カニが１番好き
前回のもぐもぐ日記～朝食編～で「僕が皆さんの入浴介助します」と冗談で言ったところ、誰とは言いませんが本気で皆さんの入浴介助をしようとする不届き者が現れましたので注意してください。
こんにちは、友人関係を解消しようか迷っているコッシーです。
#セクハラですよねずみさん
さて、先日施設のお昼ご飯で『カニ雑炊』を提供しました。
「カニ雑炊って言ってもアレでしょ。かにかまが入ってるだけのなんちゃってカニ雑炊でしょ」
と思ったそこのあなた。もし僕が今あなたの側にいたら折り畳みイスにしているところでしたよ。運が良かったですね。
#折り畳みイスとは
ちゃんと、カニ身がぎっしり詰まった高級カニ缶を使用していますので、そこはなんちゃってカニ雑炊ではありませんので安心してください。
カニ雑炊ですが、実は毎年この時期に提供している恒例メニューなんです。うちの施設に入居されて長い方などは、このカニ雑炊を心待ちにしている方もいます。
そもそもなぜカニ雑炊がうちの施設の恒例メニューになったのかというと、ある一人の入居者の何気ない一言がきっかけでした。
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今から４年ほど前のこと。
僕は食堂で入居者たちと一緒に昼食を食べていました。その時僕のテーブルで一緒に食事をしていたのがSさんという要介護５の入居者でした。要介護５と言えば最も重い介護認定になり、Sさんはいわゆる重度の要介護者でした。実際にSさんにはたくさんの支援が必要でした。排泄介助や移動介助そして入浴介助など日常生活のあらゆる場面で介助を行っていました。食事介助も行っており、その日も僕の側でスタッフに介助をされながらSさんは黙々と食事をされていました。
何気なくBGM代わりに流していたTVに目をやるとそこには立派なタラバガニが映っていました。カニを見た僕は特に意味もなく「Sさん、カニって好き？」と口に出していました。
Sさんは話が全くできないわけではありませんでしたが、重度の認知症も患っていたため会話がスムーズにできませんでした。こちらの声掛けに対して全く関係ない受け答えをすることが日常茶飯事でした。
その時の僕もSさんから何かしらの返答を期待して尋ねたのではなく、なんとなく目に映ったカニを見て、なんとなく「カニって好き？」と呟いただけでした。
ただ、僕の耳には思いもよらないSさんからの答えが聞こえてきたのです。
「私はカニが１番好きです」
その声に僕の箸を持つ手が止まりました。食事介助をしているスタッフの動きもピタリと止まります。
「……え？Ｓさん、今カニ好きって言った？」
「はい。私はカニが１番好きです」
Sさんと会話のキャッチボールが出来た事に僕は興奮して身体が熱くなりました。
「そっか……そっか、そっか！Sさんはカニが好きなんだね！みんな、Sさんはカニが大好きなんだってー！」
食事中にも関わらず僕は大きな声で周囲に呼び掛けていました。けれどそれくらい僕にとっては嬉しい出来事だったのです。そしてそれは僕だけではなく現場にいたスタッフも同じ気持ちでした。「すごい！」「嬉しい！」とみんな口々に驚きや喜びの声を上げていました。
程なくして、あるスタッフがこんなことを言いだしました。
「でもSさんにこんなことを言われたら、もうカニを出さないとダメでしょ？」
その声に周囲のスタッフや入居者が賛同します。
「そうですよ！カニ出しましょう！」「カニ食べたいです！」「カニは美味しいですよね」「私はカニが１番好きです」「カーニ！あそれ！カーニ！」
「カニ」が大合唱される中で、僕に「カニは出せません」と言える勇気はありませんでした。
「分かりましたよ！近いうちにカニを出しますよ！！」
そうみんなに豪語した僕でしたが、さすがにカニをまるごと入居者さんに出す予算はなかったため、厨房のスタッフと話し合って、高級（ここ重要）カニ缶を使ったカニ雑炊を提供することに決めました。
そして数日後に入居者たちへカニ雑炊を提供しました。高級（ここ重要）カニ缶を使用したおかげで、雑炊を口入れた瞬間、芳醇なカニ風味が広がります。普通のカニよりも美味しんじゃないかと思うくらいカニカニしていました。
#カニカニって何
入居者たちはとても喜んでくれてみんな笑顔でした。
きっかけをくれたSさんもカニ雑炊を口にしましたが、その時のSさんはもうほとんど言葉を発することはなく、カニ雑炊の感想を言うことはありませんでした。カニ雑炊を食べてから数週間後にSさんは入院先の病院で息を引き取りました。
次の年。「カニが１番好き」と言ったSさんはいませんでしたが、あの時の入居者たちの喜ぶ顔が忘れられず、またカニ雑炊を提供しました。それからカニ雑炊はこの時期の定番メニューになりました。
※その時の様子を綴った当時書いた記事がコチラ
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こんなことがあり、それから毎年この時期にカニ雑炊を提供しています。
そして今年のカニ雑炊がコチラです。
今年の雑炊も入居者たちと一緒にとても美味しくいただきました。
笑顔でカニ雑炊を食べるみんなの様子をSさんは眺めてくれているような気がします。
Sさん。
おかげ様で今年もカニ雑炊を食べました。ありがとうございます。
僕はカニ雑炊が施設の食事で１番好き、かもしれません。
それではまた。
コッシー