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【拡大再生産研究⑥】相手のボトルネックをどう致命的にするか?【M:tG②】
前書き
自分の作りたい拡大再生産のコンセプトを言語化するためにプレイ済みのゲームから毎回1つ取り上げて整理していきます。
(ゲームの紹介が目的ではないためルールの紹介は省いていきます。)
前回はこちら。
前回からちょっと拡大再生産自体の話では無くなってしまっていますが…。ご意見、ご感想等あればあればtwitterかコメントでお願いいたします。
前置き
第2回でゲーム側から「ボトルネック」を課題として提示しする事で
・ボトルネックを分析し、無事に拡大する事
・ボトルネックを次々に変えていき(定期的に別の課題を提示し)ゲーム中の思考が単調にならないようにする
という話をしました。
1vs1でありかつデッキを構築した上で戦うTCGにおいてはボトルネックを解消するだけに留まらない。デッキ構築や直接的なインタラクションによってボトルネックと向き合っていく
手札というボトルネック
MTGではプレーヤーにいくつかの揮発性(ターンを跨ぐと消えてしまう)の権利が与えられています。その中で手札に関わる揮発性の権利は以下の2つです
権利1: 毎ターン手札から1枚土地を出すことができる
権利2: 毎ターン土地から生み出したマナで手札のカードを使う
単純に考えれば、与えられた権利は全て使った方が強い。
しかしここで問題が発生する。権利1と権利2を両方使用するには手札が2枚必要になるが毎ターンのドローは1枚しかない。
これは大いにボトルネックになりうる。ボードゲーム(例えばトリテ)において手札は選択肢だが、TCGにおいて手札は継戦能力(スタミナ)なのだ。
計算をしてみよう
<問題>
M:tGの初期手札は7枚。あなたが先攻。私が後攻。
あなたの手札はいつなくなるであろうか?
ここで単純に考えるために、あなたは毎ターン土地と呪文を1枚ずつ使うものとする。
また、可能であれば、それを基にどういう事を考えてデッキ構築や本番のゲームプレイをするか、思い描いてくれ
(シンキングタイム)
<想定解答>
1ターン目:⇒7枚⇒5枚
2ターン目:⇒6枚⇒4枚
3ターン目:⇒5枚⇒3枚
4ターン目:⇒4枚⇒2枚
5ターン目:⇒3枚⇒1枚
6ターン目:⇒2枚⇒0枚
6ターン目に手札が0になり、7ターン目以降、(手札1枚のため)2つの権利が共に達成する事はできない事がわかる。この手札がなくなった状態は弱い。権利1:土地を置くはともかく呪文が使えないのは痛すぎる。
戦い方としては 雑に言えば以下の3つに分類できる。
アグロ(高速):
・この7ターン目までに勝っているので問題ありません。
・むしろ、5ターン目に決めるから2枚呪文を打つターンがあってもいい。
・最高マナコストを5マナ程度にして6枚目以降の土地を置くことは諦める
⇒5ターン目までの(初期手札と合わせ7+4=)11枚で勝負が決める
ミッドレンジ(≒中速):
・1ターン目等の呪文使用は諦めスタミナ温存。
・要するに使えるカード枚数は(ほぼ)同じなのだから1枚で2枚以上を退場させる
・マナを使う起動能力を持ったカードを採用し、権利②を使えない状態をカバーする
コントロール(≒低速)
・1対1交換で むしろ相手のスタミナ切れを待つ。巨大な対処の難しいクリーチャーでフィニッシュ
・隙を見てドロー呪文を打つ
まぁ、M:tGの細かいルールやカードを紹介しないで説明できる範囲ならこんな感じだと思う。
「6ターン目」これがボードゲームならこれで完全に正しい。
さて、怒らないで見てくれ
さて、あなたの答えと もういちど問題を見てみよう。
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私によって問題が書き換えられている。よって6ターンは間違えである。
…ひどいな。我ながら本当にひどい。(私にこのようなルール自体を修正する権限はないからね)ただ、もし(相手がデッキ構築をした後に無断で)同じことができたらどうだろう。
極端な話、「超低コストデッキを組んだ上で、手札を0枚というルールを急に押し付ける」という事ができれば格上にだって簡単に勝てる。
勝てるなら与えられている権利『デッキ構築』でそれを疑似的に実行するのがTCGの一側面だ。
手順1:1ターン目ピーピングハンデスで相手の再序盤の動きを止める
※ピーピングハンデス
相手の手札を見てカードを1枚捨てさせる。
手順2:3ターン目までにもう1枚(合計2枚)捨てさせる
の2つを実行すれば疑似的に先程の問題書き換えと同じ状況になる。
現実的には
①相手の混乱の中、盤面のクリーチャー戦で有利を取る
②毎ターンのドローによって少しずつ効果が薄まってくるので、そうなる前に倒しきる
をしないと嫌がらせにはなるが、結局勝てない。
ここをM:tG未経験者に説明するのは難しいので割愛する
その他のボトルネック
M:tGには他にも多くの土地がボトルネックが存在する。他にはカードのアンタップ(≒利用可能状態にする)を止めるものもある。
ただ、注意しないといけないのはあまりにも簡単にボトルネックを破壊できてしまうとあまりにゲームがワンパターンになってしまう点だ。
20年ぐらい前までのM:tGには土地の全破壊や軽量の土地破壊が猛威を振るった時代が何度かあったが、あまりにも簡単に致命的なボトルネックを作れてしまうためとある時期からこのようなデッキが組めるようなカードは無くなっていった。
デッキとして存在できるのは以下のどちらかである
・序盤から仕掛け相手の動きを悪くできるが継続性が無い
・決まれば完全に相手は動けなくなるが、そこまでもっていくのに時間がかかる
複数人戦でどう実装するか?
とここまで書いてきたが、多人数戦とこのような妨害による1個人へのボトルネック作成は正直相性が良くない部分がある。
手札破壊や土地破壊はある程度以上枚数を割いて連続使用しないと純粋な効果は出ない。そして連続使用が一定の閾値を超えた際には致命的なほどの効力を発揮する。
この特性は、対戦相手のうち1人に対していじめのような偏った攻撃をする事に合理性を与えてしまう。こうなった時にゲームが面白くない事は言うまでもない。
私が思うに最もうまくこの問題を避けて実装しているゲームの一つがドミニオンだ。1例として「泥棒」のカードを取り上げよう
<泥棒> コスト4
他のプレイヤーは全員、自分の山札の上から2枚のカードを公開する。
財宝カードを公開した場合、その中の1枚をあなたが選んで廃棄する。
あなたはここで廃棄したカードのうち好きな枚数を獲得できる。
他の公開したカードはすべて捨て札にする。
(新版になって削除されたカードを紹介するのもどうかと思うが1番単純なので 今回はようするに使うと全ての対戦相手の財宝カードを1枚捨てさせる可能性があるよ だけわかればまぁOK)
このカードは見た時TCGプレーヤーなら相手のデッキから「財宝カード」を全て無くして相手が何も購入できない(=デッキの強化も勝利点獲得もできない)状態にしてやることを思いついたはずだ。
ただ実際にこの考え方で使ってみると弱いと感じる。
理由は大きく以下の5つ
理由1 初速が遅い
・4コストのため2ターン目までに買える数は1枚
理由2 効果を発揮するだけの出力が無い
・毎ターンプレーヤーは基本的に1枚のカードを購入する
・つまり1ターンに1枚財宝カードに当てる事は工夫無く可能。
・それを上回り、デッキから財宝カードを減らすには2枚以上使わないといけない。が、+アクションがついていないため安定して2枚使えるようにするには時間がかかりすぎる
理由3 相手を利する
最初から持っている銅貨は屋敷の次に破棄したいカード。それを助けてしまっている
理由4 対処法がある
アクションカードからもコイン(カードを買うための揮発性の資源)を得られる
理由5 自分にいい事が無い
魔女や民兵はカードを引いたり2金を生み出したりするというのに
弱点を5つも羅列してしまった。正直、これを1つの理由として作者も新版でこのカードを削る事を選んだらしい。(あとテキスト長いしね)
それでも私は泥棒が割と好きだ。
このカードは強くはないが、デッキの財宝カードを致命的に破壊できる事がある。それは”2人で使う”場合だ。1人で2枚打てるようになるには時間がかかりすぎるが、2人で1枚ずつ打つことは可能な範囲である。理由の1と2は解消され、カードを1枚買う間に2枚以上捨てさせられるという事を再序盤から実現できる。理由4に当たるようなカードがその試合のランダムサプライに無ければ十分に選択肢としてありえる。
(最大)4人のプレーヤーの中で2人以上つまり半分以上がそれに加担した時にだけ弱めの全体攻撃が重なった結果として酷いボトルネックが発生する。対処法があったにもかかわらず取らなかったか対処法が無いにもかかわらず警戒しなかったプレーヤーが負けるというある程度の説得力がある結果になる
これは良い落としどころのように思える。
不幸(や幸福)は備えてきた者に味方する
ドミニオンの例から”弱めの全体攻撃=複数人数が”というのはよさそうだ。ここで考えるべきは平等に全員にかかるバフ、デバフは決して公平ではないという事だ。
例えば「お互いの土地をすべて破壊する」という効果は既に場にクリーチャーを展開した人間に味方する
今回の記事では妨害的な効果を取り上げてきたがボドゲでは良い効果をベースにする方が一般的である。自分にだけ都合がいい状態で全員に物を売る権利を発生させたりする感じである
全員商品売っていいよ。(あなたが商品持ってない事を見た上で)
今後の課題(考えたい事)
<拡大再生産 お題14>
ボードゲーマーって手札=選択肢 という認識が少なくとも発言の上ではあまりに強い気がしている。資源だから使わないと損までは言う事もある。
でもスタミナだからどう管理するか、相手のそれをどう減らすかという考えになっているのはほぼ見ない。
#ゲームデザインに関する問 64
— 古瀬和人 (@Biblio_Games) March 19, 2023
手札を選択肢ではなく継戦能力として扱い、そこを巡る攻防をさせる事はできるか?
<拡大再生産 お題15>
まぁ、破壊しきれるようにする以上、長時間ゲームはクレームが来るね。30分ぐらいまでだろう。
せっかくだからMapをうまく使いたいな。ランダムMapによっては攻撃の回避方法があるとかそういう感じ。
#ゲームデザインに関する問 65
— 古瀬和人 (@Biblio_Games) March 19, 2023
ドミニオン旧版の泥棒のような弱い全体攻撃を協力して撃つか?をゲームの核にしたい。どういうデザインが適切か。ボドゲによくある弱い全体恩恵(全員商品を売っていい。まぁ、あなたは商品を持っていないがな)とどう組み合わせるか