『私が選ぶ国書刊行会の3冊』
国書刊行会創業50周年記念小冊子『私が選ぶ国書刊行会の3冊』に寄稿いたしました。錚々たる顔触れの選者の一人として加えて頂き光栄です。創業40周年の記念冊子を手にしていた時は(あれから10年…!)まさかこんな日が来るとは思ってもいませんでした。
私が選書したのは
・『山尾悠子作品集成』山尾悠子
・『腐爛の華』ジョリス=カルル・ユイスマンス 田辺貞之助訳(新装版)
・『ネクロフィリア』ガブリエル・ヴィットコップ 野呂康、安井亜希子訳
以上の三冊です。
この三冊については是非『私が選ぶ国書刊行会の3冊』を入手して読まれてください。この冊子は、全国書店で展開される国書刊行会記念フェアで入手できます。
【創業50周年記念ウェブサイト】はこちら☟
フェアの最新情報も掲載、ぜひ御覧ください。
ここからは、小冊子に入りきらなかったこぼれ話など。
このお話を戴いて、家中の国書刊行会の本を引っ張り出し、どの三冊に絞ろうかと頭を悩ませていました。
まずはなんと言っても『山尾悠子作品集成』、他の人と被ろうがこれだけは外せない。そして『ラピスラズリ』『歪み真珠』『夢の遠近法』、近刊の『山の人魚と虚ろの王』も外せない…と三冊全て山尾さんの本で埋まる勢いだったので、それはいくらなんでも不味かろうと一旦リセットしました。
最近の刊行物からも選書したいものがあるのですが、若い時分に憧れの出版社として一冊一冊どきどきしながら手に入れた、そんな思い出深い本の中から選ぶことにしました。
『腐爛の華』はまず、1972年に薔薇十字社から刊行されました。私が手にしたのは国書刊行会・新装版でしたが、それ以前に、国書の礒崎純一氏が入社直後に立てた『フランス世紀末叢書』シリーズの一冊として刊行されていたそうです。時代を経て、何度も出版してくださったおかげでこの本に出会うことができました。
後日談のような第十六章の中に、「教会のミサへ来た孤児の少女たちのひとりのうちに、彼女(聖女・リドヴィナ)を自分の眼ではっきり見たような気がしてならない」とユイスマンスが語るくだりがあります。リドヴィナの伝記として描かれながら、ユイスマンスの頽廃と悪趣味と信仰を掘り下げ見つめていく道程を共に追う様な物語だと感じました。
続く『ネクロフィリア』は屍体愛好者による死姦の記録、日記形式の物語です。山尾悠子さんの幻想と対照的に、あとの二冊は身体/ボディの変容への興味が強く現れたものを選びました。
以下は、悩みつつも選書から漏れた刊行物です。
・『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』
・『フィリアー今道子』
・『膠を旅する』
意外に美術系の書籍が多く、お世話になっています。
他に見返していて「これも国書刊行会だったんだ」というものでは、『シュヴァンクマイエルの博物館』がありました。
『評伝ハンス・ベルメール』は、さすがにもうベルメールについて知らない事はないだろう、と読み進めていました。ラストに、ベルメールが自身の作品のドキュメンタリー映画を見て涙するエピソードが描かれています。ウニカの死後、不遇の晩年を過ごしたとされるベルメールに、彼の業績が認められたと彼自身が感じ入る機会が設けられていたのを知り、なんだかほっとしました。極東の地で、貴方に影響された文化が息づいていますよ、とも伝えたいです。
小冊子を片手に、他の選者の方々の選んだラインナップを見ながら、さらなる国書税を納めようとしています(笑)。次に読む本を探すのが楽しいです。