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「武道、舞踊の心得」考

大学3年のとき
オペラ実習の先生から依頼され
オペラ「修禅寺物語」での
武士役に出演した時の話。

与えられた役は
敵役である金窪行親の配下で
将軍頼家を襲撃する役。

ということで、
手には薙刀や太刀を持たされた。

ところが、
いくら太刀や薙刀を持っても、
剣道の心得がなかったので
立ち方がどうにも様にならない。
頼家ににじり寄ろうとすると
もっと悲惨な事に・・・

殺陣指導の先生曰く

「剣道の心得があると
 腰が据わり、
 振るう刀にも
 相手を斬るだけの
 力が入る。」

心得のない素人が
いくら刀を振り回しても、
腰が浮いていて
刀身に力が伝わらぬため
簡単に弾かれるそうだ。

薙刀を構える場合でも
基本の足捌きは剣道と同じ。
しっかり腰を落として
上半身も安定させる。

この武道の心得のあるなしが、
客席からは一目瞭然なのだ。

へっぴり腰(及び腰)の
まるで三下やくざのような
構えしかできぬ武士は
必然的に舞台の隅のほう、
あまり目立たない場所に
追いやられることになる。

・・・そりゃそうだ、
敵役とはいえ金窪行親は
北条得宗家の重臣の一人。
その部下の兵が
刀の持ち方も知らぬ素人など
ありえぬ話だしね。

稽古の間中、
薙刀を持ち
腰を落としながら
歩く練習を続けたけど、
やはり、初段とはいえ
剣道の有段者には
かなわなかったな。
(同じ武士役の一人が
剣道初段だった)

メインキャスト達と
刀を打ち合わせる
一番おいしい場面は
剣道初段の彼のものに。
・・・ちょっと口惜しい・・・

※ ※ ※ ※ ※

もうひとつ、
今度はオペラ「蝶々夫人」に
ヤマドリ役で出演した時の話。

ヤマドリの求婚の場での
蝶々さんとシャープレスのやりとり。

ゴローと言い合っている間、
ヤマドリは扇子を手にしながら
彼らの話を聞いているのだが、
私の扇子の持ち方を見ていた
所作の先生がポロっと一言、

「その扇子、いけませんな。
 手に持たず
 帯に差したままの方が
 よろしいかと。」

やはり所作の心得がない者が
いくらカッコつけて
扇子を振り回しても
直ぐにボロが出てしまうものらしい。

・・こちらは
かなり口惜しかった・・・

※ ※ ※ ※ ※

武道や日舞、茶道など、
和の習い事や稽古事は
オペラの舞台で
意外な程に役立つことが多い。

和物オペラは勿論だが、
洋物のオペラでさえ、
武道で鍛えた腰や
日舞で鍛えた体幹は
そのまま舞台上での
美しい所作・動きに繋がる。

オペラの現場で
初めて「和の稽古」に目覚め
習い始める人も多いが、
できるならば、
若い内からやっておいて
損はないと思う。

・・・ちなみに
文化庁の助成金を
「和の稽古」費用に
充当した者もいるそうな。

公演を行ってみたり
演奏動画を作成・配信したり
そのための機材や
資料を揃えるだけが
支援対象となる取組みではない。

アーティストとしての
技能向上を目的とする
研修やレッスン受講も
立派な支援対象になり得る。

・・・その意味では
文化庁の支援事業は
「大きなチャンス」
だったと思う。

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