【漫画】「波よ聞いてくれ」の何を聞けば良いか
「波よ聞いてくれ」(沙村広明)は、札幌の街のカレー屋で働く鼓田ミナレが、ひょんなことから地元ラジオ局のディレクター麻藤に見出され、アドリブトークでリスナーを沸かせ、ラジオパーソナリティの魅力にはまっていく物語である。
タイトルからは浜辺のラジオDJを想像するが、サマーボーイズ的なサーファー路線の話は一度も出てこない。
物語の展開や設定もそこそこ面白いが、音声のみで勝負するラジオの世界を、視覚的な漫画のみで表現する部分がスリリングである。音の世界を表現する漫画はいくつかあるがこれもまたアニメ化や実写化が難しい作品だと思う(すでにアニメ化されていますが)。
音の物語を視覚化する面白さは「めまい」にある。パーソナリティの臨場感ありそうな語り口調を文字として認識し、さも聞こえてくるかのように想像力に変換する。作者の挟み込む合いの手的な登場人物同士のつっこみの秀逸さは音でも文字でも楽しめるが、文字を音として変換できるかどうかがこの漫画を楽しむための一つのハードルでもあるし、面白さの真髄でもある。
この「めまい」は遊びの本質とも読める。
「波よ聞いてくれ」は、物語中のラジオ番組タイトルだが、無論、この波とはラジオ周波のことだ。個人的にラジオは視覚的な束縛のない世界で個人的行動と共にすることのメディアとして重宝している。
ラジオの世界も制作となると多くの資金を必要とし、様々な働き手のもとで作り上げられるが、この漫画ではもっと個人的な、ハンドメイドな、鼓田ミナレありきなラジオ制作を追うことになるので、どちらかというと自宅で始めるポッドキャスト世代からの逆説的なラジオの楽しみ方を広げているようにもみえる。
ラジオに縁遠い人がいたらぜひ読んでほしい。ラジオ漫画からラジオに出会う人もいるんじゃなかろうか。それはなんだかねじれていて面白い。