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不純な動機で図書館へ
バッグの真ん中でニヤリと笑うネコ。
ひとめぼれだった。
1889年ジョン・テニエルが描いたチェシャ猫のエコバッグ。
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ルイス・キャロルは、一番最初「地下の国のアリス」という題でお気に入りの少女アリスのために手描きで挿絵つきの本を作った。
それが「不思議の国のアリス」として1865年に出版されるにあたり、挿絵をつけたのは当時漫画誌の有名イラストレーターだったジョン・テニエルだ。
今では、ディズニーのショッキングピンクのチェシャ猫も含めて、いろいろな解釈をした挿絵のバージョンが存在するけれど、やっぱりテニエルの挿絵がいちばんしっくりくる気がしてしまう。
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noteのおすすめ記事をさらさらと読んでいるなかで見かけたのだけれど、いったいどこで買えるのかがわからない。
「ねえ、もしかして、これってチェスターのお土産屋で売ってる?」
そうケビンにメッセージを送って尋ねてみたのは、ケビンがチェスターに住んでいるからだ。
チェスター(Chester)はチェシャ(Cheshire)郡の中心都市。
だから、てっきりチェシャ猫(Cheshire Cat)の故郷としてお土産屋があってもいいんじゃないかと期待したのだけれど。
「いやチェスターは中世の都市、カテドラルの街として売り込んでるし、チェシャ猫やアリスのグッズなんてちっとも売ってないよ」
返事はバッサリあっさりだった。
ふうむ。
普段だったらそのままあきらめてしまうところ。
でも、不思議のこのチェシャ猫のニンマリ顔がどうしたって脳裏に焼きついていた。
エコバッグ、アリス、猫、チェシャ猫…とさんざん検索をかけ、ようやく判明したのは、このバッグがBritish Library(大英図書館)のブックショップで売られているオリジナル製品ということだった。
British Libraryだったのか!
◇
土曜日の朝8時のヨガクラス。
冬の嵐のせいで、行くときには曇っていたというのに、終わった時にはザアザアの激しい雨だった。
教室の眼の前はバス停。
気づいたら、ダブルデッカーバスに飛び乗っていた。
ええい、このままヨガマットを持って、
大英図書館まで
いっちゃえ、いっちゃえ!
こうしてたどり着いたのはSt Pancras & Kings Cross (セントパンクラス&キングスロス)駅。
名前の通り、フランスやベルギーへ向かう国際列車が発つセントパンクラス駅と、国内列車のターミナルであるキングスクロス駅が隣り合って繋がっている。とっても大きな主要駅だ。
15年ほどロンドンに住んでいるというのに、大英図書館がこんな忙しい駅のすぐ隣にあるなんて、知らなかった。
知らないので、駅をでたときにすぐに目にはいった図書館然とした立派な建物がそれだと思った。
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ブーッ。
ハズレ。
なんと、その斜め前に密やかに建っている、むしろモダンで、正直ややセンスの悪い建物が、大英図書館だった。
目に入った瞬間には信じられなかった。
まるで寂れた市民劇場みたいでちっとも「大英」という言葉の持つ重さや古さが感じられないじゃないか。
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へえ、とガッカリしながら中に入ると、正面にドーンと、書棚が目に入った。
図書館らしい中身にちょっとホッとする。
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この巨大書棚を取り囲むように大きな吹き抜けスペースが取られていた。
どのコーナーにも、机と椅子が配置されていて、そしてそのすべてが埋まっている。
ほとんどは、若者たち。
パソコンを広げる者。
熱心になにかを執筆している者。
イヤホンをつけて、うつぶせに寝ている者。
懐かしい雰囲気。
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図書館が勉強する若者でいっぱいの場所なのは万国共通なんだなあと、歩き回りながら、あまずっぱい気持ちになった。
高校生の頃、広尾の有栖川公園の中にある都立中央図書館にいき、勉強したり部活の準備をしたり、何より他にやってくる他校のかっこいい男の子をチェックしたりしていたことを思い出した。
あのときも、どちらかといえば不純な動機で図書館へ行っていたんだよな。
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なにせヨガクラスの帰り道。
パスポートも、免許証も、永住権カードも持っていない。
だから、図書館カードを作ることもできない。
そして、カードがないと書架のフロアには入れないようだった。
仕方ない。
ひととおりぐるりと巡ったあとはカフェで遅めの朝ごはんを買った。
観光客が来ることが少ないからなのか、ラージのコーヒーとシナモンロールで5ポンド15ペンスだった。
セントラルロンドンにしては良心的な価格だ。
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これで£5.15はぜったいお得だと思う
そして、そもそもの目的だったブックショップへ。
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年末年始の帰省前だったので、テニエルのアリス挿絵グッズをたくさん買い込んでしまった。
「キャロルはアレだけど、テニエルは真の天才さ」
レジのおじいさんが会計をしながら繰り返した。
最近の研究ではキャロルがロリータコンプレックスだったというのは後年に作られた伝説ではないかといわれている…
なんて、反論はめんどうなのでしなかったけれど。
今度はカードを作れるようにして、世界に一冊しかない「地下の国のアリス」をみにいきたいな。
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