
グルメエッセイを実食。〜『ロッパ食談』の「シベリヤ」〜
こんにちは。
読書と食べ歩きが好きなので食に関するエッセイをよく読みます。本に登場するグルメの中で取り寄せ、購入できるものは実際に食することも。
今回は古川緑波著『ロッパ食談』の中に出てくる「シベリヤ」を食べてみました。
「ロッパ」とは昭和のスターコメディアン、古川緑波の通称です。彼は芸人であると同時にかなりの食通でもありました。華族※1出身という経歴も手伝い、その時代にしては希少で高価な食べ物も口にしていたようです。教養もあって好奇心旺盛なロッパ氏はグルメに関するエッセイを多数残しています。本著ではロッパ氏の幼少期の思い出の食べ物から戦後の銀座界隈における最先端のグルメ事情など、興味深いエピソードが並んでいます。その中で学生時代の思い出を回想するシーンが出てきます。
※1 明治期に生まれた日本の特権的貴族層を指す。昭和22年には制度としては廃止となっている。
『僕は、早稲田中学なので、市電の早稲田終点の近くにあった、富士というミルクホールへ、ほとんど毎日、何年間か通った。
ミルクホールは、喫茶店というもののほとんど無かった頃の、その喫茶店の役目を果たした店で、その名の如く、牛乳を飲ませることに主力を注いでいたようだ。
熱い牛乳の、コップの表面に、皮が出来るーフウフウ吹きながら、官報を読む。
どういうものか、ミルクホールに、官報は附き物だった。』
この回想に出てきた牛乳のお供が「シベリヤ」です。
『ミルクホールの硝子器に入っているケーキは、シベリヤと称する、カステラの間に白い羊羹を挿んだ、三角型のもの。(黒い羊羹のもあった)』
文字読む限りだとめちゃくちゃ甘そうな組み合わせのお菓子…血糖値爆上がりしそうな。うーん…くどくないんだろうか、と。
元々は日本全国のパン屋に定番の商品として置かれれていたらしいですが、時の流れとともに販売する店が少なくなっていったとのこと。ただ、探せば現在でも売っている所はあるようです。どうせならエッセイに出てきた白羊羹のシベリヤないかな?ということで探したところ…

ありました!
家にあったそれっぽい硝子の器に入れたりして。

ついでに他の味も色々買っちゃいました!
購入したのは埼玉県さいたま市にある「関根製菓」さん。
こちらのお店では定番の黒羊羹の他に季節に合わせてヴァリエーション豊かなシベリヤを作ってるとのこと。今回購入した白羊羹ヴァージョンはミルク味の羊羹をコーヒー風味のカステラで挟んでいる「ミルクコーヒー」味です。っていうか、ラムネって…???ってことで購入!


厳密にはエッセイにあったように三角型ではないし、白羊羹といえど、味は当時ロッパ氏が食していたものとは違うんだろうなあ…と思いながらも。その辺はご愛嬌ということで。
さて、「ミルクコーヒー」味の感想です。
ミルク味の羊羹がまろっとした甘み。カステラ部分はコーヒー味でほろ苦く、バランスが取れていて美味しい。紅茶と一緒にいただきました。
一番スタンダードな「昔なつかし」味。カステラ部分も羊羹部分も安定した美味しさ。甘い×甘いで食べづらいのかな?と思ってましたが、互いの美味しさを損なわず、両方が上手く調和していて食べやすい。温かい牛乳とも合いそう。
初めて食べたのに幼い頃から食べてきたような懐かしさを感じる、お菓子。食べながら改めて『ロッパ食談』を読み返し、想像します。ミルクホールでホットミルクを飲みながら、シベリヤを食む。学生だったロッパ氏にとって勉学や読書の休憩、糖分補給としてもちょうど良かったのかな、と感じました。