マガジンのカバー画像

逢坂志紀掌編集

50
筆者、逢坂志紀の掌編、短編集。
運営しているクリエイター

2018年6月の記事一覧

百年の孤独

百年の孤独

生ぬるい風が、吹き込んできた。

その日初めて店のドアが開いたのは、開店時間を五分ほど過ぎたころだった。
初めての客はまたしても彼だった。決まって月末の金曜日に店に訪れる中年の男だ。
中年と言っても、うだつの上がらない腹の出た情けない男を想像してはいけない。巷で流行りのナイスミドル、とでも言おうか、理想的な年齢の重ね方をした男と言う印象を私は持っていた。

「百年の孤独を、ロックで」

ざらついた

もっとみる
私は今日もあなたの好きだった歌を歌う                  逢坂 小太郎

私は今日もあなたの好きだった歌を歌う                  逢坂 小太郎

金曜日の帰り道、私はいつかのバーへと足を向けた。ここに来るのは何年ぶりだろう? まだ彼と付き合っていた頃だから三年ほど前になるはずだ。
 最近自宅は居心地が悪い。私は二十八歳になっても東京の東の端の実家から都心の勤め先に通っている。年齢が年齢なので母に結婚はまだかだの、孫の顔が見たいだのとプレッシャーをかけられている。
 平日は私が遅く帰るので余りそういう話にならない。
 問題は休日だ。一日中寝て

もっとみる