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ホラー小説のネタバレなし読書感想『お孵り』滝川さり
展開に飽きがこない、スピーディな作品です。
参考文献にも書かれていますが、作者の滝川さりさんは、昭和初期に起きた津山三十人殺しから、今作の着想を得てらっしゃいます。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞の読者賞を受賞して書籍化された今作は、公募されるにあたって、賞のタイトルにもなった横溝正史氏の「八つ墓村」を意識されたのが伝わってきます。
過疎化した村で起きる、因習や村八分からの復讐などは、使い古されたネタですが、滝川さんはそれを、因習の不気味さや気持ち悪さ、いやらしさをふんだんに使って盛り上げています。
ジャンルとしては心霊ホラーではなく、ヒトコワのカテゴリーに入りますが、村民が使う方言が若干難しくも感じます(しかし、それによってリアリティが増しているところも大いにあります)。
滝川さりさんの作品は、「めぐみの家には、小人がいる。」もお読みして感想を書かせていただきましたが、この方が描かれる死体描写はじつに生々しくて、不気味です。
グロテスクだったり、ドッキリしたりするシーンも多くあって、そこはホラー好きか、そうでないかで好みも分かれることでしょう(わたしは前者なので、楽しめました)。
男性主人公が、序盤では頼りないのですが、後半に行くにしたがって、たくましくなっていきます。
オチの運びは、映画「死霊のしたたり」のラストを知っていると、より楽しめると思います(「死霊のしたたり」はゾンビ映画ですが、結末で主人公が選択する運命が、どことなく今作と似ていました)。
伏線も張り巡らされていて、ミステリ要素もたくさんあります。
ヒロインと主人公の馴れ初めまでの流れが、若干弱い気がしましたが、その分、村で行われる因習の不気味さが際立っていました。
主人公たちは因習が行われている村から逃れるばかりでもありません……機会を見つけて、積極的にサバイバルしていこうとする姿も見せてくれます。
バイオハザード4をプレイしたことがある人なら、村人の恐ろしさを具体的にイメージできて楽しめることでしょう。
因習=カルトが敵なので、単なる猟奇殺人鬼を相手にするよりも、厄介な敵でした。
バイオハザードと書きましたが、途中から登場する助っ人も、どことなくレオンの恋人役のエイダ・ウォンを連想させます。
やっぱり、バイオを楽しめる人だったら、今作のグロテスクな表現もわりと楽しみながら、因習ホラーを満喫できるのではないでしょうか。
滝川さりさんの作品は、「めぐみの家には、小人がいる。」もオススメです。
こちらは、学校を舞台に、モンスターペアレンツなどの要素を加えつつ、より不穏なホラー作品となっています。