【ゲームデザイン】ルールは勝者や敗者に味方する。でも作者は公平でありたい
”誰か”の味方になるルールとそれを避けたい開発者
ゲーム制作中、ルールは様々な理由でゲームに採用される。
流石に全部は書ききれないが例えば下記のような思惑である。
しかし、採用されたルールの側はそんな私達の考えなんて知ったこっちゃない。ルールはあなたの採用理由通りにではなく、その”特性”の通りに動く。仮にあなたの採用理由通りの仕事をしてくれたとしても、その裏で別の特性を発揮している事はありえる。
特性にはいろいろなものがあるが、今日は「暫定的な勝者」、「暫定的な敗者」のどちらに味方するか? についてふれる
人はうまくできた時にちゃんと褒めてくれるゲームを好む。そして、逆に納得のいかない形で(あるいは納得のいかない度合いの)不利な状況を突き付けてくるゲームを嫌う。
ルールが(あるいはその集合体としてのゲームが)誰にどれくらい味方しているのか? それを把握しコントロールする事はゲーム設計における一つの技能である。
今日の記事ではルールを下記の通り、大きく3つ小さく5つに分けて考えていく。
で、5つのうちどれが良いの?
誤解の無いように先にいっておくと、この5つのうちどれが良い(どれが悪い)という事ではない。適切なバランスで適切な量を配置する事でそれぞれの持つ役割を発揮させることが重要である。
勝者に味方するルール
例えば”拡大再生産”と呼ばれるジャンルのルール達は「1-A勝者に味方する」の典型である。このジャンルのゲームでは あるターンに拡大(”アクションの強化”や”毎ターンの不労所得の追加”)を行えたものはその恩恵で次のターンにより大きな拡大が望める。
このように「1-A勝者に味方する」はプレーヤーに”何をやればいいのか?”という比較的短期的な方針を提示し(動いた方が得なため)プレーヤーが動く動機を与える。また、計画した目標を達成した暁にはプレーヤーに報酬を与える形でそれを褒めたたえてくれる。この達成感は多くのゲームから”そのゲーム”を選ぶきっかけになり得るほどのものだ。
一方で、過度な場合は勝者に退屈を””敗者”に劣等感を与える。少なくともゲーム中盤に勝敗が決してしまってはいけない。 ルールが勝者に加担しすぎると「序盤のちょっとした差(≒ミス)」がそのまま勝敗に直結してしまう。①ゲームの中盤辺りから負けが確定して試合がダレる、②ゲーム終了後の必要以上の大きな点差に敗者が絶望してしまう 等の悪い症状が起こる。
敗者に敵対するルール
”何をやってはいけないか?”ややりたいことにどんなリスクがあるか?をプレーヤーに伝えるルール。
不利な状況にある人を更に叩くこれらのルールを採用する事は良くない事が多い。
上記の「勝者に」1人が突出して有利になるのは皆で協力して抑え込めばいい。これは実装も比較的簡単だしこれを行うためのプレーヤーのゲーム理解度も大して高くない(誰がどのくらい有利かわかっていればだが。)
それに対し、1人出遅れたのを助けるのは難しい。出遅れたプレーヤーを助ける義理は(作者が作らない限り、勝利を目指す合理的な判断において)全くない。
客観的に使いどころが難しいルールであり、筆者個人の好みではできればゲームから抜きたいルールである。
ケース1)クァックサルバーの場合
「1-A勝者に味方する」のいい点を出しつつ悪い点を軽減する。それに対応している作品として「クァックサルバ―」を例にあげる。
(説明が長くなるため 動画をお借りします)
このゲームのジャンルはバッグビルドとプレイスユアラック(≒坊主めくり)。これは、カジュアル層に向けた組み合わせとしては良さそうではあ
る。
しかし、あえてネガティブな目で見てみよう。これらのゲームは勝者や敗者にどのようなふるまいをするだろう。
拡大再生産は”どのような理由であれ勝者(早いターンに基盤を作れた人)に味方する。現実世界で裕福な家庭に生まれた方が投資面で大きく有利なのと同じように序盤の少しの差はだんだんと膨れ上がる傾向にある。
拡大度合いを減らすことでこの問題の軽減を図る事は可能ではあるが、それはこのジャンルの魅力と相反する事である。自分の選択によって事態が好転しているという印象は残したい。
プレイスユアラックは直接的には勝者と敗者、どちらも応援しない。しかし、下位になったプレーヤーは挽回のために終盤無謀な賭けに挑戦せざるを得ない展開になる。
そして運の要素を楽しむジャンルであるため、その影響が強い上に見えやすい。そして十分に一喜一憂させるためには成功と失敗の差はそれなりに大きくなくてはならない。
結果、確率論的に間違った事をしたプレーヤーが偶然にも幸運を手にし先行した結果、確率道理に動くタイプの人が無謀な賭けに希望を託さなければならない事は十分にあり得る。
つまり、へたくそに作った場合
①序盤、偶然の幸運や不運で差がつきやすい
②その差を使って投資の量で差をつけ、惰性で勝ってしまいやすい
という事になりやすい
さて、どう対処しているだろうか?
①実装1 バーストしても強化は行える
バースト系のゲームはバーストすると何も得ることなくそのターン終了というゲームが大多数だ。Can'tStop、インカの黄金、チーキーモンキーや達磨集めのような(拡大再生産を含まない、純粋な)坊主めくり系のゲームのほとんどはこの形式をとっている。
クァックサルバ―では
・通常は得点と強化の両方
・バーストしても得点と強化の片方
を得る事ができる。
拡大再生産において序盤は得点より強化の方が大事という事さえプレーヤーが知っていれば拡大再生産は差を作る事は無い。
②実装2 ネズミ
雑に言えば、1位との点数差に応じて、ハンデがもらえる仕組み。
個人的には露骨すぎてあまり好きではないが、(やらなければ負けが確定するからという理由の)無謀な賭けは最終ラウンドかその一個前ぐらいにしか発生しない程度には差を埋めている。
”点数差X点につきYマス”と書かず”間のネズミのしっぽの数”という書き方にして多少露骨さを消しているのはうまいと感じる
③コンボやシナジーで終盤に出やすい上振れを作る
強化パーツであるチットの能力で気になったのは以下の通り
・出る順番を参照する能力
☞確率が低い最大の上振れを用意する事で希望は残す
☞やめどころの提示
・終盤3の数字が入ってから強くなる能力が多い
☞序盤に比べてより、終盤の得点が大きく逆転がしやすい
④拡張
このゲームは拡張も出ている。そこで行われているのは
・ネズミと似た効果をもったチットの導入
・最後のラウンドの最大得点の上限撤廃
序盤に一気に拡大をする方法等も入れられているが
まとめ
これらの工夫をすることで
・序盤に致命的な差がつかず、中盤以降からは差がついてくるが希望は持てる
・”順番まで含めた十分に確率の低い上振れ”を作り、拡大再生産の持つ魅力「自分の選択によって事態が好転した」という印象は残す
という事に成功している。
今後
今日は一旦ここまで。
次回以降、
・敗者に味方する、勝者に敵対する ルール
・得点式はどう敗者や勝者に味方するか?
あたりを書いていこうと思います。
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