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小学生の卑しいラムネの夏の記憶
学生の時は毎年長い夏休みがあった。
学校の友人は嫌いではなかったが先生が嫌いだったので羽を伸ばして休める最高の期間だったことを覚えている。
大好きな夏祭り。
ただ小学生のお小遣いでは楽しみ尽くすにはお金が足りない。
そのせいか、卑しい技を身につけていた。
*
夏祭り、最高に美味しい飲みものはなんだろう。
大人になってからはキンキンに冷やした酒類を飲む人が多い。
ほろ酔い、ビール、日本酒。
とりあえず大人の夏祭りはアルコールに限る。
だが小学生は違う。
ちょっとグレてる中学生くらいになると飲んでいる人もいたが、健全な小学生はもっぱらジュースに限る。
オレンジジュース?、コーラ?、ファンタ?、ジンジャエール?
いや、小学生の、夏祭りはラムネだ。
私が小学生の頃は氷水でキンキンに冷えたクーラーボックスの中に酒と一緒にラムネが置いてあった。
まだアルコールの味を覚えていない小学生は酒に埋もれているラムネをかき分けて握りしめた少ない小銭で買って飲んでいた。
子供にとって祭りのラムネは高い。
スーパーで買うラムネの3倍くらいの金額だったと記憶している。
高いのに開栓時に溢れてしまう。
ただ純粋に一滴でも多く飲みたかった私はひたすら開栓時に上から押さえつけた。
ただただ一滴でも多くラムネを飲みたかった。
それでも溢れ出てくるラムネ。
とても悔しかった。
その後はスーパーで親にラムネを買ってもらうたびにひたすらに溢れ出ないように練習した。
ただ上から思いっきり押さえつければいいわけではない。
少しでも押さえつける中心がズレると横から溢れ出てくる。
シャワーの時に穴を半分くらい塞ぐと水圧が強くなるのと同じ。
そのうち指の腹を前の中心に当てて真上からグッと抑える力加減を覚えた。
そして翌年の夏祭り。
見事一滴も溢さずに飲めて得した気分になったと記憶している。
今考えれば溢れ出てくるラムネも夏の風流だと思い楽しめば良かった。
だが、少ないお金で買った高いラムネだからこそ一滴もこぼさす飲みたかったのだ。
*
健全な小学生だからこそ、ラムネをこぼさず開栓することに拘ったのかもしれない。
金魚すくいでポイが破れても続ける輩がいるが、いくらお金がない小学生でもダメなことだと分かっているからやらない。
むしろ大人より真剣にいかにポイが破れないか必死に考える。
その点、ラムネをこぼさず開栓することは金魚すくいでポイが破れても続ける輩と対極の位置にいる。
ラムネは食べ物ではないが、粗末にしていない。
*
毎回でなくとも、ラムネを開栓したことがある人間は絶対に一度は思ったことがある。
今日はこぼさないぞ。
小学生の時ほど心に決めてラムネを開栓する。
くだらないように見えて、とても真剣なのだ。
だが大人になって思う。
少し卑しいなと。
どうやら大人になって少し心が汚れてしまったようだ。