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ホラー小説の読書感想『近畿地方のある場所について』背筋
こんにちは。
今回から、ホラー小説の読書感想をご紹介させていただきます。
第一回は、背筋先生の『近畿地方のある場所について』です。
作者ご本人がいってらっしゃるように、今作は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』などのモキュメンタリー映画を参考に作られております。
ちなみに、モキュメンタリーとは、ドキュメンタリータッチの映画や小説作品、つまり取材からの実録作品のようなスタイルで、創作をおこなう手法をいいます。
あるオカルト系の雑誌編集者が、近畿地方のある場所で起きた少女失踪事件と、その後の不可解な女の子の目撃談……
近辺で起こった、ホラー系の投稿記事からはては、カルト教団の潜入取材にいたるまでが切り抜きのように描かれますが、それらはある伝承にまつわる呪われた場所を指しています。
一見、バラバラで、それぞれに意味をなさないような不可解な怪談が結び合わさったときに、全体の像をなす、ホラー作品となっております。
前半部は、ネット上の怪談記事などから入って、現地の怪談の編集部宛の手紙、カルト教団の潜入取材など、後半部にいくにつれ、事件を起こした怪異の正体が明かされていきますが、すべてが明らかになるわけではありません。
カルト教団がなぜ発足したのか?
その流れまでは本作では描かれておりません。
結末近くで、怪異の正体となる悲劇の伝承が語られ、霧のように薄ぼんやりとした事件に、怪物の影が浮かび上がるような、おぼろげな結末です。
大切な怖さについては、気持ち悪さが強かったです。
とくに、怪談に登場する、あきらくんの奇形児のような付録写真は、気持ち悪い。
怪異に操られるように、パラノイア(妄想)に翻弄される編集者は、記事作成にのめりこんだばかりに、脳を毒で侵されていったようにも見えます。
女性を狙う男のお話も多く、そこもまた、本作の気持ち悪いところですね。
記事や手紙の断片を集めた作品なので、登場人物たちが織りなす、心理劇などの要素は薄いです。
ストーリー性を犠牲にして、怪談の怖さに焦点をあてた作品でした。
……思えば、背筋先生がカクヨムのサイトに投稿された、書籍化以前から追っていた作品なので、紙の本になって、感慨深かったです。
背筋先生のことについて書かせていただくと、商業化までの戦略が非常に巧みであったことが窺えます。
ご自身を撮影されたという、ピンボケした気味の悪い写真をXのアイコンにされて、カクヨムのプロフィールでは、意味不明な写真と文章で……プロフィール自体が怪談のような作品になっております。
それ以外の情報は一切なく、そんな中から、今作を投稿され、それを角川出版が評価し、コンクールなしで書籍化にいたった(そして20万部以上のヒット作品になり、続刊もまたヒットし続けている)。
そこには、実力以上の運を味方につける、知恵を感じさせます。
決して嫉妬しているわけではありませんし、背筋先生はこれからもプロ作家として伸びていかれる存在として、注目していますが……
やはり、周囲の反応に対して敏感で、相手の心理をどうすれば動かせるのか?、といった考えに長けた作家さまなのだ、と正直感じました。
以上が、今作の感想になります。
次回作は、滝川さり先生の『ゆうずどの結末』です。
感想のリクエストなどありましたら、コメントに書いていただけると嬉しいです。
ご読了ありがとうございました。