戦闘力5のゴミにも一寸の青春があったんだな、というお話。

中学の時は剣道部でした。
弱小校の2軍で大将という、ドラゴンボールで言うと戦闘力5のオッサンくらいな何とも悲しいポジションではありましたが。

大会はことごとく一回戦負けでしたが、さっさと敗退すれば午前中に帰れますし、悔しいなんて思ったことは一度もありません。勝った負けたよりも送迎車の中でワイワイ騒ぐ方が大事という、お手本のような弱小校でした。

そんな意識低い系剣道部でしたが、たった一回だけ、青春の思い出と言える試合をしたことがあります。

とある大会の日。いつものようにさっさと帰る方のやる気満々で会場に参じたのですが、その日はいつもと違うことが一つありました。なんと一日監督として、鍛え方がマジ鬼畜なことで有名な近所の剣道クラブの鬼コーチが2軍に付くことになったのです。

その日の大会は中々に大規模で、会場が二つの建物に分かれており、1軍と2軍が別々の建物で試合をすることになってしまったことが理由でした。本来の顧問は1軍に付きますが、すると2軍を見る人が誰もいなくなってしまうので、臨時監督として来てもらった...ということだったのです。

誰もが「呼んでねえ~~~」と思ったことでしょうが、口に出したら体を四分割されて人間竹刀にされかねないので、「来てくれてありがとうございます!」とか心にもないお礼を言ってましたけどね。

とまあそんなこんなで試合開始。その日の試合は、初戦は4チームに分かれての総当たりブロック戦、4チームの中から勝ち上がった1チームがその後のトーナメントに進む...という形式でした。

つまり3回は必ず試合をしなければならない形式。言い換えれば、鬼コーチの前で3回も醜態を晒さなければらないという地獄(負けるの前提...)。剣道って実力差が試合結果として如実に出るので、番狂わせって滅多にない競技なんですよね。

キッツいな~~~と思いつつも初戦開始。瞬く間にボコボコにされ、試合後の反省会で鬼コーチにもボコボコに怒られます。続く2戦目でも瞬く間にボコボコにされ、やっぱり反省会でもボコボコにされる。

勝てないことくらい分かっていますが、瞬殺されると流石に多少堪えます。そこに追い打ちをかけるかのような鬼コーチからの叱咤という名の怒声(剣道では自分の試合が終わった直後、コーチの前にスライディング正座してフィードバックを貰うという文化があります)。話しているのは試合の反省点なのですが、徹頭徹尾怒声なので剣道の腕もメンタルもへっぽこな2軍メンバーにはこうかばつぐんです。泣いてる奴もいたしね。

とまあ、そんなこんなでボロボロになりながらも残るは最終戦のみ。物理的にも精神的にもボコボコにされた2軍のライフはゼロよ!...と思いきや、自分を含め、心なしかチームが活気付いているような。

そう、たとえ弱小校の2軍で戦闘力5のゴミであっても、人間には自尊心というものがあるのです。ボコられにボコられた結果、これ以上情けない試合はしたくない!と、なんやかんやでハートに火が付いたわけです。

しかもこの最終戦、相手校(K中学とでもしましょう)はちょっとした因縁のある学校でした。

実はこの大会の前日に開催された別の大会でK中学とは一戦交えており、僕らの学校は惨敗していたのでした。特に僕の負けっぷりはひどく、初太刀で2本取られて瞬殺という悲惨なものでした。

おっと...、つまりこの試合、期せずして昨日のリベンジマッチということになりますね。普段の僕なら「昨日負けたし、今日も負け確~w」となっていたのでしょうが、ハートに火が付いた僕はそうは思いません。昨日の今日で雪辱を晴らすチャンスが巡ってきたと、「今日は勝つ!!!」と、ガラにもなくそんな思考に至っていたのです。

さて、ハートに火が付いたへっぽこ2軍の最終戦、いよいよスタート。前の2試合はほとんど2-0(剣道の試合は3本勝負、2本先取した方が勝ち)の惨敗だったはずなのに、今回は先鋒戦から雰囲気が違います。負けはしたものの結果は2-1と1本取れていたり、1-1で引き分けに持ち込んだりと大健闘。今日どころか、これまでの全戦績を振り返ってみてもへっぽこ2軍がこんなに点を取ったことはありませんでした。

そして肝心の大将戦、僕の戦績はというと...。

結果は引き分け。スコアは1-1でした。

実は大将戦の結果によらず負けは決まっていたのですが、もう勝ち負けはどうでもよくなっていたんだと思います。この時の僕は、ただ全力で試合に臨むことしか考えていませんでした。

この試合のことは、今でもよく覚えています。どうせなので調子に乗りますが、先制を決めたのは僕で、決めたのは出小手でした(相手の面打ちが来る瞬間にカウンターで入れる小手)。向こうが昨日勝った相手と油断していたのか、僕が謎バフで実力以上の力を発揮できていたのかはわかりませんが、とにかく気持ちよかったです。

(余談ですが、僕は背が高い方だったので、身長を活かして面を狙っていけ!とよく言われていました。しかし実は面よりも小手の方が得意で、特に格上相手の試合では小手しか取ったことがありません。僕の体格だと相手は面を警戒するので、小手だと結果的に裏をかく形になっていたのかもしれませんね。なんとも小賢しい...笑)

結局その後に面を決められ、結果は上述の通り引き分けとなったのですが、昨日の瞬殺を考えれば大大大健闘と言ってもイイでしょう。ついでにチームとしてはもちろん(笑)負けだったのですが、チームメイト全員がどことなく清々しい顔をしていましたね。

そうそう、この最終戦だけは、負けはしたものの鬼コーチは怒鳴りはせず、純粋に試合の反省点だけを教えてくれました。実はこの鬼コーチ、めちゃめちゃ怖いけど指導者としては非常に優秀なことで知られていて(実際この人がやってる剣道クラブは県内トップクラス)、この大会を通してその所以が分かった気がしました。この人は試合の結果ではなく、試合に臨む僕らの姿勢に怒っていたんだな...と。

以上が、僕の部活の思い出ですかね。同じ弱小校でも、全国を目指すスポ根マンガなんかと比べるととっっっってつもなく小さくてしょぼくれた青春ですけど、こうして思い出すだけでちょっといい気分になれるような、そんなお話でした。

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