先の見えない霧の中だけれど、もう少し進んでみたい
ほんの感想です。No.15 芥川龍之介作「影」1920年発表、
「妙な話」1920年発表
芥川龍之介の「秋」には、人妻の、かつては結婚も噂されていた男性への未練が描かれていて、この先彼女がどういう選択をするのかが、とても気になりました。
「秋」が発表されたのは、1920年。同じ頃に発表された「影」では、夫が妻の不貞を疑い、「妙な話」では、既婚女性が不倫を思いとどまることが描かれていて、1920年頃に芥川龍之介が書いた作品に興味を覚えました。
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この時期について、岩波文庫の芥川龍之介「年末の一日・浅草公園他十七篇」の石割透解説の二つの指摘が、とても参考になりました。
ひとつは、心身の疲労・衰弱から、歴史小説とも言われた強固な文体と緊密な形式での短編小説の制作が難しくなった芥川龍之介が、新たな方法、文体、表現形式を求めさすらい始めたのが、1921年あたり、というのです。
そして、今ひとつは、文芸における女性読者の増加です。背景には、第一次世界大戦、ロシア革命後の階級意識、社会主義思想の高揚、女性の意識の覚醒、ダダイズムなど新たな芸術思想が、ほぼ同時代に日本に移入され、また、関東大震災の後にモダンな風俗が都市部に浸透したことを挙げておられます。
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「影」は、妻の不貞を疑う男が、自宅の妻を見張っていたところ、男が妻を殺す場面を押さえたが、その男は彼のドッペルゲンガーでした。そして、次の場面で、この話は「影」という映画のストーリーらしいことが書かれています。
この作品には、妻への疑いに囚われた夫の苦しみや妄執が感じられ、それがテーマとも思われました。ところが、映画館の女性の言葉が、最後に言った「『影』のことは忘れましょう」でわけがわからなくなりました。
「妙な話」は、ある男性が友人に、自分の妹夫婦が経験したという、妙な話をします。それは、妹が、国外にいる夫を心配していると、赤帽(駅構内で旅客の荷物を運ぶ人)が現れて、夫に様子を見てきて、後日教えてくれる、というもの。しかも、国外にいる夫も、赤帽らしき者を見たというのです。その話を聞いて、友人は、男の妹が、自分に会いにこなかった理由を得心する、というオチがあります。
この作品には、謎の人物(赤帽)が空間移動(妻のいる日本と夫がいる国外の地)を行き来したらしい点で、「この謎を放っておいていいのですか」、という気持ちになりました。
以上のように、これら二作品は、筋だった説明をすることが難しい。そして、濃い霧の中で視界が塞がれたような、不安を感じます。しかし、そのただならぬ雰囲気は魅力的で、1920年以降の芥川龍之介の小説世界に踏み込んでいきたい、という気持ちになりました。
よろしかったら、芥川龍之介作「影」「妙な話」
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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