2022年5月の記事一覧
#140字小説『夕陽が沈む』
堤防にあぐらをかくとコンクリートから熱が伝わってくる。
今日も一日が終わった。
言葉足らずの私は今日も一人生きて一日という命が終わるのをこうして眺めている。
夕陽が沈むあの地平線にまだ見ぬ乙女が恋に胸を焦がしているのだろうか。
そんなふとした想いも波音に消されて、夜の間に間に消えてゆく。
#140字小説『川を渡るとき』
冷たくなった朝。
それでも朝日は昇る。
よせては返す波に運ばれて魂はカロンの渡し賃を払えるのか?
地獄の沙汰も金次第という。
生前貧乏だった私はレーテの川を渡るとき、誰を思い出すのだろう。
何も生み出さずただ死んでいくだけの生。
自分は運命に対して不誠実だったのだろうか。
誰か答えて、神よ。
#140字小説『無為』
ふとした瞬間に僕はナイフを手に取りたくなる。
それは夜中にカップ麺を食べた後。
何も満足していないのに私達はいつしか満足する事を求められて生きている。
人生はいつもうえ乾いていた。
神に?
そうだったら本当に良かっただろう。
コンビニのお勤め品のように使い捨てられる性。
消えれば泡のような命。
#140字小説『怨嗟と復讐』
女は死んだ。
もう帰ってはこない。
待つのが無駄だと分かっていながら止めどない涙を流す。
それもやがて枯れてしまった。
まだ動ける内にやり遂げねば。
意を決した彼は受話器を手に取る。
温もりを喪った代価をあいつに払わせてやる。
私達の疑問は彼の最期に笑える瞬間が訪れるのか?
それだけだった。
#140字小説『朝日よ消えろ』
命の選択は押し迫っていた。
今日という日は終わりその使い道すら分からぬまま惰性で過ぎてゆく人生。
スーツを着たままシンクに嘔吐する勤め人。
もう何もかも捨てて良い。
それでも明日は来る。
絶望的な美を讃えた朝日が、明日も明後日も。
もう良い。
もう良いんだ。
片道切符の錠剤を握りしめて男は頷いた。
#140字小説『酔いどれ』
幾年幾万の星霜が流れようとも男の心を潤す欠片は見つからなかった。
今宵も酒を飲みながら人生の虚しさを独りごちる。
ああ、どうして俺はこうなんだ。
そう言いながら酒は男の心を痺れさせていく。
脳髄にまで辿り着いたエタノール。
それでもなお男の心は飢え乾き、求めてもなお、求めてもなお見つからず。