのか? 今日かて営業日や。どこぞの主婦の浮気現場の張り込みを助手に任せて、アンタのために指をつりそうになりながら調べたんや。感謝されど、文句言われる筋合いはない」
オレは奥歯を噛んだ。コイツは、オレと同じ文脈で生きていない。というか、調べたってどうやって?
純粋な疑問は朱里がスマートフォンをこちらに見せたことで解決した。Facebookだ。林田さんの周辺の友達にリサーチをかけたのだ。だが、一体どうやって聞き出したんだ……?
「あの手、この手、奥の手言うてな、なんぼでもやりようあんねん。教えへんけどな」
仕舞いにはふふん~、と鼻歌を歌い始める始末で。オレは自分の悩みなぞどこへやら、新たな大きな悩みの種に頭を抱えたのだった。
続く
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