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江戸時代における隠れたシャーロック・ホームズ。それが半七だ!

「半七捕物帳」って何? そんな方へ、小説の一片を!

ご紹介するのは、岡本綺堂作「お文の魂」から。
十二歳の「わたし」は、Kおじさんから、ある幽霊騒動の顛末を聞きます。
それは、蛤御門の変があった年(1864年)のこと。

ある旗本の奥方が女の幽霊が出ると言い出したのです。幼い娘も「ふみが来た」と泣いて怖がり、奥方の話を聞き流していた旗本も、頭をかかえます。Kおじさんは、この旗本に頼まれ、幽霊騒動を解決したのです。

実は、この幽霊騒動の裏に隠された真実を推理したのは、Kおじさんが助けを求めた、神田の半七という岡っ引きでした。

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Kおじさんの話に深い感銘を受けた「わたし」は、その十年後、ある縁で半七老人と仲良くなります。赤坂の隠居所を度々訪れ、「わたし」は、半七老人の昔語りを聞き、手帳を埋めていきます。この手帳から「半七捕物帳」が誕生します。

「わたし」が、Kおじさんの話を振り返り、「半七の活躍は、まだまだこんなものじゃない」、と熱い思いを発した様が、次のように描かれています。

幼いわたしのあたまには、この話が非常に興味あるものとして刻み込まれた。しかしあとで考えると、これ等の探偵談は半七としては朝飯前の仕事に過ぎないので、その以上の人を衝動するような彼の冒険仕事はまだまだほかにたくさんあった。彼は江戸時代における隠れたシャアロック・ホームズであった。

Kおじさんを推理で助けた当時の半七は、年の頃は四十二三歳です。正直で淡白な江戸っ子風で、縞の着物と羽織をまとう体は痩せぎす。細長く浅黒い顔に、高い鼻、そして芸人のように表情に富んだ眼を持っていると描かれています。

一方、「わたし」が訪ねる半七老人は、七十歳を過ぎてもみずみずしく、養子に唐物屋を商わせ、自分は楽隠居でぶらぶら遊んでいるとされています。

男盛りの半七の活躍はもちろんのこと、ご維新の動乱をくぐり抜けた半七老人が、かつての捕り物を淡々と語る様子も魅力的です。そして、明治も江戸も直接には知らないけれど、明治から江戸末期を振り返る視線が新鮮で、驚きました。

お立ち寄り頂き、ありがとうございました。

物語の一片 No. 20 岡本綺堂作「お文の魂」


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