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マイナー好きなあなたのためのロンドン食事処8選

あなたがロンドンに何度も来たことがあるのなら。
もうおいしいイングリッシュブレックファストも、フィッシュ&チップスも、リッツやフォートナム&メイソンでのゴージャスなアフタヌーンティといった王道グルメも、きっと経験済みだろう。

そんなメインストリームじゃない、別のなにかを求めている「マイナー好きなあなたのためのロンドン」シリーズ。
第三弾はお食事処。

1.まずはいきなりスペイン料理から

そもそもこのnoteを書こうと思ったきっかけは、つい最近行ったこのお店。

ここAaros QDで食べたステーキパエリヤ(お店が使う名前はトマホークライス)がめちゃくちゃおいしかったので、誰かに紹介したくなったのだ。

図柄としては目に行ってしまうお肉よりも、お米を炊いている出汁がとてもおいしかった。
たぶん、ちゃんと、手をかけた出汁。

1人前£78なので、お安くはない。

決して気軽に食べに行ける値段ではないけれど、お祝い事や特別なときにグループでとりわけながら楽しむのにはとても良い場所だと思う。

よくいわれることだけれど、大都市には世界の味が集まる。
そういう意味では、東京は「お手頃な価格で」、クオリティの高い、世界中の味が。現地に遜色なく食べられる素晴らしい都市だ。

ニューヨークやドバイに行ったって世界のおいしいものはいくらだって手に入る。
でも、結構なお金がいる。

ドバイのイタリアンレストランのメニューはすごい値段だった(特にトリュフ村に行った翌週だったから、告げられた空輸トリュフの値段に目をむいた)し、この前マンハッタンで食べたピザは、小さなおひとりサイズで$25だった。しかもさらに2割のチップ。

ロンドンだって同じこと。
お金を払えばたいていのものは食べられる。

かつてアメリカ中西部の田舎に暮らしていたとき、魚といったらツナ缶かマクドナルドのフィレオフィッシュしかない生活だった。
めちゃ貧乏な大学院生だったから、シカゴのヤオハンまで買い出しにいくなんて夢の夢。
だから、「少なくともお金をだせば、手に入る」のは、「手に入らない」よりは喜ぶべきだと思う。

シェフをしている友達に、リヨンのマルシェで買い込んできた(私の目にはみんなおいしそうに見える)カゴ一杯のモリーユ茸を渡したことがある。「あんまり状態よくないね」といいながら選別しはじめた彼は、結局手のひら一杯くらいの量を残してあとははじいてしまった。
彼がパリのお店でリエーブル ア・ラ・ロワイヤルを出してくれた時、ものすごく長い時間をかけてウサギ肉やフォアグラやトリュフ準備し、煮込み、その血をソースに仕上げていくと教えてくれた。
美しくサラリとさりげなく供されたひと皿の後ろに、厳選した食材や、ものすごい工程や、細かな仕事が隠れているのだと学んだ。

値段が高い料理には、高いなりの理由があるのだと。

だから、このステーキパエリヤをご褒美ごはんとして食べるのは、ありだと思う。

とはいえ。
そこまで財布をいためつけずともおいしいものが食べられるお店だって知っておきたい。

2.そしてポーランド

ポーランド人のカーシャが連れて行ってくれたこのお店。

便利なサウスケンジントンの博物館エリアに建つ豪華な建物にしつらえてあり、しかも本場通りのたっぷりポーションにもかかわらず、セットランチが3コースで£28.00(2025年1月現在)とお手頃だ。

ちなみに£28.00は「ポンドで給料をもらう」身には2800円の感覚だ。為替レートを勘案して5500円もする、とは思わない。
それについては下記のnoteをお読みいただきたい。

私は、ここオグニスコの夏のテラス席でキリッと冷えたウォッカショットと一緒に食べるウナギも好きだし、くいっとティスキェビールを飲みながら食べるピロエギも大好きだ。
他にも、冬の散歩でケンジントンガーデンズまで歩いたあと、バーでウォッカを舐めてパワー補給したりと、食事じゃなくても立ち寄っている。

天井の高いダイニングはかなりのスペースがあるので、大人数でディナーするにも最適。

そしてデザートもヴロツワフで食べたチョコレートを彷彿とさせる素晴らしいポーランド品質だ。

3.やっぱりイタリアン

かつて多国籍企業で働いていた時「XX人といくXX料理」シリーズとしていろんなレストランを食べ歩いていた。
イタリア料理の日として行ったのが、ピカデリーサーカスの駅前とコベントガーデンに2店舗あるチチェッティだ。

ミラノっ子のステファノも、ナポリっ子のアレも、シシリアっ子のアントニオもみんなが同意した「イタリア全部をカバーするならココ」の店。

もちろん、おいしいシシリア料理の店とか、おいしいナポリピザの店と言い出したら合意なんてないだろう。
というか、そもそも「どこ地方の料理が一番おいしいイタリア料理なのか」で、ケンカが始まってしまう。

そんななか、「この日本人に、おいしいイタリアを経験させてやるために」と共同戦線をはってくれ、いろんなイタリア料理をまんべんなくおいしくカバーしているからね、とみんなが揃って連れて行ってくれたのがここだった。
今から12年ほど前だったろうか。

総勢15名ほどの大テーブル。

トリュフ入りでクリームたっぷりのラビオリはステファノのおすすめ。
アレは真ん中にとろりとチーズが入ったアランチーノを推す。
アントニオは最後にカンノーリを食べてほしいから、ちゃんとゆとりを残しといてねという。

日本でいえば、ザンギに、きりたんぽに、江戸前寿司に、お好み焼きに、カツオのたたきに、もつ鍋も…というところか。
みんな、おらが村のおいしいものをガイジンに教えてあげたくってしょうがない。そんな情熱に充ちた楽しい一夜だった。

以来、バレエや観劇のあと、とてもよく行く店になった。
いろんなひとを連れて行ったが、みなとても喜んでくれる。

ここはすべて小皿でくるので、少ない人数でもいろんな味が楽しめる。
大勢ならば、まず一皿オーダーし、おいしかったら同じのをもう一回、なんてことも気楽にできる。

もうひとつ、チェルシーにある私が大好きなトスカーナ地方の料理が楽しめるお店もご紹介しておこう。

ここはシエナ出身のファビオが連れて行ってくれた店。
足を踏み込んだとたんに、イタリア旅行気分が味わえるお店だ。

4. チェコ、スロバキアもはずせない

もう「チェコ・スロバキア」という国はなくなってしまったけれど、ここはみずからをチェコスロバクレストラン、と呼んでいる。

ここも「XX人と行くXX料理」としてスロバキア人のエリックがみんなに教えてくれた店。

ここボヘミアハウスは、第二次世界大戦後に退役軍人のコミュニティのために始まったナショナルハウスを前身としているのだそうだ。
以来、1948 年の共産主義革命と 1968 年のソ連によるチェコ・スロバキア侵攻でイギリスへ逃れてきたひとびとに故郷の味を提供し、在ロンドンのチェコ人、スロバキア人の支えとなってきた。

普通の民家のような外見だが、中に入ると、庭がたっぷりと広がり、夏はここでピルスナー・ウルケルのジョッキなんかを手に、ガヤガヤと集う。
スビィチコヴァーやスニッツェルなど、もちろん伝統的なチェコ・スロバキア料理が楽しめる。

5.パイとパスティ

そろそろイギリス料理に触れておこう。

マイナー好きと謳うnoteだから、もちろんフィッシュ&チップスの店でもローストビーフの店でもない。

キュー王立公園のすぐ近くにあるこの店は、俵屋吉富が「雲龍」で知られ、亀屋万年堂が「ナボナ」で知られるのと同様、「メイドオブオナー」というシュークリームのようなお菓子で有名だ。

いや、有名以上だろうか。
この店のことを「ニューエンズ」と呼ぶ人はいない。
みんな「キューのメイドオブオナー」と呼ぶのだから。

だ、けれど。
正直、その名代のお菓子の味はまあまあ。

この店で味わっていただきたいのは、むしろパイやパスティなのだ。

昔は店頭でグラム売りだったので、すべての味をちょっとずつ買えたのだが、
いまはもうスライスかホールで買うように変わってしまった。

日本だと、パイと聞くとアップルパイのような甘いもののイメージが強いかもしれない。
でも、イギリスではむしろパイといったら、ステーキパイやチキン&ハムといったしょっぱい中身が主流だ。
ちなみに、家庭では肉屋などで買ってきたパイやパスティはそのまま食べるのが当たり前。(パブでパイを頼むと熱々にマッシュポテトを添えグレービーソースをかけたのがだされる)
私はつい温めてしまうのだが、そうすると中身にゼラチン質や脂身が多いので、溶けだしてくるので要注意。

そしてパスティ。
これは、かつて一日中まっくらな坑道で働く炭鉱労働者のお弁当だったもの。破れにくい硬めの生地のなかに牛や羊のひき肉を包んである。

ポケットにいれて炭鉱に潜り、薄暗い中手探りで食べる。
炭で汚れた手を洗うことはできないから、包んだ絞り口をつかんでそれ以外のところを食べたらしい。
だから伝統的なパスティは上に少し武骨なくらいとんがっている。

濃い目の中身がとてもおいしい

もちろん甘いケーキもいろいろ売っている。
イギリスの典型的な(つまり素朴な)アップルパイも食べられる。

6.とはいえパブも押さえておこう

イギリスなのだから、やっぱりいくつかパブもご紹介しておこう。

まずはセントラルロンドンにある古いパブを。

ジ・オールド・チェシャ・チーズは、13 世紀にはカルメル会修道院の一部だった場所で1538 年からパブとして営業していたという。
しかし1666 年のロンドン大火で焼け、再建された。

だから看板には「再建1667年」と描いてある。

以前書いた8選noteで触れた食肉市場スミスフィールドマーケットからほど近いこのパブは、そもそもチョップハウスだった。

チョップハウスのチョップとは、ポークチョップやラムチョップと云うように、あばらに沿った肉の部位だ。
そこから、ステーキを出すレストランのことをチョップハウスと呼ぶ。

アガサ・クリスティの1924年の作品「100万ドル債券盗難事件」では、エルキュール・ポアロがここチェシャ・チーズで食事をとるシーンが描かれており、素晴らしいステーキ・アンド・キドニー・プディングを出すと叙述されている。

もうひとつ、洗練されたすてきブリティッシュパブを。

グローブ座でシェイクスピアを観るのはロンドンの夏の風物詩。
その劇場のパブであるスワンは、開演までの時間にご飯を食べたり一杯ひっかけるだけではもったいないパブだ。

なによりもテムズ川を見下ろす素晴らしいロケーション。
お値段はすこし観光プライスだけれど、食べものはどれもおいしい。

番号札が木靴だったり、最後のお会計がシェイクスピアの本で出てくるなどの小さな気遣いも嬉しい。

食事をするなら上階のレストランのほうが落ち着いてよい。
パブ階にしても、レストラン階にしても、予約をしておかないと混みすぎて席が見つからない可能性が高いので、要注意。

7.ピリッとひきしめ

立地がよい、ということでいえば、コベントガーデンの真ん中(3で書いたチチェッティのコベントガーデン店の並びにある)になぜかあるこのカジュアル中華も絶対のおすすめ。
お手軽プライスで、ピリッと辛く、美味しい料理が食べられる。

ビャンビャン麺(𰻞𰻞麺)は中国の陝西省でよく食べられている幅広の手延麺。(どうでもいいけど、この漢字、どう考えても極細ペンなしでは漢字練習帳のマスに書ききれない)

この店ではキッチンの右手前でおじさんがベローンベローンと生地を伸ばし作っているのが眺められる。

オープン当初はふらりと食べたいときにいつでも簡単に入れたけれど、最近では予約していないと待つことも多くなった。
おいしいけれど、こんなプレミアロケーションでこんなカジュアルな店が生き抜いていけるのか、という心配は杞憂だった。
いつもしっかり賑わっていて、この先もおいしい麺を食べさせてくれそうだ。

8. 締めには…

「食事」処ではないのだけれど、最後に訪ねてほしいのは、ミルロイズ。
ウイスキーが博物館のように置いてあり、楽しめる店。

「ウイスキーバー」といえば、重厚で中の覗けないドアをドキドキしながら開けるイメージがあるが、ここミルロイズは大違い。
フラッと入りやすい雰囲気なのが、いい。

見た目はまるでコーヒーショップ

この店の真骨頂は、知らない人やバースタッフたちと雑談しながら、ありとあらゆる壁におさまったウイスキーを試すこと。
ちゃんとチェイサー用のビールもドラフトで用意されている。

排他的じゃない。
うす暗くない。
一見さんフレンドリーなウイスキーバー。

しかもソーホーのど真ん中にあるので、観劇の後やディナーの後もう少し余韻を楽しみたいとき、気軽に立ち寄れる。
日本のウイスキーは人気なので、日本人だというだけで他のお客さんとの会話も始まるはず。

秘密クラブぽいウイスキーバーのほうが好きな人のためには、入り口が分かりにくい地下フロアが用意されている。

そんなあなたは、こちらからダークな地下へ足をのばすことをお勧めする。

入り口です

マイナー好きなあなたのための、お食事処をあげてみた。

もしあなたがフィッシュ&チップスやアフタヌーンティだけじゃないロンドンの味をお探しなら。

もしかしたら何かのお役に立つかもしれない。

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ころのすけ
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