文化が中断した新しい土地で、新しい地Sakeの文化をつくる【haccobaインタビュー】
こんにちは!小杉湯番頭のジェット石田です!
9/10~12、小杉湯では今月も、チームふくしまプライド。とのコラボ風呂を開催します!
その際に、福島県南相馬市で自由な酒造りをしている酒蔵・haccobaのスパイスと酒かすをお風呂に入れます。そこで、haccobaとはどんな酒蔵なのか、どういう思いでクラフト日本酒を造っているのかを、代表の佐藤太亮さんにインタビューをしました。小杉湯番頭のジェット石田、むとちゃん、やっちゃんで伺いました。
↑福島のhaccobaさんにはzoomでのインタビューを決行しました!
この記事では、haccobaの作るお酒や生産者さんの魅力について書いていこうと思います!
チームふくしまプライド。コラボについて
まずは、チームふくしまプライド。と小杉湯との関わりについて、手短に説明させてください。
小杉湯ではほぼ毎月、福島の生産者さんを応援する団体・チームふくしまプライド。とのコラボ風呂を開催し、福島の食の魅力を発信しています。
本当に長い付き合いになるので、今年7月に一度、小杉湯の大学生アルバイトがみんなでこれからお世話になる福島の農家さんに一度会いに行きました。挨拶周りの様子は以下の3つの記事にまとめています。よかったら見てください!
前回のふくしまプライドとのコラボ風呂では、糖度日本一の桃農家・古山果樹園の桃の葉や耕作放棄地問題に向き合うエガワコントラクターのアスパラガスをお風呂に入れました。
番台前では、そんな古山果樹園のとろももやこちらも桃農家であるABEFruitsのネクタリンやドライフルーツ、エガワコントラクターのアスパラガスも販売しました!お盆の贅沢として、たくさんの人が福島の夏の味覚を、家に持ち帰りました。
今月もまた、チームふくしまプライド。のコラボ風呂を実施します!今回取り上げる福島の生産者さんは二人います。なみえファームの和泉さん。震災後、浪江市移住者第一号にして浪江市の農業を盛り上げている方です。そして南相馬市に移住し、新しい「Sake」を製造するhaccobaの佐藤さんです。お風呂にはエゴマの葉と、haccobaの酒かすとスパイスを入れます。
↑こちらがなみえファームの和泉さん
↑真ん中の黒い服の男性がhaccoba代表・佐藤さん
そして番台前では、haccobaさんの、紅茶とスパイスと一緒に発酵させた新感覚どぶろく・CHAI doburokuを販売する予定です。さらに福島の桃も好評だったので販売する予定です!
また、小杉湯の軒下では、haccobaの方が実際に来てくださり、CHAI doburokuを手軽に味わってもらえるように、グラスに注ぎ、軒下アレンジを加えて販売する予定です!
日々のルーティーンでは会えないお酒を、味わってはみませんか?
新しいSake
今まで私は小杉湯の者として、新しいSakeとか、チャイどぶろぐとか、平気な顔で説明してきました。しかし、ここまで読んでくれた人ははてなマークが沢山思いついたのではないでしょうか?
「新しいSakeって何?」「CHAI doburokuって何?」「そもそもどぶろくって何?」「普通の日本酒とどう違うの?」………etc
これからこのhaccobaの全貌について、インタビューの内容も踏まえながらお伝えしていきたいと思います!
クラフトビールやクラフトコーラという言葉は聞いたことがあると思います。小杉湯でもつい先週、第2回のクラフトコーラフェスを開催しましたし、相当クラフト飲み物界隈は熱い分野になっています。クラフトコーラもクラフトビールも、普通入っていないようなスパイスや柑橘を混ぜたりして、メーカーごとに違う味わいになっています。
しかし、ビールやコーラに比べ、日本酒を新しく造る動きはまだまだ未開拓の分野になっていて、日本ではhaccobaを含めて4蔵でしか製造されていません。佐藤さん曰く、ビールやコーラに比べ日本酒は制度上、新規参入が難しい業界になっているといいます。基本的には既存の酒蔵で働くか、買収するかしか、いわゆる日本酒の代表格である「清酒」を作る方法はありませんでした。
佐藤さんは自分の酒蔵で日本酒を造りたかったので、清酒ではなく「その他醸造酒」という免許区分でお酒を造ることにしました。「その他醸造酒」というのは、ビールでも日本酒でもワインでもない、名前がつけられないジャンルのお酒につけられる免許区分のことです。途中まで日本酒を造っても、米や麹以外のものを入れたら日本酒という区分をはずれ、名無しのお酒というようになります。正規の日本酒・清酒は作れないけど、日本酒っぽい新しいお酒を造ることは制度上可能なことだったのです。
「僕たちの持っている『その他醸造酒』は、逆にすごい面白いなと思った。ジャンルが分からないけどめちゃくちゃ旨いお酒が出てくると、(日本酒でもビールでもない)新しいジャンルとして受け入れられるようになるんじゃないか。だったら挑戦したいなと思った」
先ほど書いた通り、新規参入で日本酒造りに取り組んでいる店舗は現在4蔵しかありませんが、どれも「その他醸造酒」という免許区分で作っている日本酒で、自分たちで新しいジャンルの酒を造っています。
「名前のないお酒なので、ジャンルとしてムーブメントを作っていかないと」
都会のビジネスマンが日本酒を造る理由
佐藤さんも最初は、造り手に憧れる飲み手でした。
大学生時代、佐藤さんは石川県の能登半島でまちづくりを行っている会社に住み込み、インターンをしていました。石川県ではお酒に限らず、何かを醸造・発酵する醤油メーカーや味噌蔵が、地域の文化を担っていました。酒蔵で働く人々に出会い、酒を造る人たちを実際に見て、酒造りはかっこいい仕事だ、と佐藤さんは思いました。
しかし佐藤さんはすぐに酒蔵で働くということはしませんでした。新卒で楽天に入社し、Wantedlyというビジネス系SNSサービス会社に転職するといった、都会のビジネスマンとしてのキャリアを歩みます。ですが、やっぱり酒造りへの思いを捨てきれず、仕事を辞め、新潟県の阿部酒造に酒造りを学びに行きました。
「お酒っていうのはいろんなものづくりがある中で、人間が作るわけではなく、菌たちが作るというのがあるので、二度と同じような作品は作れない。一回飲まれてしまったら跡形もなくなくなってしまう。すごく刹那的なものづくりで、一生価値が残るものとはちがうものづくりである。僕はそこに美しさや魅力を感じていて。(酒蔵を営む人は)刹那的なものづくりをしていて、それを(未来の世代に)繋いでいるといった生き様を見ていて、すごく美しいし、かっこいいと思った」
そして、「その他醸造酒」の免許を取得し、新しいSakeを作るマイクロブルワリーとして、佐藤さんはhaccobaを立ち上げたのです。
「新規参入する難しさは分かっていた気がして、(新規参入ゆえに)大変だったなということはない。逆に楽しさはあって。新しいジャンルで酒を造ることをやっているので、人がお酒を飲むシーンをゼロベースから想像して、パッケージやデザインとかなんのしがらみもなく、自分たちが届けたいお酒の体験を、表現したいことをやれるのは良いと思う」
「その他醸造酒」を楽しむhaccobaの酒造り
酒造りはとても楽しいことだと、佐藤さんは言います。
「自分たちもお酒を単純に作っているだけでも楽しいんですけど、いろんなクリエイターやアーティストとコラボして(普段とは)別のお酒を楽しんでもらえるようにも心がけている」
例えば、今月小杉湯で売られる予定のチャイどぶろぐは、チャイアーティストのなわチャイさんとコラボして造ったお酒です。
名和 靖高|なわチャイ☕︎.
チャイで"ホッと一息つける瞬間や空間を"創り出すアーティスト。高校卒業後、半年間のインド生活を経てチャイの名店Chai breakに所属、茶葉やスパイスに関する知見を深める。
2020年より個人で活動を開始、ワークショップやPOP UP形式での出店のほか、スパイスを用いたレシピの開発やディレクションを手がける。
2021年に愛知県に拠点を移し、現在は茶葉やスパイスの収集、調合を行いプロダクトアウトまでの過程を一貫する取り組みを始める。
https://twitter.com/_nawachai
haccobaはお酒を造るブルワリーとお酒を味わうパブが併設されている空間で、そこではスパイスカレーを味わうことが出来ます。7月に学生企画チームBUKUBUKUが伺った際もこのスパイスカレーを味わったのですが、コク深く、味わい深いカレーです、南相馬に行ったときは是非食べてください!
このスパイスカレーに合う、スパイスカレーからインスピレーションをもらったお酒を造りたいと思い、佐藤さんはチャイアーティストのなわちゃいさんに声をかけ、チャイどぶろぐを共同開発しました。
「(造りたいお酒は)ミルクティーにスパイスが加わっているようなお酒なんですけど。僕たちはミルクを入れずにチャイを表現できないかなと考えていて。ミルクの甘みとか、シルキーな舌触りとか、どぶろぐという日本酒で表現して作っています。どぶろぐというお酒を発酵させながら、その途中で紅茶とスパイスを一緒に発酵させています。」
「普通にチャイなので普段はお酒として冷たく呑んでいるのを、ホットで呑むといったシンプルなアレンジから、バニラアイスにかけてシナモンを追加するといったアレンジまで、いろんなアレンジを味わえるお酒です!スパイス好きな人は買わない理由はないんじゃないかと思います!」
南相馬に酒蔵を作ったのは、原発で中断された土地だから
↑7月に福島の浪江町に行ったときに撮影した写真。
都会のビジネスマン生活を辞め、新しい日本酒造りを楽しみ続ける佐藤さん。原発の被害を受け、住民が減った南相馬市の小高地区は、新しい日本酒文化を芽生えさせるのにはぴったりな土地だと考えました。
「地域の文化を作っていきたい、というのはある。特に(南相馬の小高は)生活や文化が途絶えてしまったから、ここの文化はどういうものなのだろうと思考したい。(haccobaを)小高の文化を一緒に作っていく拠点にしたい」
コミュニティが消失してしまった南相馬の小高地区。酒場には、地域問題やコミュニティに関心がある人だけではなく、ただお酒を飲みたいだけの人もやってくる。酒場から文化について、移住者も地元の人も一緒に考えるスペースにしていきたいといいます。
一方、社会課題について触れるきっかけにしていきたいとも、佐藤さんは考えています。
「僕たちのお酒のファンになって好きで飲んでくれると、自然とお酒の生産地って必ず書いてあるので、人によっては『このお酒は飲んでもいいのだか、飲んじゃだめじゃないか』と放射線が云々とかいう人もいる。その引っかかりがすごいいいなと思っていて。飲みたいけど飲んでいいんだっけってなると、福島の汚染の状況を調べるようになって、今の福島や原発の状態とか情報のアップデートを自然とするようになっているので、(原発問題を)考えるきっかけとしてはすごくいいなと思っている」
「福島って特に調べないで『食べない』という判断をしている判断していることもある。知らないから怖いし、買わない人もいるのかなと思っていて。知らないというよりは知ってから白黒判断するというフェーズに持っていく。大きな事故があったのでちゃんと無視させたくない。無視せずに日本人としてしっかりみんなで考えたいと思っているという感じですかね」
お酒を造るのって、こんなにも楽しいんだ
最後に私たちは佐藤さんがどういう野望を抱いているのかを聞いてみました。
「僕らが描いている世界観でいうと、酒は飲む以外に造る楽しさがあることを知ってもらいたい。日本ぐらいなんですよ。酒を作るのに免許がいるのは。海外ではほとんどないんですよ。醸造酒をつくるのに免許がいる国は。日本も本当は免許制になる前まではやっていた。酒の作り手がめちゃくちゃ増えて、味噌やお漬物みたいに家庭ごとの味が当たり前に出てくるような世の中になったらすごくいいな」
↑昔は農家さんなど自分の家で米をどぶろくにしたりすることもあったそうです。
そして佐藤さんは、さらに勢いがついてこうも付け足します。
「(飲み手のほうに対して)造りがあまりにも遠くになりすぎちゃっていて。それが文化的にもったいないと思っていて。その面白さを体感できるような動きは作っていければと思います」
つくりたいに素直になれるか
ここまでの話を聞いて私は、佐藤さんはお酒造りというよりも、文化づくりが好きなのかなと感じさせられました。仲間と一緒に「その他醸造酒」に名前を付けてみたり、新しい商品を新しい仲間と本気になって開発したり、地域の文化を考えたり。たくさんのことを楽しそうに考えていて、佐藤さんが憧れていた酒蔵に生きる人の美学、刹那的な文化を継承していく儚さや美しさを実行できているように思えました。
私は4年の秋に差し掛かっても就職活動中ですが、何かしらの文化をつくりたい、そういう野望を持てるような大人になっていきたいです。
(取材・文:ジェット石田)
参考リンク
・haccobaホームページ
・なみえファームホームページ
・佐藤さんが「その他の醸造酒製造免許」を取得した際のお話
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